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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐5
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思わず眉間に皺を寄せる俺の額を、指先で小突かれた。
「爽坊ちゃんでええかの。静さんはの、エンヂングノォトなるものを作っておったのよ」
「寝ないつもりなら、不寝番の手伝いをしろ。ついでに見せてやる」
辰三さんと親父の後ろをついて行き、
神社で見るような独特の幕に覆われた襖を払った二間続きになった室内に、これまた神社の御祓いなんかで見たような、棚が設えられてるのを見る。
静さんのご遺体が乗るのであろう、真新しい寝具がぽつんと敷かれている。
「直に、ご斎主様がお着きになるでの。迎えが行っとる。真夜中に申し訳なかったが、来てくれる仰っての」
「ゴサイシュ?」
「禰宜様じゃよ。これから帰幽奉告して、神棚を封じて、枕直しをして、夜の内に、納棺の儀まで済まさんばならんからの。朝からは、通夜祭、遷霊祭の支度をして、禰宜様に時間を決めてもろて・・・忙しくなるでの」
すでに深夜になっている部屋は静かで、立ち働き、ある程度の段取りをした葬儀社の人々も休憩をしているようで部屋には居らず。
棚は、仏式同様に、祭壇と呼んでいいらしい。
祭り・・・って弔事なのに、いいものなんだろうか、なんて考えていたら、その側に置かれた分厚いノートを辰三さんが持って来てくれた。
「これにの、ぜーんぶ、書いてある。静さんがこれからどうしたいのか、どう準備をしてあるのか」
「じゅん・・・び・・・って」
「静さんはな、症状が悪化した1月終わりまでに、この葬儀社の支払いまでしっかり済ませて、自分の死んでからのことまで取り仕切っておられたのやよ」
ノート愛おしげに繰る辰三さん。
「ご病気で字を書くのもやっとやったろうに、見てみ、ほんまに字まで別嬪さんや」
開いて差し出されたページには、これからの流れや、世話になる人々の名簿や
どこに何がしまってあって、直会というのには、なんの料理を出すまで。
「禰宜、ああ、おまえにはわからんな。神主さんがおいでになる。市郊外の佐倉神社からだ、すこし時間があるから、部屋に戻って、読んで来い。私達は熟読しているし、本人に口頭で指示ももらっているから。
それとな、用意してあるとはあるんだが、しまってある場所がわからないんだ」
「・・・・・・なにがですか?」
「お前達の礼服だ。見つからないでは困るから、最悪の場合、間に合わせで行くしかないが。持って来てないだろう?ある場所が見当つくなら考えて教えてくれ」
気がつけば、俺以外の皆は、既に礼服に着替えている。
もう、死者を弔う場に、佐倉家は変わっているんだと、改めて実感した。
感情がこみ上げるのを堪える為に、唇を噛みながら、俺はページを捲る。
「二人とも若いで、何も知らんじゃろうて。いーろいろ、気を揉んでの。わしにも、助けてやってくれろと、何べんも頭を下げなさった」
俺達の支度は、健の衣装箱の中とある。
「衣装箱は、さっきの部屋に運んでありましたけど、礼服はなかったです、多分」
「ああ、もう、漁らせてもらった。無いな。それを書いて以降、ご本人がどこかに移されたんだと思うんだが・・・・・・弱ったな。健くんは何とか隼ので間に合いそうなんだが、お前が無意味に独活の大木で」
「せんしぇのは、駄目ですかい?」
「生意気に、こいつの方が、私より身長があって、脚も長いんですよ。まあ、仕方ない今夜は私のスペアを着せます。明日は、どこか店が開き次第、買いに行かせないと」
親父に誘われ、佐倉家の居間に連れて来られ、親父の礼服を着た。
確かに、ズボンの裾が足りず足首まで出てしまう。黒の靴下が出過ぎてかなりカッコ悪い。
手放しがたくて、そのまま抱えてきたノートを見て、親父が口の端を歪めた。
「なんでも思い通りにならなかったと、悔しがるお顔が見えるようだ」
葬儀関係者の控えの間にするつもりなのか、いつもより散らかって雑多になってる居間の、
健と並んで座り、よく静さんの手製の美味い物を食い、語らったソファーに親父と座る。
「初めは抵抗があったのに、今じゃ、すっかり彼女の思い通りに巻き込まれているな、私が」
「時間があるなら、今までのこと、詳しく話してもらえますか」
親父はらしくなく、両手で顔を覆い、微かに頷いた。
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