アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”5” 王子と眠り猫 ‐3
-
浹さんは、笑い飛ばしてくれた。
「アイツは何にも言って来てないよ。中舟生くんさ、アイツに対抗心持ちすぎ。
もうね、アイツは、健くんのお兄ちゃんになるって、ちゃんと決めたんだから、信じてやって」
「でも・・・俺、護り切れなかった。健を傷だらけにしてしまって・・・」
「健くんに、消えない心の傷をつけた元凶だって、アイツはずっと自分を責めたんだよね、あの頃。
健くんから自分が恋人だった記憶がなくなっちゃったことよりも、辛かったみたい。
リリスもね、辞めたいって、言ったんだ、アイツ、あの時。
事件の日、迎えに行けなかったのって、リリスが学祭で、ステージに立てることになってさ、
そのステージリハに出てたからなんだよね、実は。ちょうどさ、レコード会社の人がお忍びで見に来てて
あれで、家のバンドのメジャーデビューが確定した日でもあるんだけど、ね~」
芙柚と浹さんは、現役大学生で構成された、デビューから、あっという間に売れたビジュアル系バンドで
ベースとドラムをやってた人達。
去年、惜しまれながら、解散した。それぞれの本来の夢の為にって理由で。
大学を卒業し芙柚は建築士と家具作りをしたいと今は栃木県の那須で修行中、
浹さんは工学部大学院に進んでロボットの研究をしてる。
他のメンバーも、医者や、弁護士になるため、勉強中だ。
あ~ボーカルの困ったチャンで元女装癖でセックス依存症の心を病んでた奴だけは・・・何してたかな。
リリスって女悪魔の名を冠したバンドは、一時の夢だったんだって。
「オレね、思う。人生って皮肉だなって。必死にやってることの方が成就するの難しい。
大事にしたいこと、守りたい人、そういうの、出来ない理由があるときに限って
どうしようもない邪魔や、災難が降りかかってくるよね。でも、さ。こうも思う。
きっと、試されてるんじゃないかなって、自分の本気を、さ。負けないで貫けるかを」
信号待ちで、俺をミラー越しに、浹さんは見つめてた。
「できるよね、君には。アイツには出来なかったこと・・・許されてなくて」
「・・・え、どういう・・・?」
信号が変わると、笑って誤魔化されて。
そこから数分で、自宅だった俺は、浹さんに車を降ろされてしまった。
◇◇◇
家の中の雑事を片付け、湯浴みと少しの仮眠の後、
糠床を、あの商店街の救世主婆ちゃん達に、健が元に戻るまで預かって貰うように頼みに行った。
「状況を見て、封印して置けるから、任せな。皆、あんた達がいつも通りになって帰ってくるの、
首を長くして待ってるからね」
って、静さんが乗り移ったみたいに、しっかりと請け負ってくれた江戸っ子な老女達。
健を愛してる皆が、
きっと、連絡を寄越せない芙柚も絶対、
一日も早く、目覚めてくれることを待ってる。
全力で、どんな健の苦しみも辛さも、俺は、支えてみせるよ。約束するし、もう、してるでしょ?
薬指にちゃんと、掲げてるんだ、決心を。
とっぷり日暮れた町並みを、のっしのっしと、でも、早歩いて。
俺は、病院へ戻った。
・・・・・・戻るなり、大騒ぎに巻き込まれるとは露知らず。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 337