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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐3
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連絡をし忘れていたのに、親父の運転手兼秘書の使用人、中井の車は、ロータリーで俺達を待っていて。
乗り込むなり、早急に、俺達を静さんのいる場所まで運ぶ。
てっきり、家の病院、なでしこ総合病院の特別室あたりに連れて行かれると、勝手に踏んでいたのに。
中井の運転する車は、佐倉の、健の静さんと暮らした家に到着した。
「お部屋でお待ちですよ、お二人を」
俺達を引率して、玄関を開けてくれ、中井は静かな表情で、俺達を促す。
転びるように、健が、履物を蹴り脱いで廊下を駆ける姿なんて初めて見た。
俺も後を追い、嫌な予感しかしない、健が開けたったままの、静さんの部屋の襖の側へ行く。
俺が目にしたのは、酸素マスクと点滴チューブ以外は、
いつもの彼女の愛用していた寝具に横たえられた
まるで、すやすやと眠っているように穏やかな寝姿の彼女。
異常なのは、彼女を囲む、親父と里中医師と里中医院の看護婦が
静さんの身体に色々、処置をしていることだ。
「健くん。お帰り。静さんの手を握ってあげてくれるかい?」
こちらに帰ってる高校時代の3年間、
中学時代の記憶を、不幸な事件が元で喪失していて、
精神的に不安定で、その上、元来、病弱な健の、
往診までしてくれるファミリードクターだった里中医師が、
呆然と立ち尽くす、健に声をかける。
俺には、目線だけで、側に来るようにと告げていて。
健の肩を抱いて、ギクシャクと動かす小さな身体を、傍らにそっと押して運ぶ。
「静さん、お待ちかねの二人が到着したよ。起きなくちゃね」
里中医師のひげ面で無骨な容貌のわりに、意外と繊細な手が、そっと静さんの痩せて細くなってる肩を叩く。
何度か、繰り返された後、静さんが重たくて仕方がないみたいに瞼を開く。
宙を惑った瞳が、俺を捉え、健を捉えると。
大輪の牡丹の花びらがこぼれて行くみたいに
満足そうに綺麗に綺麗に微笑んで。
健の手を、きゅっと握り返して
うん、うん
って、ゆっくり二度頷いて
もう一度、閉じてしまった瞼は、二度と開かれることは、なかった。
半狂乱になった健が、静さんを掴んで揺さぶって、何度も何度も呼んだのに、
静さんは目を瞑り、微笑んだままだった。
俺に、健を止めさせて、
親父は静さんの脈を診て、瞼をこじ開けて。
重々しく、静さんの死を、俺たちに告げた。
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