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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐7
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◇◇◇◇◇
生まれて初めて体験する神葬祭は、戸惑うこともあったが、
静さんの配した老人達は楽しそうに、静さんの思い出を語らいながら働いて助けてくれた。
俺達の礼服はその老人達のある婦人が、本葬にあたる葬場祭の手伝いに来た時
静さんの部屋の箪笥から、さっさと見つけてくれ。
俺は、その一式に、声も無かった。
それは、紋付の羽織袴。
歌舞伎とかの古典芸能で、大人が着ている、あれ。
佐倉家に出入りしている頃から、普段着が、実は、和服な健に合わせて、
着流しは着れる様になってたけど・・・これって、結婚式とかにしか一般人は着ない。
ど、どう着るんだと、呆然とする俺に、健が、着替え終え、手伝ってくれた。
「すごいな、こんなのまで用意してくれてたんだな、静さん」
「佐倉本家で、礼服着れたの、きっと僕等が初めてだろうね。大人になれた人、僕しかいないもの」
「静さん、これ作るときも、すごく嬉しそうだったって、皆、言ってたよ」
羽織紐は、黒と白それぞれ用意されていてどっちをつけていいのか惑っているうちに
すーっと、健は先に部屋を出てしまい。仕方がないから、両方持って追った。
「あらあ、立派ですけど、残念ですねえ~」
その婦人が、俺の元に来てくれて、ああ、紐をどっちつけるのか訊こうって息をつくと
俺の身体のあちこちに触りだす。
「え?あ、なんですか?」
「仕付け糸、ついたまんまですよ。健ぼっちゃんらしくない、気がつかれないなんて」
着物の端々についてた糸を切り出した。
「ああ、これ切って良かったんですか?洋服のと同じ扱いで?」
「ええ。はい、お終い。羽織紐は黒ですよ。白は結婚式とかおめでたい時用です。静さんね、白も使うかもしれないからって笑ってらしたわ。近々お嫁取りでもなさるの?」
結婚は・・・してます、とは言えず。曖昧に誤魔化して笑った。
健のを横目で見てみれば、健の分の糸は、ちゃんと取ってあった。
さっきの着付けてくれた会話も、もしかしたら、惰性だったのかなって、溜息が出た。
佐倉の五つ紋付を着て、俺達は喪主として、ようよう一切の葬儀を執り行った。
日本男子の第一礼装を自前で持ってるなんて、実はけっこう凄いんだけど。
俺の会いたくもない祖父さんが、曾祖母さんの葬儀の時に誂えて、結構な値段だったの知ってるし。
ほとんど、心ここにあらずで、周囲の操り人形みたいに、指図どおりに緩慢に動く。
普段、あんなに泣き虫で困ってしまう健が。
一切の感情を封じ込んでしまった碌に話さない健が、
大騒動を起こしたのは
火葬場から、佐倉神社にあるという、一族の碑に静さんのお骨を、収めに行く車中だった。
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