アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
黄金の王妃・17
-
行方不明になってたニセモノの管理人が見付かった、とオレが知らされたのは、午後になってからだった。
馬を盗もうとしたところを捕まったらしい。お昼に王様たちが会議してたの、このことだったんだって。
「アイタージュ、一度ヤツの顔を見てくれるか?」
王様にそう言われ、王様と一緒に地下牢に降りる。
隠し通路と同様、地下にそういうオリがあるらしいことは、本で読んで知ってたけど、場所はよく分かんなかった。地下に降りたのも初めてだったけど、思ってた以上に清潔で、広々としてたのは意外だった。
昔ちらっと見た、奴隷小屋のオリよりも広くて快適かも?
そう思ったけど、単にキレイなのは、ここ最近使われてなかったからだって。
「久々に住人を得て、牢も喜んでいるだろう」
王様の冷やかな声に、ニセモノの管理人はバッと顔を上げた。
「首都にあるギロチンも、久々に血を吸えて喜ぶだろうな」
冗談とも思えない低い声に、ニセモノの顔が青くなる。
あの不自然な作業服を脱ぎ、身ギレイにしてる彼は、まるで別人みたいだった。
オレは、あらかじめ王様に言われてた通り、じっくりとその顔をオリ越しに眺めた。でも残念ながら、湖で会った以外に見覚えはない。
首を振って、王様にそう合図をすると、「分かった」って言われた。
冷やかな怖い顔。美しい顔立ちの人が怒ったら、こんなに凄みがあって怖いんだと、初めて知った。
「なぜ王妃を狙った?」
張りのある声が、罪人に問う。
湖の管理人を騙ったニセモノは、青い顔のままちらっとオレを見て、王様を見て、それからオリをガシッと掴んだ。
そんで、大声で言ったんだ。
「大臣だ! 大臣に頼まれた! オレは金で雇われただけだ!」
ドキッとして、ギョッとした。
大臣の、オレを見る冷やかな目つき、王様に向けた「若輩王」っていう侮った言葉を思い出す。
けど、同時に「違う」と思った。
嘘だ、大臣はオレを殺さない。
あの人は、良くも悪くも正直な人だ。オレと会っても不愉快な態度を隠さないし、嫌いなオレに近寄ろうと、いやらしい作り笑いを浮かべたりもしない。
王様を裏切ろうとした人たちを裏切って、王様の味方になった人。再度、裏切る人のようには見えなかった。
「嘘だな」
王様も、即座に否定した。
オレもそう思います、って伝えたくて、王様の顔を見て1つうなずく。
「本当だ! なぜ嘘だと思う? バカめ、貴様は騙されてるぞ!」
牢屋の中のニセモノは、オリを掴んで更に大声で喚いたけど、そう言われると余計に怪しい。
王様も、形のいい濃い眉を吊り上げて、喚く罪人を睨んでる。
「あの大臣が、王妃を殺そうとする訳がない。何を言おうと、何をしでかそうと、結局あれはあれなりに、王妃のことを認めている」
その言葉にはちょっと驚いたけど、「どういう意味ですか?」ってのんびり訊けるような状態じゃない。
「もう一度問う。誰の差し金だ? お前のこの国での協力者を吐け」
その訊き方もおかしいなと思ったけど、何がおかしいかは分かんない。同じく、訊けるような状態じゃなかった。
「だから、大臣だとさっきから……!」
ニセモノの管理人は、その主張を変える気はないみたい。嘘だって見破られたのに、また同じことを繰り返し喚いてて、すごくうるさい。
王様が呆れたようにため息をついた。
「これ以上は無駄だな。殺さぬ程度に尋問しろ」
そう言って、くるっとオリに背中を向ける王様。近衛兵が、その命令に「はっ」と敬礼して応じた。
罪人の喚き声が地下牢中に響いてたけど、やがて石造りの階段を上がり、重厚な扉を閉めてしまうと、何の声も聞こえなくなった。
泣いても叫んでも地上には何も聞こえないって、考えてみたら、ちょっと怖い。
いつもの部屋に戻り、いっぱいのクッションに埋もれるように座ってから、ようやく深く息を吐く。平気だと思ってたけど、やっぱり緊張してたみたいで、情けないなぁって思った。
冷たいお茶を飲んでから、王様に訊かれた。
「今の話をどう思う?」
「大臣のこと、ですか?」
訊き返すと、「そうだ」って言われたから、話す前によく考えてみた。
さっきは直感で嘘だと思ったけど、王様が言ったように、オレのコト認めてくれてるからとか、そういうんじゃない。
でも、あのニセモノの話は変だと思う。
変だと思うのは――。
「えっと、あの、上手く言えないんですけど……」
頭の中に、旅芸一座時代のあれこれを思い出す。
みんな気のいい仲間ではあったけど、善人ばかりって訳じゃなくて、色々辛い思いもした。
子供の誰かが盗みをした時、「アイツがやったんだ」って、名指しで言われたこともある。オレは特にどんくさくて、みにくい役立たずだったから、騙されたり、罪をなすりつけられたり、泣かされたりも多かった。
「もういいじゃないか」って庇われたことはあったけど、「ホントはオレがやりました」なんて庇ってくれる子は皆無で……。
そう、だから、「大臣に頼まれた」なんて、もしホントなら、言うはずないと思うんだ。
口下手なりにそう言うと、王様は優しい目で満足そうに笑ってた。
何だかそれだけで、自分の意見を肯定して貰えた気がして、嬉しかった。
そう言えば、オレの首を絞めた男はどうなったんだろう?
どうして見覚えがあったのか、結局思い出せないままだ。どこかの国の、貴族か有力者だったのかな? そんで、そのお屋敷に旅芸一座と招かれた時に、物陰から見たんだろうか?
或いは、そういう貴族にお仕えする使用人だったとか?
あのニセモノ管理人についてだって……どうして王様は、オレに「見覚えがないか?」って訊いたんだろう?
『今更』――何って言ってたっけ?
首を絞められながら言われた言葉を、ノドに手を当てて考える。
あの時でさえハッキリ聞き取れなかったセリフは、時間が経つごとに曖昧で、考えれば考える程分かんない。
「そのノドの痣が癒えたら、宮殿に帰ろう」
オレの仕草を見て、あの時のこと思い出してるの、分かったのかな? 王様はオレに優しく軽く口接けて、それからまた側近の人たちと共に、執務室へと戻って行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 45