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横紙破るは、君が為-1
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世間一般的に、春休みになっている。
中高エスカレーター式進学校は、中学の卒業式もイマイチ盛り上がらない。
千色の入院中、それを、私は終えたのだが、唯一の肉親である祖父が来るわけでもなく
どうせ、殆どの生徒が、ここからでも見える、近所の校舎に通う様になるだけで
制服だって、殆ど変わらない。
高々、ネクタイの色とデザインが、よく見れば微妙に違うように、変わり、
後は、何の変化もないから、著しく背が伸びたや、体形が変わったもの以外、
制服を改めるものなど、数えるほどだ。
卒業のある3年以外も、春休みに入った、中等部の校舎は静まり返っている。
野外では、部活をする、青少年たちの声がするが、
中等部と高等部と同居している教師棟がある鉄筋コンクリートの建物からは距離がある為、静かなのだろう。
『理事長室』
など、と、御大層なプレートの下、何度か、来たことのある部屋のドアをノックする。
中から声がかかり、挨拶をして、私は、入室をした。
「これはこれは、井水くん。なんでしょうか、折り入ってのご相談なんて」
勘違いのダンディズムをひけらかしたような、高級スーツを身に着けた長身の
バター臭い容姿で、余裕を身に纏うているように見え易い仕草を意識した安い中年男が
嘘臭い微笑を貼り付かせて、私を立って出迎え、向かいのソファーを進める。
私が席に着く頃、中の上程度の容姿を持つ自意識過剰な服装の女性秘書が
一般生徒にする対応とは思えない、茶卓に蓋つきの、多分九谷焼のような茶碗を盆に載せ
しなを作りながら歩み寄り、応接セットのテーブルに置いた。
きっと、こいつ等の目には、私の姿が、札束にでも見えているに違いない。
私の入学はもちろん正当だし、入試もきちんと受け合格した。
が、祖父は、私の入学を機に、多額の寄付をしている、この学校に。
「裏口入学」などと、囁かれては迷惑なので、おかげで、中等部の学問も何もかも手は抜かずに
そこそこの成績を収めているし、面倒だから断ったが、生徒会会長選に出てくれれば確実に選ばれると
この男に呼び出され、ここで話をしたのは、確か中2になる今頃だったと思う。
私の家の名が、もっと平凡であれば、何度、思ったことか。
名前だけで、私の正体がバレるのだから、辟易してしまう。
祖父はことあるごとに、寄付を上乗せしていっているから、
いつでも私は、特別扱いを受ける。故に、御学友たちもいつの間にか富裕層の子供達ばかり。
経済的に豊かだと子供は牙を無くす。
面白みのない人間関係の、学生生活。
まあ、学校なんて、私にとっては通過するだけのものだ。
そう・・・・・・思わなければ、やってこれなかった。
昔の、まだ、家族と一緒の頃に通っていた私立のお坊ちゃんだらけのエスカレータとは、
全然、校風が違っている。
あちらのお坊ちゃま達は、そこそこ暢気で自由だ。
時折、家通しの繋がりで、パーティーやら何やらで会う年上の旧友が、金髪にピアスで現れて
びっくりしていたら、「うちの校風はけっこう甘いから、高校なんか、オレはこれでも地味な方」などと
言われてしまった。あのまま行っていたら、私も、もっと素直で明るい青少年になっていただろう。
「あの・・・、井水くん、ど、どうかなさったのですかな?ぼんやりされて」
「・・・・・・あ、申し訳ございません、金居理事長。ちょっと考え事を」
何も言わない私に、オドオドし出して理事長が声をかける。
思いの夢想で、眼前のコイツを遠くに虚ろに見ていた。
こいつらは金さえもらえれば何でもすると思っている。
だから、利用するのだ。
もう、決めたのだ。
「本日、お伺いしましたのは、折り入ってお願いがあるからなのです。
聞いていただけますか?」
「はい!なんなりと!お申し付け下さい」
私は、深呼吸する。
「私を、中学3年に留年させて下さい」
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