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あまりに直球過ぎる質問に、私がたじろぐ。
千色は私のしている帝王学の内容は知らない。
その一部に、性的な学習も含んでいるなんて、まったく知らない。知らせたく・・・ない。
視線を惑わせ、言い淀む私を見やり、佐倉医師は、とぼけた表情だ。
「ま、千色くんは、ないのは確実だから。女性の資料はさすがにあるだろ?阿川、出して?」
「人使い荒いな~、ホントに!」
ぶつくさ言いつつ、阿川医師は女性の人体解剖模型を持って来てくれた。
「女性の下腹部のはね、こんな仕組みなんだ。男性生殖器や外尿道口が陰茎にあって
外に出てるのに比べて、殆どが、中に隠されてて、出口がここね?
子宮の先のここ、膣口といいます。その上のこれ、これが膀胱の先の外尿道口。みんな中。
だから、外は出っ張ったところはなくて、穴が二つあるのわかるね?」
「これが、その部分の図解ね。わかりやすいでしょ?」
別の女性の秘部が図解されたパネルを、阿川医師が見せてくれた。
「詳しい検査次第だけど、千色くんは生まれつき、この女性にしかない筈の出口が備わった形で
生まれてるんじゃないかなって思った。で、それを縫合・・・つまり縫い合わせてあると思うんだ」
「だから、もし、そうならば。正直、理解がしがたい処置なの。
非常に低い確率でそういう子がいるんだけど、産院で、必ずわかる筈で、わかってるからこそ
縫ったんじゃないかなって。千色くん、オシッコっておちんちんから出るでしょう?」
女性に、そんな単語を言われて、千色の顔が赤くなる。
こくりと頷いただけで回答した。
「つまり、どっちから排尿されるかを、見極めた上で、機能していない方をないことにしたんじゃないかなって
俺達は思ったんだよね。これは、第二次性徴まで、どう転ぶかわからない問題だからさ」
「で、佐倉クンが触診させてもらった下腹部、普通なら、あの辺に、卵巣とか卵管とか・・・これね?
女性生殖器の位置に当たる場所があって、そこに鋭い痛みがあるみたいでしょう?
もしかしたら、初潮が来る準備を始めてるのかもしれないんだよね、身体の中が」
「あのさ、タロウくん、千色くんは精通あったの?あ、あったんだね。通常どれくらい精子出る?」
さも普通に世間話をするような口調で、私に問う、佐倉医師に阿川医師が鉄拳を振るう。
痛いな~とかぼやく前に、もう少し考えて言ったらいいのになと思う。
「精通・・・ありましたね。出ますよ、ほんの少しだけど」
「・・・量は?大体でいいから。色とか成分とかは、明後日、調べることになると思うけどね」
「掌が少ししっとりするくらい、ですかね」
「先走りとかじゃなくて?うーん、その日の1回目で?」
恥ずかしくて仕方がないのだろう、千色が私の背の陰に隠れようとする。
「これは、問診の一環だから、恥ずかしがらないでちゃんと教えて。
明後日は、この質疑応答に加えて、身体中、いろんな機械だのなんだので調べられちゃうんだ。
ホントにね、医者って仕事がさ、時々、嫌になるんだけどね。
あたし、産婦人科専門医の卵なんで、やっぱり超プライベートなことまで根掘り葉掘りしなきゃならないことなんかもあるでしょう・・・結構つらいんだな」
「こら、未成年に愚痴るな。俺もサポートついてあげられればいいんだけど。
今は、皮膚科で研修中でね。それも直に終わってさ、学生に戻るんだよね~。
でも、個人的に、役に立たないけど、愚痴とかなんかは聞かせてくれたら、話はしてあげられる」
佐倉医師が、私と千色の頭を撫でてくれた。
「恋人同士、頑張って、支えあってね。
いろいろ2人で乗り越えて、愛になれば、きっと。
必要なステップだったって思える日が、ちゃんと、待ってるからね」
その切なくて穏やかな光を湛えた瞳に、言い様のない説得力を感じた。
阿川医師もなんだか、そんな佐倉医師を見守る視線が暖かった。
◇◇◇◇◇
千色は、後日、大学病院の診断と検査を受け。
性分化疾患、であり、染色体異常による、いわゆる「真正半陰陽」なのだと位置付けられた。
本来、二対で、どちらかしかない、卵巣と精巣を一つずつ持ち、
それが、双方ともに不完全な成長過程で体内に埋め込まれており、
そのどちらの通り道もまた、未成熟で、どちらも機能を十分に果たせない可能性が高いことが分かった。
染色体の名は、46XX/モザイクXYキメラ
疾病名は、卵精巣性性分化疾患
緊急手術で、阿川医師の見立て通り、生後すぐに縫合されていた膣口は
癒着等あって、けっこう面倒な手術だったそうだが、開かれ。
女性にしては、小さな小陰唇を、陰嚢のない陰茎の下に復活させた。
本来、もし、来ないならば、開けなくても済んだかもしれない扉を開く訳。
多分、近いうちに、千色は、初潮が来るかもしれないからだそうだ。
秘書の小川が招聘され、形ばかりの書類にサインをした。
千色の保険証が、小川の扶養家族になっていたためだ。
小川は、千色に会ったのが今回で3回目なのだけれど。
これから、千色が、成人するまでの間に、どちらの性を、「社会的な性」と選ぶかを決め、
機能上、不要な方は、摘出するのだそうだ。悪性腫、つまり癌化しやすいからだそうだ。
阿川医師が窓口の研修医になってくれたが、
大学病院でも滅多に遭遇できない症例に、共同チームが発足され、
定期検診と、経過観察が義務付けられた。
ホルモンバランスの異常が出たら、ホルモン剤も投入されるらしい。
私は、孤児院の神父を探すことにした。
彼の知っている何かが、千色のこの異常を隠蔽するにあたった理由だと思うから。
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