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善は急げ、か、どうかはまだわからないが。
隣県の瀑布を見学し、それを眺められる近所で、小百合の特製サンドイッチに舌鼓を打った一行は
その帰路の途中、件の教会に足を向けた。
そこでは、丁度、結婚式が執り行われていたのだ。
親族だけの細やかな式だからと、新郎新婦とご家族の了承も得られて
私達も末席に座らせてもらっている。
年若いカップルは仲睦まじく、寄り添い幸せそうで。
小さなチャペルは至る所が季節の野花で飾られている。
修道院のシスター達は甲斐甲斐しく、式を手伝い、その清純な立ち居振る舞いが印象的で。
女性陣は、いつかの自分の姿を重ねているのだろうが
私は、教会で働く元神父がどこにいるのかばかりが気がかりで
ついつい、スタッフたる、教会関係者にばかり目が行ってしまう。
千色も、どんな顔をして、この式を眺めているのかと思えば
私と同様に、教会関係者を見ているから、つまらないのかと問えば
「僕も、あのまま施設に居たら、聖職者になりたいと思っていたので興味があるのです」と答えられて驚いた。直接見に行ったわけではないが、カソリック系の教会が経営する困窮の孤児院故か
とても小さく古い建物で、所々雨漏りもするとか現院長は苦笑していた。
本来は、男子禁制の筈だから、多分、修道女とは、別の敷地に暮らしている筈で。
探偵は、直接、その住まいを訪ねたわけではなく、毎回会っていたのは院の応接室だったそうだ。
偶然を装うのは少し厳しいかな。
そんなことを考え、散歩の振りで探すのはやめようかとか、思考の時。
きょろきょろ周囲を眺めていた隣席の千色の瞳が一点で、止まり、開かれたのが、視界の隅に入った。
つられて、私もそちらに視線を移す。
裏木戸をそっと開けて、何か荷を運びこむ、ひょろっと背の高い細身の伸ばした髪を後ろに束ねた中年の男が修道服に身を包み、居た。
「神父様・・・・・・な、なんで、ここに」
小声で、千色が呟く。
私は遠藤に素早く目配せし、千色を見かけ、目が合って、身を翻した彼を追わせた。
夢中で式次第を見てる女性陣に、そっと、散歩に行くと告げて、
千色を連れて、彼の消えた裏木戸の方へ向かった。式の妨げにはならないように留意し
そして千色もまた、礼を失せぬようにそっとその場を離れる。
木戸は速やかに音もなく開いて、続く建物のはざまの小道の風景を見せた。
未舗装の通い道が出来た枯れ芝の上。周囲は程々の高さの夏草が茂る。
遠藤の背が、視界から消えた。どうやら、そこを曲がるようだ。
「ちぃ、走ろう!」
「あの、何故、神父様が?どうして?」
「説明は後だ。とにかく逃がせない、話を聞き出したいんだ」
なにか問いたげな目を向ける千色の手を掴み、私達は駆け出す。
視界から遠藤が消えた辺りは緩い坂になっていて、しかも左に折れている。
その先は教会の敷地ギリギリの藪になっているように見えるのだが。
藪の隅で、遠藤の服地が見えた。誤りではない、進むのはあちらのようだ。
藪の中に、掘っ建て小屋のような、粗末な建物があった。
入口の木戸を、叩く遠藤。あまり強く叩いたら、砕けてしまうようなやわな木材が使われている。
中から、力ない声が聞こえ、ひたすら帰って欲しいと、哀願されている。
千色は痛ましそうにその声を聞き、耳を塞いだ。
「遠藤、私がお願いするから、どいてくれるか」
進み出て、話しかけてみる。
「佐藤カズトくんを小川千色くんと、名を改めさせた者です。今、彼は私の元で一緒に暮らしています。
どうか、お願いです。千色、いや、神父さまには、カズトくんですね、彼のことをお話しいただけませんか」
中から、くぐもった声がして、聞き取れない。
「ここを開けていただけますか?」
「新さま、もともと、鍵はございません。開けますか?」
「いや、ご本人の意思を無理に通したくない。開けていただくまでお待ちする」
私の態度が、彼に好感を与えたのか、細く、内側から木戸が開かれた。
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