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皆が心配するといけないから、居場所だけ、メールで知らせて。
私は大聖堂のベンチの隅で、ただ、ただ、ステンドグラスを背負う聖母子像を眺めている。
千色のお母さんの話。
今度、ゆっくり、千色が落ち着いて話せるようになったら、聞かせて欲しいな。
きっと、神父は語るだろう。この聖母子の様に、愛し愛されてた千色の名前の前の和人くんの幼い頃を。
たった一人の家族同士。あれだけピュアで優しい心を持った千色の母親が育児放棄をしていただろうなどとは思わない。
貧しくとも、大切な我が子を、あんな風に抱いてあやす、千色に似た若い母親。
病苦が襲い、まだ稚けない子を残して他界した、兄の奇形が元で崩壊した家庭の最後の一人。
思いに沈み過ぎて、私は目を閉じて考え込む。
光の加減で刻々と変わるスタンドグラス越しの色の洪水が迫るように感じて。
連れて来てよかったのか、悪かったのか。
千色はもしかして、優しかった母との幼い頃の思い出を、台無しにしたと、私を憎むかもしれない。
ふっと、風が揺れて。
そちらから香る、愛しい人の馨香。
「お待たせいたしました。神父様がお礼をお伝えして下さいと仰せでした」
「もう、いいのか?」
「はい。皆さんがお待ちです。新さま、帰りましょう?」
既に、夏の日であるのに、少し薄暗い。
「ずいぶん、長居してしまいましたね。小百合さんがこれから帰って飯の支度か~
しんどいって、騒がれてましたよ」
「そうだ、どこかで皆で食べて帰ろうか?」
「お屋敷でしたら、僕達、家政婦長や執事さんに叱られますね。
使用人の身分で、ご主人様の食卓につかせていただくなんてとんでもない!って」
まだ少し目元が赤い千色は、私を取り成すように、微笑む。
気遣わなくていいんだ、一番、辛い気持ちなのは、千色でしょう。
その言葉を告げずに、思いだけを乗せて、髪を優しく撫でた。
◇◇◇◇◇
それから、何事もなく、夏の休日は過ぎて。
無事に完成したドッグランで、リードを外されたロコが走り回っている。
ハンモックに寝そべった千色から、ボールが放られ、トッテコイの訓練をしている。
「イイコだね!はい、ご褒美」
小さなジャーキの破片を戻る度に貰い、褒められて、すっかりご機嫌だ。
私はすぐ隣で、同じように寝そべり、開いた本で顔を隠して、狸寝入りをしている。
このまま微睡んでも、木漏れ日が眩しくないように、自衛したつもりだ。
「新さま、起きていらっしゃいますか?」
「寝ているよ」
「寝ている方はお答えを返しませんよ?」
「寝言かも知れないじゃないか」
「その上、意味が通る、へ理屈まで言っておられたら、誰も寝ているとは思いませんよ?」
くすくすと千色は笑う。
やっと昨日ぐらいから、閉じこもってた部屋から出て来て、今までの様に笑ってくれるようになった。
「どうしたの?喉が渇いたかい?それともそろそろ中に入ろうか?」
「いいえ、あの・・・お願いが、あるのです」
声が改まり。私もその気配に顔の上から本をどけて、千色の顔を見る。
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