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”3” 王子、悔恨に呻く ‐6
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アイツを、健への殺意に駆り立て、行動させた理由の、最後のきっかけ。
「周囲にいた人達の証言でも、被疑者は『穢さない為に~』とか、叫んでいたと」
「そ、そんなの!私は聞いていません。私は、橘家の弁護人ですが、
聞き捨てなりません。佐倉さんの責務とは関係のないことでしょう!
被疑者の殺害に至る理由に、それを採用するなんて、
あまりに一方的で、穿った意見ではありませんか!」
愕然とする俺に代わって、弁護士の女がいきり立つ。
「佐倉さんの責務などとは、言ってません。
ただ、被疑者は、本当は、被害者ではなく、貴方達への殺害目的で
殺傷能力の高い凶器を手に入れ、それを持ち歩いていたと思われるのです。
従って、この案件は、計画殺人ではなく、突発的な殺人未遂事件と、判断したいと思っています」
「まあ、本人から、話が聞けない以上、オレ等の勝手な想像で書くしかないわけです、
送検書類も、なんもかんも。検事が仰る方向で、書く方が、ぶっちゃけ、解りやすい。
一般人の発想に近くて。そもそも、白昼堂々、あんなことが出来る頭のイカレた奴
オレ達みたいな、凡人に理解は不可能なんで」
刑事のとぼけた言訳は、打ちのめされてる俺の耳を素通りして行く。
明日、多分、留華が会いに来て、健を連れ出す、その時に見るかもと
俺のちっぱけな嫉妬で、たっぷりつけた独占欲の印が。
あの、狂人の狂気で満水の泉に、一滴の、刺激を与えた・・・。
きっと、健の恋人であったことが、秘密だった、男ーーー芙柚も。
今の、俺と同じ、苦悩を・・・味わったんだろう。
中学生の健が、気の狂った狼達に襲われてしまったきっかけを、作ったこと。
事件の報を知って、一番に駆けつけ、俺を殴り倒すだろうと思った義兄の彼は。
多分、やってこないだろうなと、ぼんやり、思った。
◇◇◇
健は、何とか、一命を取り留めた。
一度目の腹部の傷は、ちょうど盲腸付近に刺さり、
二度目の胸部の傷は、間違いなく心臓を狙っていたのだろうに、
奇跡的に、身体を捩った健が、それをぎりぎりで避けて、致命的な部分ではない箇所を抉った。
健の生還を、俺は、すべての祈った先へ感謝した。
健が、目覚めるまで、側に居たいと願ったけれど叶わず。
集中治療室に、横たわる健を、食い入るように眺めてたら、
明日の午後には麻酔も切れるからと、教授や友人達に慰められつつ、帰路に就く。
大学病院のツテから知らされたのか、耳の早い、親父から
留守電を含んで、かなり電話やメールが来ていたが、俺は反応する気力もない。
自己嫌悪に、これから、健の匂いの残るベッドで蹲って唸るくらいしか
何かできることもないし、アイツを殺したくても殺せないし。
過去に戻れるなら、健が静さんの死のショックから戻ってくれて、
浮かれて、調子に乗ってた、俺を、まず、殴りに行かなきゃならない。
なんか視線を感じるんだと、少し怯えてた健を、気のせいだと笑った俺を
蹴り飛ばし、周囲を確認させに行かなきゃならない。
後悔なんて、しない主義の俺を、今宵ほど、苛む夜は、もう、ないだろう。
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