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持って来た箱をバサバサと落してまで、何をするつもりかと思いきや。
「ちぃ!リボンがタテ結び!!こう、するんだよ!教えたろ」
ブラウスの飾りリボンを直す為だったらしい。
ほっと、安堵し、私は椅子に戻ると、当のされた本人は、ちっとも驚いておらずニコニコ笑って礼を述べている。
「難しくて出来ないときは、アタシかあかねんとこに必ず行きなって言ったろ!
変な格好してたら、新さまに愛想尽かされるかんな!」
「尽かさないよ。タテ結びだから、おかしかったんだな。何か変な気がするとは思ったんだが
どこがとは気が付かなかった。つい、顔が可愛いから、そっちを見てしまってね」
私は、家人の前で、全く隠すことなく、千色を溺愛している。
私の言を聞くまで平気だった千色は、それこそ、庭に咲きだした桜の様に可憐なピンクに頬を染める。
「はっ!あいかわらず、バカっ可愛がりぷりだな。コレ、荷物、届いた」
「小百合さん、新さまには、敬語ですよ!」
「構わないよ。小百合が完璧な敬語を話したら、せっかく桜が咲いたのに大雨が降って全部散れてしまう」
越して来て半月。
私達は、とても暖かな空気感のある主従関係の家を築かんとしていた。
あかねは、小百合まで横柄ではないが、そこそこに打ち解けていて、
元からこの家にいた庭師、兼、家内の力仕事の全般担当の初老の遠藤も、
年若な二人に追いまくられながらも楽しげに仕事をしている。
千色は、この面子に見守られながら、「毎日、夢のように楽しく働けています」と、私に言ってくれている。
「なんでしょう?これは」
「開けてごらん?お前のものだから」
小百合の届けてくれた箱を差し出す千色に、私は笑み返す。
「・・・こ、これ!」
中に入っているのは、高校の制服一式だ。しかも特注品でもある。
開けて中身を手にした千色の目が丸くなっている。
「新学期からは、私と同じ高校のクラスで、問題集を解く自主勉強をしてもらうよ。
わからないところは、私か、私の所に来る家庭教師達に習うといい。
小百合。制服の仕組みを説明する。ちぃを連れてフィッティングして来てくれ。
改善点があれば、大至急、直さなくてはならないからな」
呆れたように、ショートの髪に指を突っ込んで掻き、小百合は舌打ちする。
「こういうんは、あかねの方が適役だよ。アタシ、厨房に戻るから。
仕組みってことは、あれだろ、胸が目立たねえように隠せるんだろ?
いろいろ弄ってみればわかるさ。あかねなら、応急処置で直すのも出来る。
ほれ、ちぃ、箱持って、あかねの所行くよ。あの子、丁度、アイロンかけてるとこだから」
千色の方へ顎をしゃくって見せ、踵を返す勇ましい小百合の後ろ姿に忍び笑いをしていたら
「ま、待って下さい。僕は、新さまに、お話を伺いたいです!
ど、どうして、高校生の教室に行かなくちゃいけないのでしょうか?」
箱を抱きしめたまま、千色は、尖った声を出す。
ああ、説明不足だったなと、思い直して、カウチに誘った。
「まあ、アタシは、何でかわかったし。晩御飯作んなきゃなんないんで行くね。
いちゃいちゃし終わったら、内線で、あかねを呼んでやって」
小百合に肩を竦められ、後ろ手に手を振り出て行かれてしまった。
カウチには、ひじ掛け側にフカフカの腰当クッションと厚手のブランケットがある。
私が座り、隣に座る千色の為に、それらを与えてあげる。
おお、なんか温かなものもあるが、これはなんだろう。とりあえず全て千色に渡す。
クッションを背に当て、ブランケット等を膝に巻いて、腰掛けた。
「千色。今日はお祝いの夕餉だね。おめでとうって先に言わせてくれるかい?」
「・・・お、祝い、なんて、僕なんかに」
今朝、千色は、私を起こしに来なかった。
不思議に思って、私室を覗けば。
来たくても来れないほどの、腹部の鈍痛と頭痛と吐き気で、部屋で呻いていた。
大慌てで、阿川医師に連絡をしようとした私を押し留め、千色は、囁くような声で教えてくれた。
「とうとう、なってしまいました。昨夜」と。
小百合とあかねを大至急、召し出し、部屋に来て貰い。
待ち構えながらも心配でおろおろするばかりの私を、二人の女子はさっさと追い立て。
「ご自分のお部屋でお待ち下さい!」あかねが、あんなにはっきり私に意見するのを初めて聞いた。
偶々非番だった、阿川医師が「特別に往診に行ってあげるわ」とのことで来て下さって
いろいろ簡単に診察して、帰りしな私にこっそり「お祝いしてあげてね」と、
往診料として出した封筒を手に握り返されてしまった。
千色に、初潮が来た。
生理痛というのが、女性にはあって、これが酷い人は、起きていることも出来ないそうだ。
そして、千色は、それが酷いタイプかも知れないらしい。
「まだ、お腹は痛い?腰も痛む?頭痛は治まったのかなと思っていたよ。読書していられたようだから」
「阿川先生のお母様が身体を暖める漢方のお茶を分けて下さって、それを飲んで、午前中、たっぷり眠ったら
頭痛はけっこう治まりました。お腹とかは冷えから来るんだそうで、これ、湯湯婆なんですよ」
小さい洗面器大のムートンの袋入りな丸い物体を掲げてみせる千色。
「確かに、お腹と腰を暖めると、少しずつ痛みが治まっていくんです。
数日前くらいから、すごくお腹が痛くて、頭が痛くて、苛々して。
小百合さんに、「そろそろ来るかもしれないね」って言われてて、毎晩準備して眠っていました。
この湯湯婆、二人がお給料でお祝いにって買ってくれてたんです」
嬉しそうに言い、それをまた、毛布と腹部の隙間に戻す。
「春休み期間で、良かったと、私は少しホッとしたよ」
肩を抱いて、逆らうことなく私に小さな頭を凭れさせてくれる千色の髪を撫でる。
「私の一方的な考えで、行動を起こしてしまったんだけどね。
やっぱり、ちぃは、義務教育の中学までで、学校に行くのは諦めて貰わなきゃいけない。
それとね、身体のこと。男子の制服を着た子が、準備をしにトイレに通ったりするのは
男子中学校で、ちぃ、一人きりじゃ、難しいんじゃないかなって。
今の学校を辞めて、普通の公立中学へ転校するってことも考えた。
でもね、そこでも、いくら共学に行ったとしても、やっぱり同じ問題が起きるでしょう」
「・・・・・・学校、辞めます。僕」
「ダァメ!短慮しないで、私の話を聞きなさい。
私と ちぃは1学年違いでしょう。きっと、これが、去年起きたことならこんなことをしなくても
学年違っても、様子を見に行ってあげられるし、何かあれば、すぐに助けを求められる。
そして、ちぃは、対処法を学んで、今年は一人でやって行けたと思うよ。
でも、そうじゃない。じゃあ辞めちゃえって、学問の大好きな、ちぃから、私は学びの場を奪いたくはないし。
だから、私の目の届く場所に居て欲しいんだ。心配で何も手につかなくなる」
しくしくと悲しそうに、千色は泣き出してしまった。
いつも、声を殺して、静かに千色は泣く。大概、しゃくり上げるか、鼻を啜るかまで分からないくらい。
「中学を卒業した資格が出来たら、この家で、ちぃのペースで大学の受験勉強をしよう。
高等学校卒業程度認定試験を取って置いて、私と一緒に、大学へ行こう?
そうだな、大学は海外でもいいね。ちぃは、ここで、どんな学問をして、どんな職業に就きたいか
のんびり、考えながら、ちぃの個性を殺さないで過ごせばいいんだ」
「だからね、この一年だけ、何とか周囲を二人で煙に巻いて、卒業してしまおう?
学校にはもうきっちり話をつけたから、毎朝、登校したら、一番に職員室に行って、
中学の本当の席のある担任の元へ行き出欠だけ取ってもらい、
そしたら、私と同じ教室に、ちぃの机は用意してある。
特別教科も知らんぷりで一緒に参加しよう。私が、なにがあっても、ちぃを一番側で守る」
「新さま、の、ご迷惑、です、ね・・・僕は・・・」
私の言葉が届かないのかと嘆息して、なおも言い募ろうとすれば。
千色は、急に私の首に縋りつくように、抱きついた。
「で、もっ! 一緒に、居たいです。ずっとお側に居たいです、僕」
「ありがとう」 「ありがとうございます」
私達は、お互いの想いが嬉しくて、お互い同じタイミングで感謝の言葉を唇に乗せていた。
「ちぃが、男だろうと女だろうと。ちぃは、ちぃ。
私は、お前を誰よりも、ずっと、愛しているし、愛し続けるよ」
心から吐露する想い。千色も同じだと嬉しいが。
「ふふふ。僕、欲しいものがあるんです。でも絶対叶わない願い」
「お?珍しいな、何でも言いなさい。買ってあげよう」
「ロコみたいな、言葉にしなくても、大好きを伝えられる、尻尾が欲しいです」
「見て下さい」って千色が言うから、私達の足元で、じいっと、仲間に入れて欲しそうに見つめて
ずっとオスワリをして、千切れんばかりに尾を振るロコを見やる。
「尻尾の、その、玩具が欲しいじゃないよな?」
可愛らしくも愛らしい答えを茶化す私を、ぽかぽか、胸を叩いて。違う違うと照れる千色。
何度か、帝王学の色事指南の女が持って来たものを、神経質な程、除菌シートで拭き清め
怖がり、止めて欲しいと懇願する千色に試して、必ず、後で、大泣きされた。
しかし感度の良い千色には、ごくありきたりなピンクローターだの電気按摩だので
けっこうの適応率でイキ狂って、淫らな貌を見せた。
そんな大泣きして嫌がった千色が愛しくて、たいてい、それらは一度使ったきり捨ててしまう。
「わかった、わかった。冗談だ。
それに、こうして私に抱きついてくれる行為で、もう、お前の気持ちは痛いほど伝わるよ」
「心から、新さまを、お慕いしております。
僕、世界中、いいえ、この宇宙全部合わせたって、一番、新さまが大好きです」
どうやら千色の蟠りも溶けたようで。
まだ涙が浮かぶ大きな瞳をキラキラさせて、私にぎゅうぎゅう抱きつく愛しい人と、
ついつい、いちゃいちゃしてしまい。
最終的に、フライパンをガンガン鳴らして現れた小百合と
騒音に耳をふさぎながら、ニヤつくあかねに乱入され。
千色は、少しさびしそうに高校の特殊加工の制服共に、あかねに連れ去られ。
私は、食事の支度と、花見と、千色の「一応女の子にもデビュー」記念(あかねが命名)を
祝う食堂のテーブルを飾り付ける手伝いに、小百合に連行された。
小百合の理論で行けば、発案者たる私が、それを指揮と制作をしないのは、参加資格がないのだそうな。
子供の頃、母に先導され、家族と使用人総出で、
誰かの祝い事をする為の準備の度のワクワク感を、久しぶりに、思い出しながら
遠藤も含めて、主役が来るまで、急いで、その大テーブルから眺めるのが一番な
庭に咲く、ソメイヨシノの桜を横目で愛でつつ、このメンバーでする初めての祝い事の支度を仕上げた。
「おお、結構いい出来だな。ご褒美にいいことを教えよう。
あかねが、試着ついでに、ちぃのお召替えもさせて来る予定だ。
こないだ、一緒に見ていたら、似合いそう過ぎて、衝動買いしてしまってな。
領収書、これ、頼めるか・・・?いや、お金、下さい!新さま!」
お仕着せのエプロンのポケットから小百合が出したレシートを苦笑しながら
私は受取り、その分の金を取って来て渡してやった。
確かに、二人の給金から、プレゼントするには少々額がする。
シフォンの薄桃色のロングドレス姿で現れた千色の艶姿は、例えようもなく美しく。
咲き初めの桜と堂々渡り合うもので。
「新さま、こ、こんなお洋服まで、す、すみません」
恐縮しきりな千色には、いきさつを伏せておくように、こっそりと、皆に箝口令を引いた。
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