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赤字の生活費
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リョウさんの家に泊めてもらい、潤と健人とまた一緒に昼ご飯を食べたその日、僕は内心ほんの少し浮かれながら家路についた。
しかし家の玄関をくぐると、そんな麗らかな気持ちもいつもの調子に戻ってしまった。
部屋の中では母さんが一人、頬杖をついてぼーっとテレビを見ていた。
まさに無気力といえるようなだらけた様子の母は、機嫌が良いとはとても言えなさそうだ。
「…ただいま」
恐る恐る言うと母さんは顔を少し上げて横目で僕を一瞥し、興味なさげにまた目をそらした。
連絡も入れずに外泊してしまったことを少しは何か言われるかと思ったが、母さんは僕が思っている以上に僕に関心がないようだ。
今に始まったことではないので、傷つくこともない。
ただ、怒られたわけでも殴られたわけでもないのに、関心を持たれないというだけで胸の温度がスッと下がった。
いつまでも突っ立っていてもしょうがないので、気を取り直してドアポストに入っていた封筒を出す。
見るとそれは電力会社からで、電気代の請求書のようだ。
封を切り中の紙上の数字を確認して、思わず目を見開いた。
間違いだと信じたくて何度も数字を見返すが間違いなど一つもない。
そこに記された電気代は、いつもの倍以上の値段になっていた。
「嘘でしょ…」
口からほとんど声にならない言葉が零れる。
幸い母の耳には届かなかったようだ。
冷静になって考えれば光熱費が増えるのは当然のことだった。
一条がこの家に居座り始めてから1ヶ月。
大の大人が、それも節約なんて少しも考えなさそうな男が一人増えたのだ。
二人が三人に増えた痛手は思いの外大きかった。
増えたのはもちろん電気代だけではないだろう。
水道代、ガス代、食費……生活費が全体的に上がる。
今のままでは家計は赤字だ。
これから冬に入って気温が下がれば光熱費は更に跳ね上がるだろう。
…どうしよう…
僕が節約を心がけたところで、元々切り詰められるものは切り詰めていたのだから大した効果は期待できない。
バイト、増やすしかないか…
他のバイトもあるし、1ヶ月後には期末試験もある。
今より忙しくなるのはできるだけ避けたいところだが、どうしようもなかった。
一条とは極力接点を持ちたくなくて、彼に家に金を入れてくれと頭を下げるのはとてもじゃないがしたくない。
こんな所でなけなしのプライドが邪魔をした。
多分大丈夫だ。
今まで辛い事も厳しいこともなんとか乗り越えてきたんだから。
それに今の僕は昨日までの自分とは違う。
帰る家は一つしかないが、支えてくれる人はいる。
だから、大丈夫。 大丈夫だ。
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