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”3” 王子、悔恨に呻く ‐4
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俺を、来た時のように連れ戻り、
横山が、手術室前で、爪を噛んでランプを睨む井田の頭を撫でた。
「事情聴取、彼女たちの番?」
「うん。ボクは話して来たよ、そう、ね、中舟生くん?」
井田が、さっきの俺を思い出してか、少し怯えたように身を竦めたまま俺を呼ぶ。
「中舟生くんの事情を聴くのに合わせて、あの2年のイケメン君も話すんだって」
「は?なんで、留華は、警察に行ったんじゃねーの?」
「なんかね、ショックで、今はちゃんと話せないから、とりあえず、1度だけ話すってことにして
中舟生くんにも聞いてもらわなきゃならないから、一緒に聴取するんだって」
俺は、警察から戻る留華待ちをしてから、聴取されるらしかった。
手術室のライトは、揺るがず、冷たげに点灯し続けていた。
◇◇◇
「まだ、被害者は手術室から出られないみたいですね、どうぞ、おかけ下さい」
留華と座っていたのは中年のオジサンで、もう一人の若い女性の同僚らしき人が
入室した俺に話しかける。
「初めまして、私は橘家の顧問弁護士をしております、坂本龍子です。
あちらは担当検事の・・・」
「近藤です。今回は、大変なことになりましたね、どうぞおかけ下さい」
女性は、弁護士で、オジサンは検事だったのか。
俺が勧められた席に座ると、どこからともなく、数人の警察らしき人が現れ、
録音の準備をし始めた。
「今回は、被疑者が、死亡してしまいましたので、被疑者から事情を聴くことが叶いません。
そして、最も関与したとみられる、橘さんが、その被疑者の知人でしかない為、
警察側からも、関係した情報を開示して頂き、事件のあらましを形作った上、
調書を作成し、被疑者死亡で送検されます、よろしいですね?」
留華は、弁護士の隣にサイドに座り直させられ、俺は、検事と正面から向き合う。
「では、橘さん、纏まって起きたことを話せなくても結構です。思いつくまま、お願いいたします」
留華は、震えるまま、弁護士に肩を抱かれ、深く息を吸う。
「オレが、放課には、挨拶に行くって、健に、連絡してて。で、会いに行こうとしたら、
アイツが馴れ馴れしく話しかけて来た。顔は見知ってたけど、なんて奴かは知らない。
地味で、なんか、いつも誰ともつるんでなくて。見るからに暗いヲタみたいでさ。
近寄ってこられて、話しかけて来たとき、すごいびっくりした」
「被疑者は、西郷士朗、20歳。一年、大学浪人の後、こちらの医学部に入学した」
留華の知らない、ぼんやりとした情報を話す時、警察が情報を入れ込む、
そんな方式で、進んでいくようだ。
「あ、西郷って言うんだ?いかつい名前って、思ったんだ、確か。
で、あいつは、中学で、すごく健と親しくしてて、でも、中学3年の秋に、親が離婚するんで
母親の郷里の九州に、急に引っ越すことになってしまって、
ちょうど、同じころに、健も中学に来なくなって音信不通になって会えずに別れちゃって。
今朝、面影が似た人を見たから、その子かどうか会いに行ってみたい、
一緒に行ってもいいかって。良いも悪いも言ってないのに、勝手について来たんだ」
「西郷、旧姓は、金田。あだ名は、金曜日だったそうだーーーあの、近藤検事、
例の中学の事件はここで語ってもいいんでしょうか?」
近藤検事は、黙って、伏せていた眼を上げ、かすかに頷く。
中学の・・・じ、けん・・・って?
「えーと、佐倉さんは、被害者とその・・・恋人というか、その・・・」
「俺は、健と結婚しているつもりで、佐倉の姓を名乗っています」
俺の強い発言に、周囲が騒つく。
嘘偽りない気持ちだし、どんな偏見も気にならない、俺には大したダメージでもない。
「私が代わります、その件の説明は。
・・・話して、いいのかが、憚られるんだが、その、丹羽氏は、今、海外で。
連絡を取ったところ、すぐに帰国の手立てを探して、一刻も早く帰ると言ってくれたんだが、
その後連絡が途絶えてしまってね。中国の奥地に取材中らしくて。
この事実を知っているのは、他には、亡くなった、被害者の祖母しかいないんだ。
覚悟して聞いてくれると助かる。
被害者は、中学3年の秋に・・・その性的な暴行を複数の同級生にされて。
その一切の記憶がないらしいんだが、我々の調査から、その犯人たちが特定された。
その中の、一人が、金田士朗、今の西郷士朗なんだ」
苦い何かを含んだように、検事が俺に告げた。
「警察は、6人の少年を、マークしなくてはならなくなった。
うち、5人は、未だに、マークし続け、被害者には近づけさせないようにし、
本人達も名のある親を持っている為、体面上と将来の自らの為に、近づかないよう
周囲共々、見張っている。まあ、どの子も、今は正気付いて、あの被疑者であることを
隠して生きているから・・・」
「待って下さい!」
俺は、検事の声を押し留める。
静さんと、丹羽さんに聞いている話と違う。
「健は、5人に襲われたんじゃないんですか?!」
「ああ、事情を、お二人から聞いていたのか。お二人には、そうお伝えした」
「・・・え?」
「実は、もう一つ、DNA反応の違う、体液があった。その持ち主を、我々は逃がしてしまった。
手を尽くして探したんだが、見つからなくて。ご家族に不安をおかけしてはならないと、
見つからなかった金田を、該当から外して、ご報告したんだ」
つまり・・・野放しにされた、健を強姦した男。
それが、今回の凶行の犯人だって・・・言いたいのか、こいつらは。
じゅるじゅると、体中を怒りのマグマが脳に駆け上がる。
「ふっ、ふざけんな!じゃあ、警察の不手際で、健が、アイツに!!」
「一概には、そうは言えないの。金田くんは、姓も、離婚後お母様について行かれた住まいも
DNA検査結果が出て、捜査の手が回った頃には、変わっていて、探せなかったの。
離婚して、すぐに、お母様がノイローゼで焼身自殺をなさって、
親戚が口をきいて、何人もの手が回って、養子に出されてしまったようなの。
それでも、被害者が入学するときには、大学側に協力依頼して全ての入学生の身元を調べ、
その中に関係者がいないと確認して、きちんと、警察は、対応しているの」
弁護士のくせに、警察が黙ると、女は声高に、そう言って、奴らを庇った。
「6年も前の被害届も取り下げられた事件の為に、そこまでしてる警察に落ち度はないわ」
坂本が女じゃなければ、絶対に、手が出たと思う。
実際、隣に座ってる留華は、腹が立ったんだろう、女を突き飛ばした、椅子から。
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