アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
黄金の王妃・8
-
「整列!」
近衛隊長の号令が、大広間に響いた。
「私以下、第1小隊は陛下を護衛して宮殿に帰還! 残りの者は、引き続きこちらに残り、王妃様の護衛ならびに城の警護を命じる!」
「はっ!」
近衛隊長の命令に、大広間中の近衛兵が、一斉に手を胸に当てて敬礼した。
王様はオレの腰を抱き、オレを連れて近衛兵達の正面に立った。
兵士達が、一斉にひざまずいて頭を下げる。それを黙って見回した後、王様が耳に心地よい声を張り上げた。
「これより急いで宮殿に行き、用事を済ませ、またすぐにこの城に戻る。隊長以下、第1小隊の者には強行軍になるだろう。また、残りの者には我が妃を、信じて預けることになる。任せて良いか?」
王様の言葉に、皆が口を揃えて「はっ!」と応えた。その声は、大広間中をビリビリと震わせた。
兵の前に立ち、命令を下す王様は、とても堂々として格好いい。完璧な支配者で、優れた国主――勇猛で聡明な「くろがね王」だ。
「王妃」
くろがね王はオレをそう呼んで、皆に聞こえるよう、大声で言った。
「後を頼む」
……ああ、委任の儀だ。オレは、何て応えればいい?
お待ちしています、でもなくて。心細いです、でもなくて。不安です、でもなくて……。
「お任せ下さい」
オレの言葉を聞いて、王様は精悍な顔で笑ってうなずき、マントをひるがえして一歩進んだ。
「出発!」
近衛隊長の号令とともに、近衛兵が立ち上がりザッと左右に分かれて花道を作った。
王様がその間を通って行く。すぐ後ろに近衛隊長が続き、そして2人が前を通るごとに花道の両側から兵士が進み出て、王様たちの後に続いてく。
大広間の大扉が開けられる。
その扉をためらいもしないで、王様達は出て行った。
一方のオレは、残りの近衛兵の前にひとり取り残されて、ごくりと生唾を呑んだ。
1人で立つなんて初めてで、何か言わなきゃいけないって分かってるけど、緊張する。みんなの顔を見回すことも、ちょっとできない。
どうしようって途方に暮れそうになったけど、ふと目の前に、エール君がいるのが見えた。その隣にはイゼル君もいて、真面目な顔でオレを見てる。
ああ、そうか、みんな味方だよね。
そう思った途端力が抜けて、息が少し楽になった。両手をぎゅっと握り締め、すうっと息を吸って、ゆっくりと吐く。
「王様の留守を、一緒に守って下さい」
オレの言葉に、近衛兵の皆は一斉に敬礼して、「はっ!」と応えた。
大広間がまた、ビリビリと震えた。
王様がいない間、謁見は全部お断りする予定だった。でも、王様がいなくても、オレが代わりに話を聞くだけでいいっていう人が、意外に多くてびっくりした。
ビルジ先生に斜め後ろに立って貰って、できる限りそれに応えることにしたんだけど、ハッキリ言ってオレなんかに、どうして会いたいのか分かんない。
その内の1人が、湖のすぐ向こう側、西の隣国からの使者だ。
彼はこの間、シノーカちゃんの到着で小さな騒ぎが起きた時、この部屋でオレと王様と会っていた。だからかな、王様の不在に関して、何かピンときたらしい。
「国王陛下は、先日の『奥向きの話』とやらのせいで、首都に戻られたのではありませんか?」
いきなりズバッと訊かれて、一瞬返答に困った。
「王妃様のお立場をおびやかすような、どこかの姫君がご妾妃になられたのでは?」
ちらっと隣の椅子を見るけど、いつもそこにいてくれた王様はいない。
「オ……わ、たしは、何も……」
しどろもどろのオレに代わって、凛と応えてくれたのは、ビルジ先生だった。
「失礼な物言いはお控え下さい。それに、たとえ後宮にどなたかがお入りになったとしても、陛下のお手がつかれぬ限りは、お妃とは呼びません。もっとも、そのような事態にはなり得ませんから、ご心配にも及びません」
けど、使者はにこっと笑っただけで、「それは失礼いたしました」と頭を下げた。
そして、こう言ったんだ。
「では、お詫びのしるしに、花火を献上させて頂きたいのですが」
「花火……?」
思わず呟くと、使者が少し微笑んだ。
「火薬を使いますもので、我が国の名産品でございます。夜空に光の花を咲かせてご覧にいれましょう」
夜空に咲く光の花。そう聞いて、ふと昔の記憶がよみがえった。
「あの、ひゅうって音が次々鳴って、夜空に星よりも明るい光がパアッと散る……?」
「ええ、そうでございます。花火をご覧になったことがおありですか?」
その問いかけに、じっくり考えながら「はい」と答える。
あれはいつ、どこで見たんだろう? すぐには思い出せないけど、旅芸一座にいた頃なのは間違いない。
上空に高く上がって、光と色を散らす花火は、子供心にとてもキレイだった。口を開けてぼうっと見上げてたような気がする。
「湖の方から上げさせて頂ければ、水面にも花火が映りまして、大変美しいかと存じます。お外にお出ましにならずとも、バルコニーからご覧頂けましょう」
使者の話を聞いて、ふと浮かんだのは王様のことだった。
水面に映る花火は、きっと、すごくキレイなんだろう。でもそのキレイな花火を、王様もいないのに、オレだけが見たって仕方ない。
助けを求めてビルジ先生に視線を送ると、先生はにこっと笑って、代わりに返事をしてくれた。
「大変ありがたいお申し出ですが、そこまでして頂くのも恐縮ですね。何もお返しできませんので」
そしたら、使者の人もにっこり笑って、軽く頭を下げて言った。
「いえいえ。私は、ただ王妃様をお慰めしたいだけでございます。国王陛下がお一人で首都に戻られ、さぞお淋しい思いをされておられるのではと、お察ししますれば」
それに……と言葉を切って、使者はオレに優しく笑った。
「よそ様方のどんな贈り物や宝石より、我が国の花火によって王妃様がお元気になられましたら……それが何よりの幸いでございます」
それは名産品の宣伝なんだろうか? やっぱり、政治的な事なのかな? それとも、政治的な事を理由にしたご厚意?
どちらにしても、即答で断っちゃいけない気がした。
「お返事は、後でもよろしいでしょうか?」
オレがそう言うと、使者は頭を下げて、「勿論でございます」ってにこやかに応えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 45