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”7” 目覚めよ、王子の猫 ‐7
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百哉は、返答に困り、保留して、俺に、直様、連絡を寄越した。
「今、今すぐに行く!」
「えっと、それは、不味いんじゃないかな。鷲尾先生にお伺いを立てなきゃ。
昨日、写真見て、あんなに動揺しちゃったのに・・・だめだ、来ても会わせれないよ」
って言うか。
お前の弟が、健に余計なこと言ったんだろ?まず、謝れよって、八つ当たりの感情が胸を過る。
あと、看護婦って、誰だ!患者の前でそんな無神経なこと言いやがって!
「佐藤先生に聞いてみる!」
「あ、ダメ!佐藤先生、外されるんだから!」
「はあ?」
昨日は、何にも言ってなかった。
佐藤医師は、落ち着いた健を診察して、そのまま大学病院に戻った筈。
「鷲尾先生、カンカンだったんだ。昨日のこと、報告したら。で、佐藤先生は外すって。
健くんの治療方針、揉めてるでしょう?佐倉くん達に肩入れしちゃダメだって、ボクも怒られた」
本来、モニター室にしてる空き個室も、関係者以外立入禁止にしてるけど
俺達、大学の健の関係者は、当たり前に出入りしちゃってるのも、鷲尾医師は面白くないんだ。
監視カメラのアイデアと設置費用を持ってるのが、俺だから、文句が言えないだけ。
だって、脳波計借りられないのは、大学病院側の不始末じゃん、ってムカついた。
ま、健に、いらない機械を着けさせて不自由な思いをさせるのも嫌なんでいいけどさ。
俺達が医学生だってのが、多分、鷲尾医師達には、面倒なんじゃないかな。
一般人より遥かに知識がある分、どんな治療をしようとしているのかが分かってしまうし、
薬剤師の卵チームも一緒だから、薬もすぐに調べる。俺達も有名どこなら大体、把握できるし。
こないだ、井田は言動が予測着かなくて怖いから、出禁にしてるんで、横山が来て。
図書館で調べて考えた、鷲尾医師の治療プランに対する意見書なんて持って来て。
佐藤医師が苦虫を噛み潰した顔で、一応、目を通して、
横山が帰った後、渡せないから、処分してって、俺に戻されたし。
「本当は、鷲尾先生に一報すべきだったんだろうけど。血迷ってかけちゃった・・・」
百哉が俺と話して、少し冷静になったのか、後悔し出している。
俺としては、ラッキーな百哉の凡ミス。
「モモ、お前さ、俺の写メとか持ってたりする?あ、ないか。あるわけないよな。
じゃあ、聞いてみてくれないかな、うん、昨日、圭介が訊く筈だったこと」
「だ、ダメだ!ボクにそんな権限ないよ!」
「いいんだ。やってみてよ」
百哉は、かなりごねる。
そりゃあ、そうだよな、曲がりなりにも健は、柳心療内科の患者さんなんだから。
看護士であり、経営者の百哉にとって、親父が、けっこうな額を前払いでしてる一番の患者さん。
業を煮やし、俺は百哉に冷たい口調で告げる。
「出来ないなら、会わせろ。俺が直接、健に言う」
言葉に詰まる百哉。
断れないだろう?ここまで言われたら。
「・・・・・・わかった。じゃあ、夕方、モニタールームで見ててくれる?」
「ああ?今から行くって言ってんじゃん」
「えっと・・・」
「時間稼ぎして、鷲尾先生に、御注進すんの?」
逃がすか、そんなの読めてる。
「鷲尾先生に言っても構わないよ、でもさ」
「佐倉くん?」
「今、俺、車に乗るところだから、鷲尾先生より、早いよ、病院に着くの」
身支度して、大学に向かうところだったんだ。丁度。
健に知れたら、もったいないって叱られそうなんだけど、帰りに健の所によって
帰って来るのが日常になってから、俺は大学近くの駐車場を借りて自家用車で通学中だ。
通話を切って。
俺は車に乗り込み、アクセルを踏む。
一日、勝負が伸びただけ。
俺は悟った。
健のことを、人任せになんかしたら、ダメだって。
◇◇◇
あまり、食が進まなかった朝食のトレーを、百哉が片付けている。
健は、自分で、やりたそうにして、百哉を見てる。
個室の中なら、健は自由に歩くようになった。
百哉が、読話してくれるから、けっこう、百哉は健と話をする。
小田が悔しがって手話を覚えようとしてたけど、健側が出来ないんだから無意味だと
阿川に突っ込まれて、凹んでいた。
「あ、うん。いいですよ。歯磨きして来て下さい」
まだ、恐る恐る身体を動かして、ベットから降り立ち、部屋の隅の水場に行く。
歯ブラシとコップ、家にあるものじゃないのを、買って持って来た。
点滴とカテーテルは早めに外したから、食事もしなくちゃならないし、
オムツが嫌なら、部屋にあるトイレに行く為に歩かなくてはならない。
少しずつでも、睡眠への依存を解いて、普通の生活に戻してやる為には
この方針には、俺も賛成してるし、積極的にして欲しいと思ってる。
健の使うタオルも、下ろし立て。着ているパジャマも。
健の使うものは、全て、新品だ。
現在の彼を知らせるものは、何もかも、与えることを禁じられている。
つい、この間から、百哉が待機している状態での、個室についてるシャワーも浴びれてる。
健は、体毛も薄いし、髭も殆ど生えないから、刃物を持ちこむ必要がないが。
風呂場は、死ぬ気になれば、いろんな手段を持って、可能に出来る場だ。
腹部と胸部に走る傷を、健は、その時、初めて見て。
翌日、鷲尾医師に説明を求めた。
鷲尾医師は、中学時代の記憶が戻っている健に、それを正直に言うべきか、俺に訊ねた。
あの記憶がある健ならば、関連付けて、告げれると思うがいいかと。
俺は、酷だと思った。
だって、そうだろう?
健は、これから自分の忘れてしまった日々を過ごした、『佐倉健』として
生きてかなきゃならないだけでも、すっごく大変なのに。
健の中では、つい、先日にあったように感じている酷い記憶の先に
それだけで飽き足らず、自分を殺しに来た奴がいたんだなんて、聞きたいか?普通。
健の、多分、起きていられる時の、ここでの朝の日課を、俺は初めて見る。
記憶が有る無いに関わらず、きちんとしている、全ての所作が。
静さんの躾の賜物なんだろうなって、しみじみ思う。
「健くん、身体、どうする?やっぱりシャワーしたい?うん、じゃあ、いいよ。
着替え、出しておくからね。傷にはかかっても大丈夫だから。
終わったら、軟膏塗るから、上は着ないで戻ってね」
首を縦横に振って、質問に律儀に答える健を、見守る。
・・・え?
「どうかした?」
俺は、画面の中の健と、目が合った。
すうっと手が伸びて、指し、口が動く。
「健くん?」
俺は、読話が出来ないが・・・・・・
出来ないんだが、そう見えた。
ミ ・ ル ・ ナ ?
って、動いたよな?
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