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黄金の王妃・4
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夜にはまた、情熱的に愛された。
気が付くと朝で、裸のまま王様に抱き起こされ、そのまま一緒にお風呂に入った。
キクエさんたちがいるのにも構わず、お風呂の中でもイタズラを仕掛けて、楽しそうに笑う王様は、本当にくつろいでいるみたい。
冷たい水を、口移しで飲ませて貰ったり。夜の間に付けられた唇の痕を、「花びらのようだな」ってつつかれたり。舐められたり。
「イヤもダメも禁止だと言っただろう」
そう言われると抵抗もできなくて、久々にすっかりのぼせてしまった。
お風呂の後は、また2人だけの朝ご飯。それから少し湖の岸辺を散歩して……穏やかな時間をしばらく過ごした。
でも陽が高くなると同時に、王と王妃としての公務が始まってしまった。
王様に一目お会いしたいって、謁見を希望する貴族や有力者は、とても多いみたい。そんな人たちが入れ代わり立ち代わり訪れて、城の外にまで行列を作った。
オレは目いっぱい着飾らされて、王様の隣の玉座に座った。
踊り子として宮殿の宴会で踊った時より、もっともっと豪華で華やかな格好だ。銀の刺しゅうをされた白い服に、金糸で飾られたベルト、たくさんの宝石の首飾り。宝石を縫い込んだ白いマントに、王妃の金の冠。
王様も正装だから、豪華な黒いマントに、金の王冠を戴いてる。
こういう謁見は、すごく緊張する仕事だ。
「お前は何も喋らなくていい。オレの隣で笑っていろ」
王様は、いつもオレにそう言ってくれるけど、姿勢よく座ってるだけで精一杯で、笑うことだってあまり上手にはできてない。喋るなんて、もっとハードル高いと思う。
それに、適当にはできないんだ。ちゃんと勉強しないと。
例えば……誰になら笑いかけていいとか、ダメとか。誰からの贈り物なら受け取っていいとか、ダメとか。せめてそういうのだけでも、王様に一々指示を仰がなくて済むようになりたい。
午後の授業の時にそう言ったら、ビルジ先生は深くうなずいて、「そうですねぇ」と笑った。
「陛下がご不在の時は、王妃様が代理を務めなければなりませんからね。王妃様の判断で決めていい事と、陛下の判断を待たねばならない事と、そのくらいの区別はおできになった方がよろしいでしょうねぇ」
それを聞いて、すごく焦った。
「そうです、よね」
神妙にうなずきながら、冷や汗をかく。
オレの判断で決めていい事と、悪い事の区別? それはすごくハードルが高い。笑うより、喋るより難しくて、途方に暮れそう。
旅芸一座の使いっパシリでさえ、満足にできなかったオレに……できるようになるのかな?
それに今、気になる言葉も聞いた。
「王様がご不在、って……?」
王様がお城にいないってこと? そんなこと、あるのかな?
オレがお城にいるのに、王様がお城にいないって――どんな状況だろう?
「例えば、戦争の時ですね」
ビルジ先生が、淡々と言った。
「せっ、戦争!?」
思わずガタッと立ち上がり、窓の外に目を向ける。
そんな物騒な話は、地方を巡ってても聞いたことがなかった。だってオレ達、国境を越えてあちこちで巡業してたんだよ? そんなことができるような状態で、戦争なんて起こりようがなくないかな?
すると、オレの戸惑いを見て、先生が苦笑した。
「驚かせて申し訳ありません。例えばの話ですよ」
そう言われて、へなへなとイスに座り直す。例え話をされただけなのに、真剣に焦っちゃって恥ずかしい。
「戦争以外でも、例えば、こうした視察に陛下だけで向かわれる事もあるでしょう。今回は大臣に留守をお任せになりましたが、今後は王妃様が頼まれる事も、おありかと思いますよ」
ビルジ先生の言葉に、呆然とうなずく。
王様と離れて行動するなんて、今まで想像したこともなかった。何日もお会いできないなんて、考えられない。
そりゃ、オレだって、王様がどんなお忙しいかは分かってるつもりだ。
朝から晩まで会議中だったりもするし、執務室は書類の山だし。今だって、オレは奥に引っ込んで勉強させて貰ってるけど、王様は謁見の行列に対応してる。
でも……王様がお忙しいのと、王様が不在になるのとは、話が別だ。
留守を預かる不安より、王様と離れてしまう方が不安。
聡明で勇猛な「くろがね王」の王妃様にはして貰ったけど……オレは以前と変わらず、どんくさくてぼんやりなままだ。とてもセレム様のように、完璧な人にはなれそうにない。
ビルジ先生が口にした「例えば」の話は、勉強の合間も、お茶の時間になってからも、ずっと心に引っかかったままだった。
夜にはまた宴会があった。
いつものようにお風呂で磨かれ、バラの香油でマッサージされ、きれいにお化粧までされて、また目いっぱい着飾らされた。
華やかな色の衣装を着て、たくさんの宝石を身に着ける。
「まあ、お美しい」
「まあ、お似合いですわ」
オレに着付けをしながら、侍女たちはいつもそう誉めてくれる。
「美しい」と「みにくくない」は大分違うとやっぱり思うけど、この国の王妃になっちゃったオレに、面と向かって「みにくい」って言う人はもういない。
唯一そう言えるのは、王様だけだけど……王様はいつもオレを甘やかしてばかりで、着飾ったオレを見ても「よく似合ってる」って誉めてくれてばかりだった。
「もっと自信を持て」
王様にはよくそう言われるけど、いくら肉付きがよくなって、ガリガリでも貧相でもなくなったって、美しくなれないのは分かってる。
支度して王様の元に行ったら、王様はふふっと笑って、「今日もきれいだ」って誉めてくれた。
王様にエスコートされて大広間に入ると、みんなオレを見て、感嘆の声を上げる。
オレに見惚れてるんじゃなくて……多分この華やかな衣装や、豪華なたくさんの宝石に、みんな感心してるんだと思う。
宝石ばかり誉められたって恥ずかしいだけなんだけど、でも、みすぼらしい格好で笑われたり軽んじられたりするよりは、衣装だけでも「素晴らしい」って誉められた方がずっといい。
オレは、できるだけ優雅な足運びで歩き、できるだけ優雅におじぎをして、王様の隣に、できるだけ優雅にそっと座った。
美しく完璧な王様の横にいると、色々比べられてしまうのは仕方ないけど……でも、素晴らしい王様の引き立て役になれるなら、オレは隣にいられるだけで十分だと思った。
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