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理事長の顔色が変わる。
「そ、そんなことできる訳がありません。きちんと先日、卒業されたばかりなのですよ」
「ですから、卒業証書、ここにお持ちしましたから。ああ、貴女、これをシュレッターにかけて頂けますか?」
部屋の隅に立っていた、秘書に卒業証書の入れ物ごと、突き出した。
「卒業を取り消していただきたいんですが、出来ないんですか?」
「な、何故、そんなことを仰るのですか?わかりません。き、君も受け取るな!」
理事長は、秘書の手から、私のそれを引っ手繰るようにして取り上げる。
「なんなりと、と、仰って下さったのは、金居理事長ご本人ですよね?」
子供に上げ足を取られて、ぐうの音も出ない大人が、ここに居た。
まあ、私も、3年も子供なくせにさせられている、帝王学とやらのノウハウを遺憾なく発揮するつもりで
ここにいて、睨み上げ、口元にはこれ以上ないくらいの冷たい微笑みを湛えている。
私の卒業証書を、いたたまれずに手慰む中年男は、しばらくして。
「・・・・・・だ、代案では、ご提示下さいませんよね?」
ほう。
この男そんなに無能ではないようだ。
私の、卒業を取り消せと言う我儘は、何か特別な理由があり、且つ、詳しく語る気がないことに気が付いたようだから。
おずおずと、私を上目づかいで見上げる、男に、微笑みの温度を上げてやる。
「仕方がありませんね。では、必ず、飲んでいただきますよ?」
米つきバッタ宜しく頭を振る理事長の手から、私の証書を受け取って、
私は胸ポケットから、写真を出し、机上に乗せた。
「この者は、私の使用人で、今度、こちらの中等部の3年になります。
中等部までお世話になり、高等部に進学はさせないつもりなので、あと、残り一年。
私の諸々の面倒を傍に置いてみさせたいのですが、学年違いの為、どうしても学び舎を
別にしなければならず、何かと不便なのですよ。彼を、同じ教室に居てもよいと許可を頂けませんか」
「・・・・・・そ、それは、ちゅ、中学生を、高校一年生の学舎にですか?」
怯むな。正論は、理事長側だ。
私の邪な暴論を通すには、度胸と気合しかない。
「ええ。高校に行かないならば、ただ、中学の残り一年を、どこで過ごそうと
卒業に足る日数の出席した履歴があればいいだけのことでしょう?」
「いいえ!当校の生徒なのですから、それなりの学業成績を!」
おお、意外に食い下がる。
「定期テストは、必ず受けさせて、平均点以上を取らせます。
それで、それなりの学業成績を証明できればいいと、判断できましたが。
私の論に、おかしな点はありますか?秘書の方?どう思われます?」
なっ!と、ひと声あげ、絶句して固まる理事長の後ろにいた所在無げな女性秘書に話を振る。
私は・・・と、口ごもり、惑う彼女の様子が、面白くて仕方がない。
「私の、未来を、この学校の宣伝に使いたくはありませんか?
そうでないなら、高校は、こちらに通わないと言う選択肢も、まあ、あるのですが」
ダメ押しを、理事長に告げ、最高に威厳を込めて、微笑む。
私は、金の生る生徒である。
井水の名を継ぐ者だから。
・・・音を立てて、男が、折れるように、私の心の目には映った。
◇◇◇◇◇
私の書斎をノックする音に、私は、パソコンのモニターから、視線をそちらに移す。
「小百合です。いいですか?」
「あ、はい。如何いたしましょうか?新さま」
書斎の隅のカウチソファーとミニテーブル。
と、テーブル下の大きなクッション。
そこが、千色とロコのいつもの指定席だ。
千色は、読み止しの本をテーブルに置き、私の意向を訊く。
「かまわない、入れてあげなさい」
私の返答で、ドアを開けるために、千色が立ち上がる。
今日の彼は、薄手なコーデュロイの長いジャンパースカートを穿いている。
女々しい派手な色味は、馴染めないだろうと、小百合とあかねの選んだ服装は暗色か寒色が多い。
その中でも、珍しい、くすんだ煉瓦色の細かい千鳥柄のそれは、実は私のお気に入りな千色の服装の一つ。
てとてと、と思わず効果音を後ろにつけてあげたくなるような、覚束ない歩み。
やはり、スカートは、まだ違和感があるんだろう。
「遅い!チッ!ちょっと、だめじゃんかっ!」
ドアを開ける千色に掴みかからんばかりの勢いで、小百合が、千色の襟元に手をやるので
私は、何事かと立ち上がった。
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