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第30話
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日曜日、蒼さんと約束の日。手に提げた袋には、あんみつと桃味の饅頭…昨日のお店の残り物だけど。蒼さん、食べれるかな?
「お邪魔します。」
「うん、」
緊張しながら促されて中に入る。見かけも中身も、想像していたよりも普通の、まだ新しい一軒家だった。
朝から草部家に迎えに来てくれて、一緒にここまで歩いて来た。10分もかからない距離、バス停の近くの住宅街。
「綺麗に片付いてるね、蒼さんが掃除してるの?」
「いや、親が家政婦を雇ってる。俺は、料理とか掃除とかあんま出来ねえし、それより勉強しろってさ。」
「あ…そうだよ、進学校だもんね。勉強が大変なのに、いつも会って貰ってごめん。」
俺は今頃気付いたけど…蒼さんの負担になってたかも。
「えっ、何でそんな事言うんだよ。」
「補習と塾で忙しいのに、更に俺の仕事の時間に合わせて会ってくれたりしてて、…友達とかとも遊べないよね。気付かなくてごめん、」
「はぁ…もう、んなの気にすんなよ。俺が会いたいから会ってんの。…でも、和が嫌なら少し控える。あーでも、最近は塾の所為であんま会えてないだろ…これ以上控えるのは難しい。」
「…俺は嫌じゃないよ。…俺も会いたい。」
蒼さんの目が見開いて、
「何だよ…ズルいな。俺ばっか、好きになってる気がする。」
細くなって微笑む、俺も微笑み返す。ああ、大好きだって感じる、心の音はキラキラって輝いて踊る。
「俺も。また、もっと好きになった。」
「ははっ、じゃあ一緒だな。」
「うん。」
「うわぁ、かっわいいっ!」
アルバムに挟まれた写真。赤ちゃんの頃の彼。少しづつ成長して、ハイハイしてるのかな、あ、次はもう1人で立ってる。幼稚園、お遊戯会かな…みんなで踊ってる写真。蒼さんの目付きはもう既に鋭い、でもそこが可愛い。
「和、アイスコーヒーにミルクと砂糖入れる?」
「うん。ミルクたくさんでお願いします。」
「了解、」
蒼さんがキッチンから、2人分のグラスを持ってこっちへ来た。
リビングのソファーの前のローテーブルにアルバムを乗せて見ていた俺の隣りに立って、空いたスペースにグラスを置くとラグの上に座った。
「蒼さん、この隣りにいる赤ちゃんは誰?」
小学校の制服姿の蒼さんが、くりくりした目の赤ちゃんの隣りに寝そべってる写真。2人ともほっぺが赤くてぷくぷくで、すっごく可愛い!
「ああ、弟。」
「えっ!弟がいるの?」
「うん。今は親と一緒に海外だけどな。まだ小学生だから連れてかれた。俺も面倒見れないし。」
「あー、そうだよね。学校の終わる時間とかも違うし、難しいよね。今、小学何年生?」
「4年生、6歳離れてる。和と俺の年齢差と同じ。」
「そっかあ、蒼さんが小学4年生の時に、俺は高校1年だったんだ。…なんか、不思議。」
今は俺よりも大きい蒼さんが、俺が髪の毛に女子からピンとか留められてた頃にランドセル背負ってたなんて。
「本当だな。」
一緒にラグの上に並んで頭を寄せてアルバムを見る。次のページを捲ると赤ちゃんがハイハイしてて、蒼さんも隣りで同じポーズをしてる。うふふ…可愛い。
「弟君の名前は何ていうの?」
「翠。」
「みどり君。どんな字?」
「羽の下に卒業の卒を書くやつ。カワセミ。」
「ああ!翠君。蒼さんと一緒で色の名前だね。」
「うん。母親の趣味。」
「そっかあ。素敵な名前だね。」
「俺は、和って名前が1番好きだけど。」
恥ずかしい、顔が赤くなる。冷房入れてくれてるのに体が熱くなる。
慌ててミルクがいっぱい入ってる方のアイスコーヒーのグラスを掴んだ。
「いただきます、」
口に入れると、ほんのりと甘くて優しいミルクの味。中に入った氷がぶつかって、カラリと涼し気な音を立てる。
「美味しい!」
「そっか。良かった。」
蒼さんもアイスコーヒーを飲んでる。ブラックかな。ミルクは入って無い。
俺はグラスをテーブルに戻した。アルバムの続きに目をやる。
「和、」
名前を呼ばれて彼を見る。唇が重なった…あ、ブラック。ほんのりコーヒーの香りと苦味。甘くないけど、甘いキス。
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