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ファーストキス
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夕飯を食べ終わった後もしばらくは雑談に花が咲いた。
8時半を回る頃ようやくお開きになり、片付けに動き始める。
「あ、洗い物手伝います。ご馳走になったので」
「あら、ありがとう!じゃあ潤は風呂洗いよろしく!」
「りょーかい」
僕は台所で和葉さんを手伝い、潤は風呂を洗いにリビングを出た。
「手馴れてるわねぇ」
「皿洗いくらい誰でもできますよ」
「そうでも無いわよ?潤一にやらせたら手は滑らせるし汚れは残ってるしで見てられないもの」
「あ、ちょっと想像できました」
「でしょ?」
ふふっ、と楽しそうに笑う和葉さんに釣られて僕も笑みを溢す。
そんな風に喋りながらでも、二人でやれば片付けはすぐに終わった。
洗った皿を棚に戻している時、玄関のドアが開く音が聞こえ、リビングに若い男が入ってきた。
「おかえり、啓一。
…あんたちょっと飲みすぎたでしょ」
「ただいま……ぅー…水くれる?」
啓一と呼ばれた人は潤より少し背が高く、潤とよく似た顔をしていた。
酔っているのか足元がおぼつかない。
ふらふらと歩き、脱力するようにソファーに腰掛けた。
「潤一の兄の啓一よ。だらしない第一印象でごめんなさいね。悪いけど、今手が離せないから水持っていってあげて」
「はい」
コップに水を入れて、啓一さんの元へ行く。
「お水どうぞ」
声をかけると、彼は酔った目を少し細めて訝しげに僕を見た。
「…あんた、誰?」
「潤一君の友達の望月葵です。お邪魔してます」
「へー、潤の友達…かわいいね」
突然グッとコップを持っていた手を引っ張られ、水が啓一さんの服に零れる。
そっちに気をとられていると、急接近した啓一さんの顔に反応するのが一瞬遅れてしまった。
「風呂洗い終わったよ」
リビングに戻ってきた潤の目に真っ先に映ったのは、なぜか唇を重ねる僕と啓一さんの姿だった。
離れなきゃと思って力を入れるのに、啓一さんに結構な力で後頭部を押さえられて離れられない。
無意識に口を固く閉じる。
「は!!?兄貴!!!」
潤に体を後ろに引かれて、ようやく啓一さんと離れることができた。
しかし未だに状況が呑み込めず目を泳がせる。
成り行きも相手も何もかも理解できない展開で、唇が離れた後も頭は真っ白のままだった。
「葵、大丈夫か!?」
「え?あ、うん。多分大丈夫、かな?」
「多分って…」
潤は肺を空っぽにするぐらい深いため息を吐き、スッと短く息を吸った。
「このバカ兄!」
怒声と同時に、拳骨で啓一さんの頭を殴った。
さすがに拳骨で頭は痛いんじゃ…と思ったが、啓一さんは頭を押さえながらも何でも無さそうな顔をしている。
「んだよ、そんなに悔しいのか、潤。
…しょーがねーなぁ、ほれ、お裾分け」
「は?っ、」
啓一さんは今度は潤の胸ぐらを掴んで、潤が逃げる前にしっかりと唇を合わせた。
「んんん!!!??」
驚き顔の潤が啓一さんの肩を強く押し返し、それは一瞬で終わった。
潤も啓一さんも袖で口をゴシゴシと拭う。
「うひゃー、やっぱり弟とするもんじゃねーな」
へらへらと笑う啓一さんと対照的に、潤はわなわなと体を震わせた。
「こ、の…寝てろっ!くそ酔っ払い!!!」
鈍い音に思わず目を瞑る。
次に開いたときには啓一さんはソファーに倒れていた。ただ寝ているだけのようだが。
潤は目つきを鋭くしたまま、くるりと僕のほうに振り向いた。
「もしかして、今のファーストキスだった?」
「え、あー……うん、そういえばそうだね」
一条はセックスこそしたが、キスをしてこようとはしなかった。
もちろん僕からそんなことするはずもなく、つまり今のが僕のファーストキスということになる。
潤は僕の答えに頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ちくしょお、実の兄に葵のファーストキス奪われるなんて!!!」
「いや僕はほんと大丈夫だよ、気にしてないし」
「俺が欲しかった…」
いじけた子供のように呟く潤が少し可笑しくて、つい笑ってしまう。
「本当に葵くんの事好きなのねー、潤一。
事故はノーカンってことにしときなさい。舌は入ってなかったでしょ?
でも葵くんごめんね?うちの馬鹿息子が…」
和葉さんが対面式の台所から苦笑いで謝った。
「いえ、ほんと全然気にしてないので…」
「気にしてるのはもう1人の馬鹿息子だけね…」
和葉さんと二人同時に潤を見て、顔を見合わせながら笑った。
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