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「マキ、お前だけは、なくしたくない」
かすかな声だけど、はっきりと蒔田にそう告げる深山は、いつかグラウンドの上で見たような、凛とした顔をしていて。
前に電話で、「万一泣いても、顔洗ってから会いに行く」そう言ったとおりに。この人は、どんなに辛くても目の前で泣いたりしない。
泣きはらした顔をしてても、涙を拭ってから立ち上がるのだと、自分できちんとけりをつけて戻ってくるのだと、見せつける。
その姿を、きれいだ、と思った。
「ミヤさん、」
感極まって蒔田が立ち上がろうとするけれど、ここは狭い新幹線の車内。かろうじて浮かせかけた腰を落ち着けて、隣を見た。
なくしたくない、なんて。
蒔田もまた同じように考えていたけど。こっちはただ無為に、1ヶ月ものあいだモタモタと考えこんでいただけで、何も前に進もうとしてこなかった。
それなのに、それを責めたりせずに、ここできちんと言葉にして伝えてくれるのは、さすがオトコマエな先輩で。その潔さに、またひとつ想いが積み重なっていく。
「あの日…逃げ帰ってしまって、すみません」
告げるべきことが、まだあった。
だけどそれをここで言うべきかどうか、この期に及んで、悩む。それを察知したのか、
「もういいよ、それは」
そういって、深山はそっと、首をふった。
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