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5月生まれの彼の誕生日には1歳違いになる千色とは、年齢も近く身寄りのない環境も相俟って、ほんの僅かな日数もたたずに仲良くなれたと思う。
物心ついたころには母と二人で暮らしていて。
病気で死に別れ親類縁者もわからず引き取り手のないまま、母親と暮らす際に世話になっていた託児所代わりにもなっていたカソリック系の孤児院には、7つからいたのだと言うが、おっとりとし過ぎなくらいにゆっくり話す小さな柔らかい声色で生い立ちを聞くことが出来たのは、家に来てひと月以上も後だった。
穏やかな引っ込み思案な気性で、「みんなは明るくて元気で、ついていけなくてダメな子でした」と、いつも年若の神父さんの陰に隠れていたのだと自嘲する彼は、私の通う小学校に転入させても友達らしいものが出来たようには思えなかった。
どうせ好きな道に進む子なのだから私立でのびのび学べる環境でいいと親たちが思い選んだ幼稚園から大学まで無試験の学校では、後継者として不安があると祖父は私に中学受験を命じ。
どこか、もう、私しかいないのだという強迫観念のようなものを感じていた私は、甘んじて受け。
中高一貫の、全国に名の轟く有名学校の受験をする準備をし出して。
暢気に共に遊び学んだ友人達とは一線を画す、勉強漬けの日々のストレスを、千色と私達の愛犬ロコは常に癒してくれた。
私だけが勉強しているのもつまらないだろうと、家庭教師がついでに一緒に見てくれた千色が、私が与えた名の偶然に驚くような賢い子だったこと。
今までの学力は劣悪環境のせいで、綿が水を吸い込むようにぐんぐん知性を目に浮かべる様は誇らしくもあった。
あくまで、私の教師達だったから、わからなかったことなどを、後でそっと私に訊いてくれて。
解けなかった問題を解いて、瞳を輝かせる千色のさらさらした色素の薄い柔らかな髪を撫でる度、彼だけの個人教師になったようで、嬉しかった。
息抜きの、屋敷中を使った鬼ごっこ遊びも、こっそり家政婦に混じって作らせてもらった失敗作のおやつを食べる時も・・・いつでも隣に千色がいて、ふふふと優しく笑ってくれて。
見事に、彼は、私の生甲斐になった。
無事に目標中学に進学し、一年遅れて、千色も私と同じ中学へ。
「千色は賢いから、たくさん勉強をして、新が大人になったら、会社経営を傍で支える力になるように」
と、高額な学費に遠慮して屋敷近くの都立中に進みたいと申し出た千色に、祖父はそう言った。
祖父は、わかっていたのだと思う。
私が、千色のすべてに夢中だということを。
千色をダシに使えば、私をうまく懐柔できることを。
「千色に格好悪いお前を見せることなどできまい?」
と、祖父は、私の押し付けられる未来から私が逃げたくなる前に、千色を巻き込んで行った。
千色は、私にしか、懐けないようにされた子犬・・・・・・なのかもしれない。
ロコの世話が、彼の仕事で。
ロコは私の飼い犬。
ロコはもちろん、千色に懐いていたし、ロコは私を主として懐き敬っているようだった。
それ以上に、千色は、私に忠実な、私しか思いを向けるもののない「ヒト」の形をした、愛玩犬だった。
千色は従順。
私に、絶対服従。
それでも、唯一、誰にも許さない領域を持った子だった。
主人たる、私にも。
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