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月の舞姫・4
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きり、きり、きり、と3連続のターンと共に、音楽が終わった。
オレは最後のポーズを決めたまま、肩でぜいぜいと呼吸した。幸せと酸欠でくらくらする。視線を王様から外せない。
一拍置いて、どわっと大広間中に歓声が響いた。
「美しい」
「素晴らしい」
「なんて見事な」
口々に賞賛が贈られる。拍手の嵐に目まいがする。
「こんな舞姫を隠していたとは、座長も人が悪い」
誰かの言葉に、「いや、この子は……」って座長が言いよどむのが聞こえたけど、オレはそれより王様の方が気になった。
整った顔に笑みを浮かべ、王様がゆっくりと立ち上がる。
彼がこっちに歩いて来るのが分かって、途端に足から力が抜けた。へなへなと床に座り込み、両手がぱたんと垂れ下がる。頭の中がぐるりと回って、体もぐらついて倒れそう。
なのに、それでも王様から目が離せなくて……。
「見事だった」
深みのある声がそう言って、オレを軽々と抱き上げた。
「オレの勝ちだ」
耳元で囁かれ、全身が震える。言葉も出せずに縋り付き、王様の首に両腕を巻く。もう目を開けていられなかった。くらくらした。
「お、お、お待ちください。その子は……!」
座長が慌てたように言ったけど、目まいがヒドくて、ハッキリとは見えなかった。
一座のみんながどこにいるのか、どんな顔してるのかも分からない。
兵士たちの槍に阻まれ、座長は王様に近付けない。王様に抱き上げられたオレにも近付けなくて、ただオレの名前を呼んだ。
「アイタージュ!」
アイタージュ……月の王冠、っていう意味の、オレの名前。
今まで散々「名前負けだ」とか「ふさわしくない」とか言われて笑われてばかりだったけど、今はもう、呼ばれても胸が痛まない。
月はずっとオレの頭上にあって、ずっとオレを見ててくれた。
今、ここから月は見えないけど、王様がいるから大丈夫。
何もかも委ねて目を閉じると、抱き上げられたまま、大広間から連れ出された。
そのままどこかに運ばれて行くけど、どこへ行くのかも分からない。もう一度さっきの後宮に行けるのか、それとも、元の暗い廊下に捨てられるのか?
どちらでもないと知ったのは、月明かりの部屋の中、広く豪華な寝台の上に、ぽいと投げ落とされた時だった。
背中が弾んだあと、目を開ければ、すぐ近くに王様の顔があった。
ゆっくりと顔が寄せられ、唇が重なる。
これから何が始まるのかも分からず、求められるまま、王様の舌を受け入れた。
「ん……」
気持ちよさにぼうっとする。
王様の舌は厚く、長く、オレの舌を掘り起こし、優しく口中を愛撫する。
離れては重なり、重ねては離れる唇の合間に、伸ばされる舌が、首筋を這う。
「あ……っ」
思いがけない気持ちよさに、背中の後ろがビリビリ痺れた。
王様がマントをばさりと放った。豪華な上着の留め具を外し、それも床に脱ぎ捨てる。
カシャンと響いた硬い音に、ビクッと身を起こしたけど、王様に肩を押されて、再び寝台の上に倒された。
ゆっくりと絹の衣装がはぎ取られる。
細くてガリガリの貧相な体があらわにされ、オレは恥ずかしくて、両手を交差して胸元を隠した。
「隠すな」
低い声で囁かれ、そのまま耳を舐められる。着けたままの耳飾りが、ちりっとかすかな音を立てた。
「だって……んんっ」
こめかみを舐められ、額を舐められ、眉間に唇を寄せられて、思わず上ずった声を漏らす。
もう一度唇を重ねた後、王様が尋ねた。
「初めてか?」
正直なところ、意味が分からなかった。
「何が、ですか?」
首を傾げて訊き返すと、それこそが答えだったようで、王様がふっと笑った。
「初めてなんだな」
黒い瞳が、オレの顔を覗き込む。
なんて美しい人だろう。なんて完璧なんだろう。うっとり見上げてると、耳元でおごそかに言われた。
「いいか、今から始まるのは儀式だ」
「儀式……?」
「そう。お前がオレのものになり、一生オレに仕えると誓う儀式だ」
王様は、胸元で交差させてたオレの両手首を掴み、そっと開いて、顔の両脇に押し付けた。手首に着けたままの鈴が、耳の横でシャリンと鳴った。
「誓うか?」
短く問われ、オレはうなずいて答えた。
「誓います」
王様は満足そうに微笑んで、オレの胸元に口接けた。
肉付きの悪い、貧相で薄い胸を撫でながら王様が訊いた。
「お前、踊りながら誰を見てた?」
ドキッとしたけど、誤魔化しようがない。
「王様を見てました」
正直に答えたオレの脳裏に、真っ白な満月が煌々と浮かぶ。王様の唇が胸を這う。
胸筋を押し撫でられ、乳首を舐められて、思わず「ひゃっ」と声を上げると、王様がくくっと笑った。
「色気のない声だな」
「だって、そんなとこ……っ」
片方を舌で、もう片方を指先でつままれて、息を呑む。痛い。気持ちイイ。乳輪を甘噛みされると、もう喋るだけの余裕もない。
「んっ、うっ!」
声が漏れるのが恥ずかしくて、丸めた手の甲を口元に当てる。
胸を、鎖骨を、首筋を舐められ、再びゆっくりと胸に刺激が戻って来る。
大きくて温かい王様の手が、オレの胸を撫で、背中を撫で、頭を優しく撫でてくれた。
何度目かの口接けの後、王様がふいに身を起こす。
おそるおそる目を開けると、彼がシャツを脱ぐのが見えた。月明かりの下、広い肩とたくましい胸板が現れて、ハッとする。
なんてキレイな裸なんだろう。筋肉の張った厚い胸、力強い二の腕、肩から首への、美しいライン……。
王者の体だ。剣の使い手、くろがね王の体。貧相なオレとは全く違う。
「何を見てる?」
「王様を……」
オレの上に王様が覆いかぶさり、また唇が重なった。
一瞬、裸の胸と胸とが触れ合い、人肌の気持ちよさに体が震える。
「なら、これからもずっとオレだけを見ろ」
キッパリと命令されて、黙ってうなずく。
命令なんてされるまでもなく、もう王様しか目に入りそうになかった。
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