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未遂
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順調とは言えないテスト、荒んだ家庭環境。
嫌なことばかりでも、太陽は変わらぬ速さで回る。
4日間の期末試験も明日が最終日だ。
今日は早く寝ようと思っていても、一条に安眠を妨害され、寝不足は改善どころか悪化している。
だが、泣いても笑っても明日で最後。
もう一踏ん張りだ。
閉館まで図書館で勉強し、家に帰ったのは8時半だった。
「ただいま」
返事はない。部屋に一条の姿はなく、母がちゃぶ台に突っ伏していた。缶ビールの空き缶が4本転がっている。
母さん、そんなにお酒強くないのに…
空き缶を片付け、代わりにテーブルに水の入ったペットボトルを置き、眠る母に毛布を掛ける。
乱れた髪に隠れる母の頬には涙の跡が残っていた。
その日一条は帰って来ず、久しぶりに早めに床に就くことができた。
しかし深夜2時ごろ、寝ていた僕を起こしたのはザバザバという水音だった。
音は風呂場から聞こえる。母の姿が見当たらないので、風呂に入っているのは母だろう。
そう納得してそのまま寝室に戻ろうとしたが、妙に胸がざわついた。
途切れることのない水音は、シャワーの音というより大量の水が溢れるような音だ。
酒に弱い母があれだけ飲んでいたのを思い出し、不安が現実的なものになる。
最悪の事態を考えてしまうと居ても立っても居られず、意を決して風呂場のドアを開けた。
濛々と視界をぼかす湯煙の中、目に入ったものは予想とは異なっていた。
服を着たままの母が、湯船の縁に体をもたげた状態で洗い場に座っている。
サスペンスドラマなんかでよく見る光景に、一瞬頭が着いて行かなかった。
「、母さんっ!!」
薄紅色に染まる湯船から母の腕を引き抜き、未だ水を吐き出し続けるカランをとめる。
「母さん、母さんっ!」
体を揺すりながら必死に呼ぶと、閉じていた目がうっすらと開かれた。
虚ろな瞳に僕を映した次の瞬間、強く肩を押され、後ろに尻餅をつく。
「邪魔、しないでよ…!」
母さんは恨めし気に僕をきつく睨み、覚束ない足取りで風呂場から出て行った。
一人残された僕は、湯船の詮を抜き、排水溝に流れる血交じりの湯をただ茫然と眺めた。
洗い場には、血の付いた剃刀が落ちていた。
母さんが、自殺・・・しようとした・・・?
『自殺』という単語が脳内ではっきりと姿を現した途端、受け止めきれない現実が心の中に無理矢理押し入ってくる。
どうしようもなく胸が痛んで、そのまま朝まで眠ることはできなかった。
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