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三歩進んで… (潤side)
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葵がシャワーを浴びている間に、俺は母さんに電話して、車でここに来てもらえるよう頼んだ。
二度も倒れて、怪我までしてる葵に負担をかけたくなかったから。
…今まで、どこまで葵の事情に踏み込んでいいか分からなかった。
葵が何かを抱えていることはずっと前から勘付いていた。でも俺がその中に足を踏み込むのはまだ無理だと思った。
だから聞かなかった。聞かなければ葵は何も話さない。正直俺はそれでもよかった。
吐き出す相手でなくても、自分が葵の側にいられればそれでよかったんだ。
俺は、一人で抱え込む葵の強さに甘えていた。
好奇心で葵のジャージの袖を捲り、初めてそこにある傷を見たあの時、葵は「お前には関係ない」と叫んだ。
あの時、俺は自分の軽率な行動を反省した。
それからは葵の事情にあまり深く突っ込まなくなった。
でも…今こそ踏み込むべき時だ。
限界というものは誰にでもある。
ただ、その一線は近いようで遠いもので、大抵の人はそれを体験しない。
今日の葵は、限界だった。
きっと肉体的にも、精神的にも…
「見ないで」と体を抱いた葵の姿が脳裏に蘇る。
今日何もしなかったら、葵が俺から離れて行ってしまいそうだった。
それだけは嫌だ。
せっかくこの三ヶ月でここまで親しくなれたのに、ここで水の泡になるなんてごめんだ。
自分を奮い立たせるように「よしっ」と声を出して立ち上がる。
ふと、葵の家の電話機が目に入った。
そういえば、なんで繋がらなかったんだろう。
話し中だったという可能性もあるが、一回目はちゃんとコール音が鳴ったのだ。
何となく電話機の周りを見ていると、原因がわかった。
電話線が抜かれてる…
電話線の先を持って見ていると、葵が風呂から戻ってきた。
「葵、電話線わざと切ってるのか?」
何気なく声をかけると葵は一瞬ビクッと肩を震わせた。
「で、電話線…?」
目を丸くした葵に電話線のコードを見せる。
「本当だ…今朝は繋がってたと思うんだけど…」
葵は顎に手を当てて考え込んだ。
「…もしかしたら、同居人が切ったのかもしれない…」
「同居人?」
「えっと…母さんの知り合いで…一度学校に来たことあるんだけど…」
そう言われて思い出した。
校門の前で葵を連れて行こうとして揉めた、あの怪しい男だ。
そして記憶にあるその顔は、さっきぶつかって睨んできた男と重なった。
…それじゃ、一緒にいた女の人は…葵の母親…?
そうでないかもしれないが、見た目の年齢的にもその可能性は高い。
駅に急ぐ居候の男と葵の母親と思しき女。
家には頭を灰皿で殴られ倒れる葵。
関係ないと思っていたピースが繋がりそうになる。
葵を殴ったのは、男か、女か。
それを聞こうとした時、俺のスマホが鳴った。
母からのメールを開くと、「もうすぐ着くよ」と書かれていた。
聞くのは…また後でかな。
そう思って葵を見ると、目が合った。
しかしすぐに気まずそうな顔をして、目を逸らされてしまった。
それだけのことなのにほんの少し胸が痛む。
この三ヶ月で葵との関係が三歩進んだとしたら、今日だけで二歩ほど下がってしまったかもしれない。
でもそれなら、また進めばいい話だ。
少しずつでいい。前に進めればそれでいい。
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