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あなたのおかげ
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「なんかええことあったん?」
ガソリンスタンドのバイトを終えると、リョウさんが僕の顔を覗き込んで見て、ニッコリ笑った。
「え、そんな顔してますか?」
無意識にニヤニヤと笑ってたりしたら気持ち悪いと思い、両手で頬を押さえる。と、リョウさんは僕の両手首を掴み、顔から離させた。
「いや、別に変な顔はしてへんけど、なーんやいつもより雰囲気明るく見えてな」
ええことやええことや、と背中をバシバシ叩かれる。
思い当たる節はいくつかあった。
居酒屋の店長に褒められたこともその一つだが、最も大きいのは潤たちとの距離が以前より近づいたことだろう。
健人はクラスが違うのでほとんど昼休みしか会えないが、潤とは昼休みだけでなく、10分休みや教室移動なんかも一緒にいる。
何度か二人に遊びにも誘われた。バイトがあるので止むを得ず断ったが、いつか色々と落ち着いたら二人と遊んでみたい。
思えば今の僕は、ほんの二ヶ月前の僕には信じられないようなことばかりだろう。
自分がこんなに変わるなんて思ってもみなかった。
父が死んで母が暴力を振るうようになってから、僕は友達を作ろうとしなくなった。
でもそれは友達の少ない自分への言い訳に過ぎなくて、元々僕は人と付き合うのが得意ではなかったんだ。
誘われて数人と遊んでも、やっぱり一人が好きで、一人で本を読む時間の方が幸せだった。
そんな風に幼少期から浅い付き合いしかしてこなかったので、自信を持って友達と言える人が出来たのは生まれて初めてかもしれない。
変わることができたとすれば、それは潤や健人、そしてリョウさんのおかげだ。
「リョウさんのおかげで、友達と仲直りすることが出来ました。
あの時リョウさんが背中を押してくれたから一歩踏み出すことができたんです。
泊めてくれてありがとうございました」
頭を下げるとリョウさんは声を立てて笑った。
「俺は何もしてへんよ。
全部もっちーが自分で成したことや。
それに、もっちーが泊まってくれて嬉しかったのは俺の方やしな。
もっちーは、楽しかった?」
「はい!とても!」
即答するとリョウさんは眼鏡の奥で目を細めて本当に嬉しそうに笑った。
「気が向いたらまたおいで?友達に相談出来んことも何でも聞いたるさかい。
うちはもっちーならいつでもウェルカムやで!」
「ありがとうございます。
でもリョウさん、優しすぎですよ。
なんで彼女さんいないのか全然わからない。僕が女だったら絶対好きになってますよ」
思わず思ったことを口にすると、リョウさんは一瞬視線を落とし、「ありがとさん、ほんまなんでモテんのか俺にもさっぱりや」と眉を下げながら笑った。
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