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王妃の祭り・5
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少しだけ距離を開け、アイタージュと背中合わせに壇上に立つ。
間もなく太鼓の音が鳴り響き、たくさんの笛が高く鳴った。それに合わせて宝剣を抜き、アイタージュに教えられた振り付け通り、ゆったりと動いて振り返る。
目の前に立つのは、最愛の王妃だ。
オレの振るう剣を軽やかに躱し、くるっと楽しげに踊る舞姫。
時折打ち合わせる儀式剣、ゴツンとくる衝撃を上手に受け流し、横に、後ろにキレイな1回転を見せる。
片足を真上に伸ばして高くターン、腰を落として低くターン。キレイな足さばきでステップを踏み、要所要所でポーズを決める。
とろけるような笑み。動くたび、身に着けた金銀がきらきら光って、とてもキレイだ。
観衆の間からも、どうっとどよめきが沸き起こる。
剣を伸ばして打ち合い、互いに引いて、くるりと舞う。再び向かい合い。打ち合った後、簡単なステップを踏んでターン。
キリキリキリ、とオレより数回多く回ったアイタージュが、ピタッと動きを止めてオレを見る。
夜風をはらむ白い衣装が、ふわりと舞って優雅になびく。
大きな動きで踊るのは、体を大きく見せる基本らしい。だが、オレは彼よりももっと体が大きいから、棒立ちで派手に剣を振るうだけでは、隙だらけに見えるとか。
確かに考えてみれば、実際に剣で打ち合いをする時も、棒立ちで剣を振り回す訳じゃない。剣を構え、間合いを測りつつ、相手の隙を狙って右に左に移動する。
オレたちの剣の稽古を、よく観察したのだろうか? 舞踏としてというよりも、実際の打ち合いの様子に近い、剣を振るいながらのステップ。右に3歩進み、左にまた3歩、剣を打ち合わせて場所を入れ替え、宙を大きく薙ぎ払う。
オレの動きに見事に合わせ、優雅に側転と後転を繰り返すアイタージュ。くるりくるりと回るたびに、金銀の飾りがきらりと光る。
近寄って剣を打ち合い、離れてはターン。2人して月を見上げ、剣を掲げてまた見つめ合う。
月と王妃しか、もうオレの目には入らなかった。来賓も、国内の貴族も、侍従や侍女も、どうでもいい。やぐらの下に集う民衆が、踊っているのかオレたちを見てるのか、それすらももう、気にならなかった。
伸び伸びと手足を伸ばし、オレだけを瞳に映して、アイタージュが優雅に舞う。
美しく魅力的な、月の舞姫。
その見事な舞いの前に、今までどれだけの努力を重ねたことか。
大臣に勧められての2人舞いだったが、一緒に舞うことになって、結果的にはよかった。
「剣の振りは、こうです」
「ステップは、もっと大股で……」
戸惑いがちではあったものの、オレに振り付けを指南することで、アイタージュにも少しは自信が持てただろう。
普段はオレのことを、絶対的な王として崇めているようにも思えるが……舞いに関しては、彼の方がレベルは上だ。これも、日頃の積み重ねの結果なのだと、自分を認められればいいと思う。
頑張っているのは、ちゃんと見て知っている。
出会った時は、とんでもなく自己評価低かった少年も、今では誉めると素直に喜び、恥じらうようになってきた。
「アイタージュ……」
決められた振り付けをなぞりながら、目の前の愛おしい舞姫を見る。
音楽のペースが早くなり、太鼓の音が激しくなった。
キリキリと目まぐるしくターンするアイタージュ。月明かりを反射して、きらきらと光をまとっている。
宝剣を収め、片手を伸ばして迎え入れると、アイタージュがオレに抱き付いた。その細腰をしっかりと掴み、高く掲げながらくるりと回ると、激しい音楽を打ち消す程に、どうっと観衆が歓声を上げた。
ふっ、と笑みがこぼれる。
心地よい運動に、気分が高まる。
最後のポーズを決める代わりに、抱き上げたまま唇を奪うと――アイタージュがびくんと肩を震わせ、オレの首元に縋りついた。
歓声がさらに大きくなり、甲高い女たちの叫び声も聞こえる。
玉座の方に目をやると、大臣や側近が困ったように笑っていた。だが、口接けを咎められても、アイタージュががあまりに可愛かったのだから仕方ない。
やまない拍手と歓声の中、次の音楽が鳴り響き、舞姫たちが踊り出す。
後は、もう、無礼講で。
オレはそのまま玉座には戻らず、アイタージュを担いだまま壇上を降りた。
「どちらへ」などと無粋な質問をする者はいない。誰にも見咎められることなく、宮殿の静かな廊下を進み、黙って後宮の中を目指す。
「セレム様……」
耳元で名を呼ぶのは、王妃なりの可愛い抗議だろうか? しかし、悪いがのんびりと、祭りなど眺めるような気分じゃない。全身に熱い血がどくどくと巡り、じっと座ってなどいられなかった。
後を追って来た侍女たちが、素早く後宮に明かりを入れ、夜の支度を整えた。それももう、いつものことだ。
王の寝室にドカドカと入り、月明かりの照らす寝台の上に、遠慮なくどさりと王妃を落とす。
首飾りや耳飾りがしゃらんとかすかに音を立て、アイタージュが「あっ」と淡くうめいた。
顔が赤いのは、剣舞を終えた興奮からか? それとも、これから始まる「儀式」のためか?
「踊ってる間、誰を見てた?」
揃いの白い衣装をはぎ取りながら舞姫に問うと、ぽうっとした声で答えが返る。
「セレム様を」
それは、あの初めての夜と同じ言葉で――。
「オレもだ」
きっぱりとそう告げて、自分の衣装を性急に脱ぐ。
月が頭上で、笑っているような気がした。
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