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”11” 別居を決意する王子 ‐3
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2度、玉葱を焦がして、俺は、ほぼ真夜中、親父に架電する。
3度目の正直の前に、目に染みた玉葱のお陰で、けっこうデトックス、出来たから、な。
親父は、真夜中でも、相変わらず、淡々と親父らしく。
「野坂に、給金の件、言い値でいいって、伝えて置け。
相場より安過ぎたら、倍額だと思うぞって、脅すの忘れずにな」
無表情なくせに、やけに、人の胸をつきやがる声の・・・・・嫌味な奴だ。
◇◇◇◇◇
今度は、野坂が電話に出なくて。
うーうー唸って、また、何日も何度も電話し続けて。
今日も授業が終わって、健の元に向かう前に、かけてみて。
やっと繋がったと思いきや、何でか、すぐに切れ。
数刻後に・・・・・・え??
なんで、芙柚の携帯番号が表示されてるんだ??
慌てて、待ち望んでいた芙柚からの電話を、取る。
「申し訳ございません。爽様。私の携帯、もう、壊れたかもしれません。
今は、ナナミくんに無理言って貸してもらったのですが・・・・・・爽様?私ですよ。野坂です」
「・・・・・・ん~と。 俺を、二人は混乱させたいのかな?」
「いいえ、滅相もない!・・・ん?二人?ナナミくん何かしたんですか?」
あんの野郎……どこまで恍け続けるつもりなんだ。
「野坂。側に、芙柚がいるなら、ひとまず、代わってくれ」
知らずに、俺の声は、すんごく低くなっていた。目前に居たら、確実に鉄拳を振るうだろうね。
「それが、今は、新幹線のデッキで。側にはいません。それと、伝言が」
「は?な、なにがっ?」
「『お前の声なんか、一切、聞く気も起きん。すぐさま、吐く』。ですって」
「いいからっ!代われ!!」
「無理です~。私、電話借りれなくなっちゃいますよ~。さっさと、要件を仰っちゃって下さい。
携帯って、意外に華奢ですねぇ。ちょっと手水舎に落しただけなのに。まったく。せっかくスマホとやらも
慣れて来た頃だと言うのにねぇ。老人を苛めてるみたいですよ、この文明の利器の進化は・・・」
ああ、いかん。
これって、野坂のペースで。
昔から、いきり立つ俺を、いつの間にか煙に巻くんだ、こんな感じで。
「なんで、芙柚と一緒にいるんだ。那須に住んでて、知人だってのは、健に聞いてたけど。
新幹線ってなんなんだ。どこかに二人で出かけてるのか?」
「ふ、二人じゃないですよ~。人を、代わった趣味の人みたいに言わないで下さい。あ・・・」
の~さ~か~。
「おこっ、怒んないで下さいよ~。なにも、爽様の御嗜好を貶そうとかは思っておりませんから。
ですが健さまは、ちょっとよろめく気持ちわかりますよねぇ~。なんと言いましょうか可憐な美しさがね
老若男女に訴えますよね~、なんか、かまいたくなりますよねぇ~」
「下んない話はいいから。で、なんで、芙柚と一緒なんだ?」
へっ?と頓狂な声がして。
「地元の町民レクリエーションですよ。希望者は格安でツアーに来れるんです。
ナナミくんは、その幹事をね、会社で押しつけられちゃってね、一番若輩だから。
まぁ、慰安旅行みたいなものですね、中高年対象の。今は、新幹線で京都に向かっております。
今日のお昼までは、伊勢志摩に居たんですよ。いやあ、やっぱり伊勢神宮は素晴らしい!
私、長く中舟生家に仕えてましたから、こんな風に何泊もして遠出することもなくて。旅行はいいですね」
・・・・・・慰安旅行だとォ~!
「なぁ、野坂、お前、幾つになったんだ?」
「んふふ。58歳です。でもふさふさでしょう?お手入れは欠かさずしてましたからね。
爽様のあの事件の時のストレスも乗り越えた自慢の髪のお蔭でつい、若く見られますがね」
「まだ定年には早かったんだな、かなり」
「・・・・・・な、なんか、嫌な言い方ですね。え?えっ?こ、怖いですよ~」
苦虫をぎゅうぎゅう噛み潰してるみたいな俺の声をやっと訝しむ、野坂。
あ~もう、損したよ、お前はけっこう能天気で、いっつも明るい超ポジティブ発想のオッサンだったさ。
無理やり、職を辞したのにって、こんな厄介ごとを頼むことに腰が引けてた俺を笑ってやりたいよ。
「野坂、復職してくれ。俺の大事な人を、預けるから。
詳しくは、多分、芙柚が知ってる。ちょっと厄介な状態の健を、那須で療養させて欲しい」
「な、なんです?急に改まったお声を出されて。何があったのですか?」
「なきゃ、言い出すか!いいな、断るのはナシだぞ。京都に向かってるなら、芙柚に選んでもらって
健が好みそうな土産でも買って、帰りにこっちに寄れ。途中下車出来るんだろう?」
横暴な~と喚いていたが、あちらの音声に、どこかの駅に近づいているアナウンスが混じると
野坂は深い溜息を吐いて、言った。
「言い出すと、きかないんですよね、私のお坊ちゃまは昔から。
旅行明けの帰りにお知らせしますから、お迎えに来て下さいね」
程なくして、通話を終えて、野坂の声が途切れて久しいスマホを頬に当てたまま
俺は、物思いに耽る。
・・・・・・芙柚も、健が那須に行くことを知るんだ。
芙柚が、愛した
芙柚と恋愛関係にあった、健の記憶を持って、目覚めた、健が。
俺は、敵に塩どころか、宝物まで贈っちゃう状態になるんじゃないか、これって。
俺が芙柚だったら、こんな大チャンス逃さないと思う。
奇声をあげて、頭を抱えた。
・・・・・・ああ、車の中でよかった。こんなの道端でしてたら、職質もんだよな。
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