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第18話
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昨日も結局、蒼さんからの連絡がないままだった。迷惑だと思われるのが怖くて、電話は出来なかった。
和菓子屋の作業時間に合わせて起き、いつもより1時間以上は早い時間のバスを待つ。
草部家の皆んなにもっと寝てていいよって言われたけど、早い時間のバスに乗ろうって決めてたから。
バスが空いてるのを確認して乗り込む。席に座り、ほっと息を吐いた。窓から町を眺める。そんなに都会じゃないから、建物も高くない。実家も田舎だし、俺には合ってる。
スマホに差し込んだイヤホンを耳に入れ、音楽のリストからクラシックを選んでパゴダを聴く。ドビュッシーのピアノ曲集の版画の三曲、パゴダ、グラナダの夕べ、雨の庭と続けて聴く。
今度はきらきら星変奏曲。聴きながら、蒼さんがピアノを弾いてくれていた姿が思い浮かぶ。アレンジしていたのかな、もっと音が弾んでいて楽しそうだった。
「はぁ…。」
会いたい。
聞いてもらいたい話。聴きたい音。
今日もメールをしてみよう。もしかしたら、返信が来るかもしれない。
早い時間に家を出て、遅い時間に帰って…そんな事を繰り返して二週間。その間、ずっと蒼さんからの連絡が無いまま…そんな月曜日。
雨の中、傘を差してバス停に立っていた。また中々乗れなくてバスを見送り、ただ待つのもきついから次のバス停まで歩いて、また乗れなくて見送って次のバス停へ…。
ようやく帰宅した時には、雨に濡れたTシャツが張り付きすっかり体が冷えてた。こんな事も、梅雨の時期だから何度目だろう。
「ただいま戻りました、」
タオルを持って、腕を組んだ瑆司さんが待ち構えていた。
「お帰り。やっぱり濡れてる…。」
タオルを差し出されて受け取る。濡れた髪から落ちる雫を拭う。
「和君、ちょっと話しをしよう。その前に、お風呂で体を温めておいで。風邪を引いてしまうよ、」
「……はい。」
いい加減、不審に思われていたのかもしれない。最近、瑆司さんは物言いたげに俺を見ていた。気付いていたけれど…。
それに、睡眠不足と食欲不振で、休みだった土曜日と日曜日はあんまり部屋から出なかったから…。
「ご飯は用意して和君の部屋に持って行くから、そこで話そう。」
「はい。」
瑆司さんがリビングへ向かう。俺は二階へと上がった。
この二週間は、夕食を皆んなと一緒に摂れていなかった。すごく疲れてて、夕食を食べずにお風呂に入って直ぐ寝る生活…今も、体が重い。
よろよろしながら、着替えとバスタオルを持って浴室へ向かった。
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