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桜の想い
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「ほな、おやすみ」
「おやすみなさい」
蛍光灯を豆電球に切り替え、布団に入る。
しばらくすると、もっちーはスースーと寝息を立て始めた。
俺は布団の中で、ついさっき見てしまった首元の痣について考えていた。
多分あれだけではない。
もっちーの身体には他にも傷があると思う。
でも俺は、その全てを見て追求するのを心のどこかで恐れている。
別に、傷があったらもっちーのことを嫌いになるとかそういうことではない。
その逆だ。
傷を見られたもっちーが、俺から離れていくのが怖いんだ。
臆病やな、俺…
初めてもっちーと会ったのは四月だった。
出会いの季節。春風に吹かれ、桜が舞い散る。
高校生になったばかりの彼は、15歳というその年齢よりずっと大人びて見えた。
背もそんなに高くない、小柄な彼がそう見えたのは、その作り笑いの下に疲労と諦めのようなものが感じられたからだろうか。
高校生らしい年相応の溌剌たるものが無かった。
俺は気付いたら彼の指導係に手を挙げていた。
「俺は松木亮。大学生や。リョウって呼んでな」
「望月葵です。よろしくお願いします、リョウさん」
「んー、望月やから”もっちー”やな!
よろしくもっちー!」
実際話してみると、彼は思ったよりちゃんと話せる子だった。
教えたことはすぐ覚えるし、分からないことがあれば質問してくるので、指導係としてはとてもやり易かった。
しかし、親しくなっても彼は仕事に必要なこと以外話さなかった。
彼がバイトを始めてから数日経ったある日、もっちーは頬を赤く腫らしてきた。
「どしたん!?ほっぺた腫れとるやん!」
俺が駆け寄ると彼は気まずそうに視線を下げた。
「いえ…ちょっとぶつけちゃって。大したことはないんです。はは…油断してました」
腫れてない方の頬だけぎこちなく上げ、困ったように眉を下げて、彼は笑った。
その笑顔に胸がチクリと痛み、俺はそれ以上何も聞けなくなった。
言葉が出てこなくて、でもなんとなく彼に触れたくなった俺は、少し長い彼の髪をくしゃりと撫でた。
すると彼は、ホント大丈夫ですよと呟きながら、また困ったような笑顔を作った。
その笑顔は感情を隠し、そうすることで心を守っているように見えた。
鉄壁の奥にあるものは、きっと弱くて脆い。
この強くて儚い人を守りたい。
彼に頼られる存在になりたい。
彼が本当の感情を出せる相手になりたい。
そう思った。
思えばこの時から、俺の片想いは始まっていたのかもしれない。
桜の花びらと共に舞った想いは、今も…
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