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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐10
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一緒に佐倉家に連れて行き、壷を禰宜様にお願いして。
分骨作業も、神棚のある、元、静さんの部屋で、健と二人、話をしながらしたいと仰るので、ご要望を通し。
俺は、辰三さんと和気藹々と話してる客間の女子高生の元へ行こうと足を向けた。
が、忘れ物はないかと確認するために、素通りし、健の部屋へ行く。
中庭に面した健の部屋は、葬儀が終わった後、襖も入り、元通りに戻されて。
隣室で、二人の話す声がなければ、何にも変わっていない様に見える部屋と、部屋から望む中庭を
ただ、ぼんやり眺めている。
こうしていると、家中を美味しそうな匂いがだんだんしてきて
「ご飯が出来たわよ~」って、静さんが呼びに来てくれるように思うのに。
俺が願った誰にも言ってなかった一つの願いは叶ってて。
静さんの葬儀中、庭の紅梅は春の盛りを向かえ、匂い豊かに咲き誇っていた。
桜は間に合わなかったけど、静さん、梅は見て行ってくれただろうか。
風の強い今日は、たくさんの花びらが舞う。
静さんが、風になって、花びらと遊んでいてくれるなら、俺はもう泣くのを止めたいと思い
でも、やっぱり泣けて。
隣室に嗚咽が聞こえるなんてかっこ悪いと、溜息と深呼吸を繰り返してた、独り。
涙が納まったら、親父にこれから帰る旨だけ、電話で報告していこう。
◇◇◇◇◇
俺達の住む、東京のマンションに戻って。
入学式の時、3人で写った写真の前に、禰宜様に習った様に簡素な祭壇を作った。
健に、ここにお骨を置いてねと頼んだが、肌身離さず持っていたいらしく。
仕方がないので、肩下げの布製ポーチを買ってやり、入れてやった。
大学は春休みに入ってて、親父に俺が、帰り際にした電話で言ってたように
俺達の学業生活にまったく影響ない日程で、彼女は命の儀式の日取りを入れ込んでしまった。
「この調子なら、50日祭だって、ゴールデンウィークだぞ。すごいな」
俺も気付いていたが、やっぱり、偉大だと思った。
だが、俺達の休日も4月の第2月曜日には終わってしまい医学部3年目の春になる。
普段、誰より勉強熱心な健は、まったく、自分が大学生だってことが気になっていないようで、
どうやら、俺は健の分も、教科書を買ったりして、
あんなに密かに楽しみにしていた学生証を二人とも「佐倉」にして作り直すことも
独り寂しく手続きに行かなくてはならないようだ。
まあ、旧学生証と、新たに使用する写真があれば、変えられるし。
事情を説明すれば、事務局も煩くは言わないだろうから。
もうすぐ、激動の3月が終わる。
そして、毎日が、ちょっとした、地獄だ、最近。
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