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”5” 王子と眠り猫 ‐7
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百哉は、薄っぺらいがそこそこの身長で、しゅっとはしてたけど、まあ、どこにでもいそうな青年。
恭介との共通点は、多分、そこだろう。
ただ、今の俺の精神状態で、百哉が似ていることが気にかかったのが問題だ。
「どうされましたか?受付をご希望でしたよね?」
「ああ、すみません。宜しくお願いいたします」
つい、呆然と見ていてしまった俺を不思議そうにして、カウンターの中に回り、質の悪そうな紙の申込用紙を出して来る。
「こちらの筆記具をお使い下さい。保険証等の書類は、佐倉さんがお持ちになると、
お付添いのお父様が仰いましたが、ございますか?」
慌ただしく、財布から、健の分の保険証と、大学病院から預かってた書類を出す。
病院を移す際の付添は、作曲家の職業上、時間を作れる丹羽の義父にお願いした。
俺は、諸事の手続きが終えて、直ぐに、住んでる地域に戻らなければ、授業に間に合わないから。
病室を確認して、寝顔を数分眺められたら御の字だ。
移動で、JRと私鉄と地下鉄といろいろ考えて、一番早くて39分。
駅前からバス等の公共機関を使いさらにプラス10分。
徒歩移動も含め、余裕を持って考えたら、片道約1時間。
俺の眠り猫の今度の古城は、けっこう遠い。
「うちの病院、施設古くて済みません。でも、佐倉さんのお部屋はいいお部屋なんですよ。
中舟生さんが、褒めてくれてましたから、えへへ」
百哉が案内してくれた個室は、3階の角、日当たりのいい、窓からは多摩川が見える景色のいい部屋。
脳の障害があるわけではない健の生命維持装置は、簡素だ。
栄養剤の点滴と、排尿のカテーテル。それが無ければ、普通に静かに眠っているように見える。
呼吸も困難ではないから、マスクも外していて、鼻にチューブを渡している程度。
呼吸とかより、念の為の処置だそうだ。
他には脳波の、心臓の動きを観察するための電極コードがいくつかついている。
チューブと、電極は、来月まで目覚めない場合は、外すことになってる。
「な、さ、佐倉くん。お疲れ様」
「こちらこそ、ありがとうございました。お仕事休んでいただいて」
丹羽の義父は、目が真っ赤だ。
日に日に後退すると気にしている、頭頂部がさびしい、50代後半の彼。
驚くほど、健に似ていない、どこにでもいそうな小柄な中年男性。
百哉といい、丹羽の義父といい、平凡って、平和でいいなんて、つまらない嫌味を思う卑小な自分。
泣きながら、健に付き添って、ここに来てくれた人を。
感謝するよりも嫌味が浮かぶなんて。
心がささくれ立って、血が滲みそうだ。
いっそ、どくどくと大量の血になって、俺から出て行ってくれたら、楽になるのかな。
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