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片付けを終えて、部屋に戻る廊下で、満ちたりた顔で、だが、色々と意見を交わし合う二人とすれ違い。
私は、心からの労いの言葉をかける。
「だ~か~ら!さっきもさ、ちぃにお説教してきたんだけど。あんた達は変なんだよ」
小百合が呆れながら私に言う。あかねもしたり顔で頷いている。
「変?私と、ちぃがかい?」
「当たり前だろう、あんた達以外のこの家の人は至極真っ当だ。
ちぃは、同じ使用人同士なんだからって、事あるごとに言って恐縮するし。
新さまは、アタシ達の主なのに、平気でペコペコ頭を下げるし。却って居住まいが悪い」
「そうですよ。あたし達の事を、あの嫌味なお屋敷からお給金も五割増しで引き抜いて。
なのに、お仕事は半分もやっていないのに、二人揃って、きつくないかだの、手伝おうかだの」
規模は格段に小さくなっても、仕事は沢山あると、ついつい思ってしまうのだが
あの屋敷は確かに広大で、無意味な労働も多かっただろうが、そうなんだろうか。
「料理だって、こんなに我儘を言わない、贅沢も好まない二人に合わせてるから
全部、アタシの好きなようにしちゃってるし」
「お洗濯やお掃除も、こうしろああしろ絶対言わないでしょう?
アイロンの皺が変に付いちゃったシャツをお持ちして『いつもありがとう』とかお礼しちゃうし」
「遠藤爺さんもすぐにアタシ達に、こらこら重い物はワタシに言いつけなさい。
男手が必要なら、遠慮なく言うんだよって。大事にされ過ぎだよ、まったく!」
私は、苦笑してしまう。
二人の不満は、なんだか穏やかな生活を肯定してくれているように感じて。
「そうか。こんなのは二人とも嫌かな?」
「「そうじゃないです!」」
真っ赤になって、小言を否定する二人。
だよね、慣れないだけだ。でも、私は変えないよ、どんなに世間と違ってもね。
「私は、ここを家にしたいんだ。お前達より年下の私が言うのはおかしいかも知れないが
私達も慣れて、自分のことをこなせるようになって、お前達に仕事の余裕が出来たら
先を見据えた専門学校とかに通ってみたらどうかと思う。
小百合の料理人の夢も、あかねの服飾関係の職に就く夢も、実現して欲しい。
それで、どこかで素敵な伴侶が見つかったら、この家から嫁いで欲しいと思うんだ。
かつての、私の家は、そういうところだったんだ、母が、ごく普通のサラリーマン家庭で育った人で
父に嫁して、家柄やら品格やら押し付けられて、個性を否定されて。
そんな母を、父は全力で守って、親達と別居をし、ここで、彼女の好きにできる温かな家を作ってた。
後から、前の家政婦長だったミナが教えてくれたんだけど、私は、知らずに、ここで幸せに育っていた。
母がね、この家で働いていた娘の為に、育ててた庭の花を使って花嫁のブーケを贈ったんだ。
あんな風に、私は、お前達と、穏やかに暮らして行きたい。偉ぶったりしないで」
あくまで、父の扶養家族でしかなかった母には出来る精一杯の餞をしてた。
父はもっといろんなことをしていい金品を与えたらしいけれど、母は決して過度なことはしなかった。
そうか、あの母の様であればいいのかもしれない。
つい、私は、父の、所謂、主の目線で与えすぎようとしてしまうのかも。それを言いたいのかな。
「過ぎる時は、いつでも意見して欲しい。
でも、態度は変えないからね、私は。お前達も、この小さな屋敷の大切な一員なんだから」
あかねが、ぐずぐずと泣き出して。
小百合は照れたように、そんなあかねの頭を軽く叩く。
「呆れた主従だから、アタシ達が面倒、見てやるよ。大切なちぃは、もうねんねだ。
新さまも、早く寝な、風呂でも、入って」
「あ~、まだ、お湯張ってない!大変~!新さま、30分お待ちを!」
「いいよ、今日はシャワーで済ますから、お前達も早めにお休み」
私達のこんな長閑な生活を今日で三分から満開近くまで開いて
楽しませてくれた桜を優しく揺らす風が巡る、朧月が浮かぶ夜が包んでいた。
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