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”8” 目覚めた、ネコ ‐2
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「どうした?少しだけでも食べないと、点滴だよ~。太くて痛い針、刺しちゃうよ~」
ぼんやり、箸を握ったまま、夕食の乗ったトレーを見つめてた
百哉さんが、冗談めかして、僕に食べるように勧めてくれる
食べたくないけど、どうしようって、俯いて
「じゃあ、特別。こっちを食べようか?差入れに届いたんだけど
ちゃんとご飯食べられたら、ご褒美にあげようかなって思って隠してたんだ~どう?」
百哉さんの手の中には、綺麗な宝石みたいな、果物のゼリーが、いっぱい入ってる箱
僕、ゼリー好きなんだ、しかも果物のやつがすごく
「今朝、話した奴が、さっきまで来てて、健くん、起こそうとしたんだけど。ダメで。
それに起きたとしても、寝起きで、いきなりは可哀想って、お土産だけ置いて帰ったんだ。
日持ちもするし、少しずつ、食べればいいって。どれにしようか?」
じゃあ、これって、選んだのは、多分、苺のミルクのやつ・・・かな
白っぽいピンクのかわいい奴
あ!食べてみたら、苺のヨーグルトのムースだったみたい
美味しいなあって、つい、思っちゃってたら
「ふふふ。美味しいんでしょう?ご機嫌よくなったね。
先生は、健くんの身体、もう、悪い所はないって言うから、何を食べてもいいんだって。
傷のメンテナンスだけなんだ、今、健くんにしてる医療行為って」
百哉さんが、話してることは、最終的に、僕の、帰る場所の話になる
僕は、食べてる物を机に置いて、タブレットを持って来て欲しいとお願いする
「あ、あと、これも預かってたんだ。健くんのスマホだよ。
6年前くらいって、スマホどうだったっけかな・・・ボクは持ったの最近だから
自信ないけど、使ってる人はいたくらいかな?」
タブレットと、きっとこれは、スマートフォンってのだと思う、小さい機械も渡された
昨日の初めて来た元気な女の人が持ってたやつよりも、少し大きくて薄い
そうだ、僕の中学生の頃、発売されて、これを買う行列を作ってるニュースを見た覚えがある
今は、殆どの人が、スマホなんだよって、百哉さんが教えてくれた
びっくりして、僕が恐る恐るそれを持つと、百哉さんは笑った
「大丈夫、そこまで丁寧に扱わなくても壊れたりしないから。
でも、こーいう皆が持ってて当たり前のものも、数年前から来た健くんには
未知のものなんだって、知る度に、あーって思う。なんて言うんだっけ、そういうの」
僕は、タブレットの方で、話す、『ウラシマタロウ状態?』って
「そうそう!子供の頃は、ふーんで流し訊いた昔話もさ。
そりゃあそんだけたってたら時代も変わっちゃうなって思ったけど。
たった6年なのにね、日々、こういう身近な機械って、変わっちゃうんだよね。
年をある程度とってる人だって、6年ってあっという間とかいう人いるけど、
健くんの6年間は、人生で目まぐるしく環境が変わる大切な時期で、こんな機械ひとつで
ああ、すごく、大変な思いをするようになるんだね、って。辛い気持ちになるね」
百哉さんは、けっこう、激情家だと思う
すぐ泣くし、すぐ怒るし、すぐ笑う
だから、僕がきょとんとして、話を聞いてる間にも、もう涙ぐんでる
「『泣かないで。どれか食べませんか?』って?いいよ、ボクは。
健くんに、買って来てくれたんだから、佐倉くんが。
今朝の話をしたくてね、もしかしたら、二人は、怖くなっちゃうかもって
一緒に小田さんと阿川さんも来てくれたんだよ。
でも、起こしたんだけど、起きてくれなかったから、少し前に帰ったんだ」
『百哉さんは、彼とお付き合いしているんですよね?』
「その誤解を、ボク一人で、ちゃんと話して、解きたかったから
本気で起こさなかったって、言ったら・・・呆れちゃうかな、健くん」
あ、百哉さんは、すぐ哀れむ、人でもあるのかも
そんな考えが、ふと、頭を過った
「ボクは、好きな人がいてね。でも、その人はボクを大嫌いなんだ。
だから、ボクは、いろんな人の憐れみを糧に、渇きを癒してる、ダメな大人です。
佐倉くんは・・・・・・ボクに、ボランティアしてくれたんだ、と、思う」
とっても、とっても
百哉さんは悲しそうに、話をしてくれた
百哉さんの恋のお話
なんだか、僕も切なくなった
「今は、意味が解らなくていいから。
どこかで、覚えてて、必要な時に、思い出して、彼を、佐倉くんを許してあげて」
その言葉は、僕の空っぽになった、6年の隙間のどこかに
もしかしたら、繋がっていくのかもしれないって、ぼんやり思った
明日、また、彼、佐倉爽って人は、僕に会いに来る
◇◇◇◇◇
絶対ダメなタイプと
慣れれば大丈夫になるタイプ
僕は、男性を、自分の中で、そう分けてみてるみたいだって、最近分かった
少し、高い病室の窓から、外来に来ている患者さんを見ることも
先生の用意したリハビリの一つ
絶対ダメなタイプ、代表は、
もう一人の、この病院の看護士さん
背は高くないけど、低くもない
でも、ちょっと太めで、すごく、しっかりがっちりしている、体付き
男っぽい、そうだな、昔からよくいる、日本男子って感じの人
若い頃は、ラガーマンだったんだって
一般外来の人を見てて、背が高くても低くても
厳つい感じの大きな体付きの人も、すごく怖かった
慣れれば大丈夫なタイプ代表は、
目の前の百哉さん
背は普通、身体は、薄くてひょろっとしている
とにかく、すらっとしてて、長方形をイメージする体つきの人
昨日来て、僕に、お祖母ちゃんが亡くなった話を、わからせてくれた人も
そう言えば、僕が、目覚めたって聞いて、一番に、学校をサボってまで来た留華も
この百哉さんみたいな感じで、しかも二人とも結構のイケメンさんだった
留華、中学の頃より、顔も大人びて、確かにあの頃よりは男らしくなってたけど
留華くらいの人は、大丈夫だって分かった
でも、僕を見て、なんでか引け目を感じるのか、やたらとびくびくするから
ムッとして、持ってたタブレットで叩いて追い出しちゃった
あ、あれは叩いたってより、投げつけちゃった?
で、床に落ちたら壊れちゃった、百哉さんの私物だったのに
弁償しなきゃって、僕、お金とか持ってるのか、わからなくて
後先考えないで、馬鹿なことしちゃったって、落ち込んでたら
留華が、百哉さんのと、僕用にと2台買って、お詫びにすぐに持って来た
相変わらず、お坊ちゃまだなって思った、そのお金の使いっぷりに
でも、留華に些細なことで、どうしようもなく腹立たしく感じたのは
ちょっと変わった留華を見て、
なんだか、僕だけ、時計が止まってしまったみたいで、悔しかったから、だ
苦手と大丈夫の違いも、理由は想像がつく
ダメなタイプは、「一週間の下僕」って僕が内心呼んでた6人のせい
名前も覚えてない、頼んでもいないのに、僕のシンパを気取った
体育会系の、主に体格の良い同学年の生徒達を、連想するから
僕は、あいつらか、あいつらの作ったシンパの奴ら誰かに・・・・・・犯された、んだ
大勢に組み敷かれ、蹂躙された僕は、小さくて弱かった
だから、僕は、逃げた・・・・・・んだ
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