アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
黄金の王妃・13
-
「し、シノーカちゃん、逃げて……」
目の前の剣げきに呆然としながら、オレは侍女に呟いた。
だって、シノーカちゃんは関係ない。
兵士でもないし、女の子だし、こんなに震えて怖がってる。
なのにこのままじゃ、オレを殺す前に、まずシノーカちゃんが殺される。それか、シノーカちゃんごと……あの長い剣で、グサッと?
「逃げて、早く!」
手首を掴んで引き剥がそうとしたけど、シノーカちゃんはオレに覆いかぶさって抱きつき、泣きながら首を振った。
「イヤです! わたし、後宮、お守りできなかっ……王妃様、今度こそお守りしま……っ」
「そんな……」
そんなのオレ、シノーカちゃんのせいだなんて思ってないのに。むしろ、馬を走らせてここまで知らせに来てくれて、感謝してるのに。 まだ気にしてたのか?
「そんなの、もういいから」
オレはそう言ったけど、シノーカちゃんはやっぱり首を振って、オレから離れようとしなかった。
ヒュゥゥー、バン! バリバリバリ。
ドドン! ヒュヒュゥゥー、ドン! ババン!
バリバリバリバリ、ヒュゥゥー、バン!
ドン!
花火が、暗い室内を切れ切れに照らす。
イゼル君が剣を取り落し、うずくまった。
「………!」
エール君が何か叫んだ。
きらめく長剣。1対3なんて、到底無理だ。他の兵士は気付いてないの? 早く呼びに行かないと。でも、足が震えて動けそうにない。
敵の1人が、がっくんと体勢を崩す。イゼル君が、その足元にしがみついている。
その隙を狙って、エール君が剣をふるう。
でも、さらにその隙を狙って……敵が、オレの目の前に!
「シノーカちゃん!」
「………!」
オレが叫ぶのと、敵が叫ぶのとほぼ同時だった。
敵の男が剣を振り上げ、叫びながらシノーカちゃんを蹴り飛ばす。容赦ない力で蹴り飛ばされた彼女は、1度目で「うぐっ」と悲鳴を上げ、2度目で床に転がった。
女の子になんてことするの!?
全身にぞわっと鳥肌が立つ。
訳の分かんない感情が、ぐうっと胸に押し寄せる。
怒り? ショック? それともやっぱり恐怖かな?
分かんない。自分でも分かんないけど、オレは素早く前転して敵の股の下を抜け、床に落ちた剣に飛びついた。
誰の落とした剣なのか、もう状況は分かんない。
でも手足の震えは治まってて、剣の重みをずしんと感じる。
剣を習ったことなんてない。剣舞ならやったけど、でも使うのは木に色を塗っただけの小道具で、こんな重い剣じゃなかった。
切り結んで勝ち目はない。
でも、すんなり殺されるつもりもない。できれば廊下に出て、助けを呼びたい。みんなのこと助けたい。
振りかかる剣を避け、くるりと横転して距離を取る。
剣を剣で受け流し、床に手をついて横転、後転。姿勢を低くし、剣を払うように振ってみたけど、敵も軽いステップを踏んで、オレの攻撃を難なく避けた。
ドドドドドドン! ヒュゥゥヒュゥゥババン!
バリバリヒュヒュゥゥー、バンバン!
バリバリバリバリ。
花火はどんどんと勢いを増し、まるで踊りのラストパートの太鼓みたいに、絶え間なく空を鳴らしてる。
めまぐるしい光を浴びながら、オレは息を詰め、敵の剣の軌跡にだけ集中して、ひたすら受け流し、避けて、避けて、廊下を目指した。
ステップを踏んで、ターンする。しゃがんで、跳んで、低く前転。床に手を突き、大きく後転。すかさず剣をぐるんと振り、敵との距離を一定に保つ。
敵が誰かは分かんないけど、オレ以外、殺すつもりはないみたい。
なら、このままヤツらを引き付け、廊下まで走った方がいいのかも?
そう思った瞬間――敵の1人が剣をオレに投げ付けた。
「わっ!」
とっさに体を反らしてそれを避け、剣を見て、敵を見た。何で剣を投げたのか……疑問に思う間もなかった。いきなり飛びかかられて、背中から床に倒される。
背中を派手に打ちつけて、ぐあっと息が詰まり、剣を落とした。
「しねおうじいまさらでてこられてもこまるのだ」
男の言葉は、理解できなかった。
馬乗りになられて、首に手を掛けられて、息ができない。目の前が赤く染まって、耳の奥がうわんと鳴る。
苦し紛れに手を振り回すと、口元を隠してた布が外れて、敵の顔があらわになった。
見覚えがある、と思ったけど、それより苦しくて、息がしたくてたまんなかった。
口を開けても、息ができない。
苦しい。
なに、これ?
いき、で、き、な、い。
ノド、のど、くるし、く、て。
じゃまなて、ひっ、かいた、けど、だ、め、で。
しぬ、と思った。
せれむ……。
諦めて目を閉じたら、王様の声が聞こえた。
「アイタージュ!」
ドカドカドカ、と靴音が近付いて。
「王妃様!」
「王妃様!?」
「アイタージュ!!」
何人もの声がして。ふいに、苦しいのがのいた。
大量の空気が一気に入り込み、転がって、ごほごほとむせる。
何が起きたか、理解できない。オレ、生きてるの? 頭が痛い。
温かい手に背中をさすられ、「王妃様」と呼ばれる。ぶるぶる震えながら身を起こすと、側にいるのはキクエさん。
敵は? みんなは?
ハッと目を向けると、部屋の中には王様が立ってた。
黒いマントを身に着けた、見上げる長身。スッキリとした後ろ姿。その手にはくろがねの剣を持ち、敵の1人を突き刺してる。
足元には2人の敵が転がってて、もう勝負がついたのが分かった。
残りの1人が床に倒れ、王様が剣をびゅっと振る。
床にパパッと飛ぶ血しぶき。その剣を腰のさやに収め、ゆっくりとオレを振り向く王様。見たこともない怖い顔なのに、こんなに嬉しい。
彼の後ろでは、一緒に入って来た近衛兵が、エール君たちを囲んでる。
無事なのかどうなのかは、ここからじゃ分かんない。
今は、王様しか見えなくて。
「アイタージュ……間に合って良かった」
王様の腕に強く抱き締められ、温もりを感じて、オレはようやく胸いっぱいに息を吸った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 45