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”8” 目覚めた、ネコ ‐1
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side タケル
夕方、僕は、食べたくないと首を振ると、百哉さんが困る
朝と晩ご飯だけは、無理にでも起こしてもらって、必ず食べなきゃダメだって
先生は決めてしまったから、日課になったけど
病院のご飯は、子供の時に入院しても、いつも思ったけど
やっぱり美味しくないんだ
百哉さんが、僕の専属の看護士さんなんだって
起きてたのが、みんなにわかっちゃったのは
この人が2日間徹夜で、僕を見張り続けたからなんだって
僕は、時々、少しの時間起きていた
でも、やっぱり、眠っていようと思うと、耐えられない睡魔がやって来て
僕を抗いようのない力で、捕らえてしまうから
それに、眠っているのは、気持ちがいいんだ
「猫の語源って、寝てばかりいるからって言う説があるんだって」
誰だろう
すごく温かくて、優しい穏やかな声が頭の中で響いて
僕の髪をそっと撫でてくれる
そのイメージが、湧いてくる、どこか、僕の知らないところから
それを思い出すだけで、眠りに落ちる時、穏やかな気持ちになる
時折、目覚めては
それが、大概、深夜で、誰も居なくて
ああ、ここは病室なんだって、長年の経験からすぐにわかって
ああ、僕、あの事件の色んな怪我とかそういうので、入院しているんだな
って、合点がいって、じゃあ、お祖母ちゃんが来てくれて、起こすまでは
いっぱい眠っちゃって、逃げていようって思ってたのに
あれは、百哉さんが、僕を見張る前に、実は起きてた時
なんだかすごく騒々しくて、怖い感じがして、寝た振りした
甲高い女性と男性の笑い声と、陰険な話口調で
ずっと、僕のことなんだって、わかるように、
個室のベッドを二束三文で、いつ目が覚めるか知れない愚かな弱い男に
貸してしまって、どういう考えなんだろうって、多分、僕への悪口と一緒に
誰か、別の人のことを話してるのが判って
別の人が入ってきて、女性の声はしなくなって
甲高い声の男の人は、後から来た人を怒って詰り始めた
それが、すごく怖くて、僕は時々、見つからないように薄目を開けて見た
甲高い声の人は、男の人なんだけど、甘いマスクで身体が小さい女性っぽい雰囲気の人
後から来てた人は、背も普通で、それといってどこも特徴的じゃないけれど、優しそうな人
二人は喧嘩みたいになって、更に後から、慌てて入ってきた
目の覚めるような美丈夫の若い男の人が、仲裁しようとして
なんでか、その人も甲高い声の人に責められてて
僕はただただ、怖くて、一生懸命寝たふりをしてた
甲高い声の人が叫んで出てった後、静かになって
僕のことを、残された二人が話してて
視線を感じなくなったから、そっと、薄目を開けてみた
そしたら、二人
百哉さんと、そのイケメンさんが、キスしてた
見ちゃいけないって、咄嗟に思って目を瞑ってたら
二人は暫くして、一緒に部屋を出てった
あの二人は・・・・・・恋人なんだろうな
そう思ったら、どうしてだか、ぎゅうっと胸が締め付けられるような感じを覚えて
僕は、それを気にしたくなくて、襲い来る睡魔に、身を投げ与える
そうだ、眠っていれば、何にも苦しくないんだ
なのに、僕は、見つかっちゃって、起きてなきゃダメだって先生に言われて
何か話しなさいって言われて、返事くらいだけでもいいからって
返事したいのに、声が、出なくて
頑張ってもどうしても出せなくて
なんか、薄い機械を持って来られた、ああ、ノートパソコンって奴かな
それで、お話をするつもりなんだなって、手渡されて
あれ?これってキーボードないんだけど、忘れちゃったのかな
「健くん、タブレットだよ。授業で使っているでしょう?」
先生の言ってることがわからない
僕の中学では、パソコンはデスクトップしかなかったし
ノートパソコンを授業で使ったことなんかない
はっとして、隣にいる百哉さんに、「声が出せなくても普通に話すみたいに口を動かして」
って言ってもらって、僕の思った疑問を、伝えた
ああ、この人、唇の動きが読めるんだな、昔、子供の頃に小児病棟で
聾唖の子供達が、訓練してたのを見たことがある
「健くん、私達に君の自己紹介を、してくれるかな?」
先生が言うから仕方なく、してあげた
分かってることだろうに、馬鹿馬鹿しいって思いながら
僕は、6年後の21歳になってたって、その時に知った
で、少しずつ、今を学んでいる
タブレットは、6年後の世界では常識で
画面に出ているアルファベットを直接指で叩くと、文字が打てる
使い方はわかったし、僕はこれで言葉を発するから、便利だとは思った
でも、時々、こんなのがなくて、自分の意思なんか伝えれなくてもいいと思う
6年の年月を、僕は、取り戻せない
これを叩くのですら、指が滑らかに動かない
ってことは、この6年間、僕の指はすっかり怠けてしまったってことだ
きっと、ピアノはもう、弾けなくなってる
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