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”5” 王子と眠り猫 ‐6
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俺の腕から力が抜けて。
親父は吊り上げられ爪先立ちしていた足を地につける。
「お前の同級生で、大学病院傘下の心療内科医院の個人医院を実家に持ってるのがいた。
柳って言うらしい。そこに個室を借りることが叶いそうだが。条件を飲めるな」
柳って、同じ医学部で、ちょっと美形な、ゲイを公言している内部組のサラブレッド、
柳京哉(ヤナギ キョウヤ)のことだろう。
細身で、カテゴリー的には健に近いから、ネコだろうと思う。
一時、やたらとしつこく俺に粉をかけてきたが、最近は無駄だと気付いたようで、世間話すらしない仲だ。
性格が、嘘っぽいツンデレで。腹黒さが言動の端々に見えるんだ、かなり苦手なタイプ。
奴の実家は東京23区外・・・か。
だが田舎に連れ帰られてしまうよりは、ずっと近い。
「条件って・・・なんですか」
「普通に戻ることだ。当り前なことを聞くな」
「健がいないのに、普通なんてありませんよ」
「お前は、生まれてからずっと、彼と生きてきたのなら、その意見は正論だが。
お前のあるべき日常へ戻ればいい。学生の本分を満たせ、いいな?」
親父の言い分は、わかる。
健が目覚めて、悲しませない為には、俺が自己憐憫に沈むことを許し続けてはいけない。
「せめて、日曜日までは、このままで居させて下さい。
月曜からはきちんと学業に戻ると約束しますから」
「それは待ってやる。条件はそれだけではない。
お前が健康に、お前らしく生活できなくてはダメだ。飲めよ?」
渋々。約束を交わした俺を、親父は、その部屋に泊まるようにと言い置いて
中井を深夜に呼び出して、田舎に帰っていった。
支払いを済ませて行ってくれたらしく、その上、朝食まで、付いていた。
◇◇◇◇◇
一昨日、昨日と、目覚めてくれるように祈ったが、天には通じず。
幸い、3現目まで休講だった俺は、月曜日、新宿駅から電車で30~40分程度の近郊の市に
健の転院手続きをしに来た。
健は、病院側が用意した救急車で運んでもらってて。
ベッド数も100弱な、小規模の古ぼけた個人医院、柳心療内科の受付にて声をかけた。
しばらく返答がなくて、どうしたものかとそのままでいると。
「すみませ~ん。新規の患者さんでしたら、受付の・・・!!」
病院にあるまじき、猛スピードでリノリュウムの床を蹴って走ってくる看護士。
「いえ、今日、大学から転院の、佐倉の身内のものです」
「ちょうど、それでバタバタしてました。今日、受付の子、仮病で休んでて。
ボクが外来受付やってるんですけど、人手が足りないと現場ヘルプに呼び出されちゃって。すいません」
俺の側までついた、青年が額の汗を腕で拭い、手をわき腹で擦った。
すっと、握手を求めるべく、青年が俺に手を差し伸べた。
「柳百哉(ヤナギ モモナリ)です。親父が去年他界して、弟が跡を継いでくれるための勉強が終わるまで。
一応、ボクが保護者であり、当医院の責任者です。これからよろしくお願いいたします」
感じが圭介の実兄で俺が医者の将来を奪ってしまった田舎のセフレの恭介を移したようで。
わけが判らず、心がざわつくのを、誤魔化しながら、握手に答えた。
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