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”13” 王子、途方にくれる‐2
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で、俺は渋々、アイツに電話をする。
「見つかったか?!」
開口一番、いい感じに渋みも出て来た声で叫びやがる。
まだだって言うしかないのが、悔しくて仕方がない。
「まだ。でも、多分、タクシーを使ってる。近所を歩いてる可能性は薄い」
「声が出せないのに、どうやって車を呼べるんだ」
「合成音声ソフトを使った形跡がある。多分、それで呼んだんだろうな」
絶句する芙柚の声にならない息が風を切る音。
俺だって、ここに来て、何か手がかりはないかと漁ってた時に、それはあり得ないと思ったよ。
でも、きっと、そうやって、ここを出てった。
健の賢さは、侮れない。中学校の時だって、かなり成績も良かっただろう。
パソコンに詳しかったかどうか、俺はそれと、健が車に乗ってまでどこに行きたがるかを
あの頃の健の心の一番、近くにいただろう、お前に訊きたいんだ。
「可能性として、薄くないか?健はあんまりメカに明るくなかったぞ」
「今、リダイヤルでわかったタクシー会社に、野坂をやった所」
「リダイヤルで、その番号が出たってことは。呼んだんだな、やっぱり」
うーうー言いたくない。
「・・・・・・あのさ。 お前を訪ねて行ったんじゃないよな」
「バカか。健は、俺が那須に居ること知らない。もし来るなら実家に行くだろう。
何の為に皆に黙ってもらってると思ってる。もう、会えないんだ、あの頃の健が戻ったのならば」
呆れた口調だと思ってた俺は、その無表情な声に違う温度を感じる。
これは芙柚が、自らにしている嘲弄であり懲戒だ。
想う人を、もう、想う資格がないと、決め付けてしまっている。
「おい、何を黙っている。用件はそんな下らないことか」
「下らなくなんかっ・・・。あ~、健が行きそうな場所、心当たりないかなって思って。
あの頃の好きだった場所とか、気に入りの物とか、仲の良かった友人とか」
芙柚の側から、深い溜息がする。
「健が那須にいた頃、行った場所は、もう虱潰しに全部行った。
行ってないところは、まあ、アウトレットくらいだが、所持金はどれくらいあったかわかるか?」
「持ってて、1万から2万ぐらい、かな」
「じゃあ、違うな。それに生活でどうしても欲しい物なんてないだろう。
逆にお前が買い与え過ぎているって、野坂さん言ってたから除外したんだ。
好きだった場所なんか、大して知らない。物だってあんまり物欲自体が無かったし。
友人なんて、せいぜい橘兄弟ぐらいなものだろう。浹に、もしかしたらそっちに行くかもしれないと連絡済み」
俺達よりコイツって4学年も上なんだよな。
腹立つけど、俺より全然、泰然として、でも、ものすごく心配してる。
まだ、健を想い続けてるってモロわかりな、芙柚。
「電話、最後にしたの誰だ」
「は?」
「手荷物持って居なくなってるんだったら、鞄に携帯入ったままじゃないのか?かけてみたか」
「あ・・・してない、してみる!出れなくたって喋れなくたって、鳴れば何かアクション起こすよな?!」
「だな。もし、記憶喪失の状態で保護されたなら一番最後の着信履歴にかけてくるかもしれないだろ?」
すげえ、コイツもやっぱり出来るヤツだ。
「お前だろう?多分。健の携帯にかけたのは。きっと4月の事件の前とかに」
必死に記憶を巻き戻す。あ、うん、そうだ。
俺が始業式の前日、買い忘れの紅茶をスーパーに求めに行って、他には無かったかって
家で夕飯を作ってる健に電話した。
「無いから早く帰って来て。わざわざ買いに行かなくてもよかったのに」って、健が笑ってた。
明日の朝、健が飲むの無いじゃんって拗ねたら、「だったらカフェオレ一緒に飲むでしょ」って言って。
あの、なんでもないような、でも、無くした今じゃ、愛しくて泣きたくなるような日常風景。
「・・・悪い。でも、そうだったら、俺に下んない電話してないで、回線空けて待ってろ。
あの、あれだ、登録番号外着信拒否とか、外しとけよ?」
俺の少しの沈黙で、察したみたいな芙柚が詫びてくれ、建設的なアドバイスをくれる。
「いい連絡、待ってる。無事、見つかったなら、もう、お前達とは関わらない、約束する」
健への想いを、もう過去に置いて来てしまったなら、コイツと仲良くなれるのに。
別れの挨拶の際、ふと・・・・・・そんな思いが過ぎった。
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