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”13” 王子、途方にくれる‐7
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ノックの音に驚いて、慌てて、身体を離して。
「お取り込み中、大変失礼いたします。ルームサービスでございます」
届けに来たのは、予測通りのヤツ、水瀬涼。 ボーイか部屋係でいいっての。
渋々、ドアを開けに立って、ニヤニヤしてワゴンを押してる水瀬を部屋に入れる。
ベッドの上に座る健は、にっこり穏やかに笑んで、軽く会釈。
そう、そう、このマリア様かってくらいの優しいにっこり。これだよ、健の微笑って。
「勤務中だから後でラブラブしようね~。あ、このお坊ちゃんに連泊させてくれって頼んでよ。
俺の身が開くの明朝の10時過ぎなんだよね。俺等の運命の再会劇も自慢したいし~」
コイツとは、うーんと、3年ぶりくらいに会ったんだ。
俺と健が高校の卒業旅行ってことで、春休みに、ちょいワケありだけど、グアムで豪遊したとき。
俺は旅先で、近年稀に見る酷い風邪を引き寝込み、初の海外旅行な健に大迷惑をかけた。
献身的な介護を、せっかく婚前旅行って感じでサプライズに招待した常夏の地でさせちゃって、
その介護の時の病人食作りを世話になったりとか・・・まあ、他にもちょっと色々あって、
独りじゃ何も出来なくて困ってた健を、
そこのホテリエでコンシェルジュの水瀬が全面的にフォローしてくれた。
で、まあ、その色々って中身の内容ってやつの結果、「健にアタックするぞ」宣言で終幕してて。
偉そうな、「すぐに追いかけてやる発言」が、どこへやらで、ちっとも現れないから、存在を忘れてた。
「4月にこっちに帰ってから、ずっと連絡してたのに。
俺、言ってたじゃん、海外のヤツ解約するから番号変わったの知らせるから出てねって。
無視はないよな~。後でペナルティーなんか貰うから、ね。
じゃあ、スパークリングワインのハーフボトル、サービスしといたから飲んでね~」
コイツの職業柄で更に磨かれたんだろう、人に話す隙を与えさせない滑舌で捲くし立て。
テーブルに、手はまったく休ませずに、食い物とかをセットして。
ひらひら手を振って、戻って行きやがった。
そうだ。なんで、水瀬が健のことを保護できたのか、
それとも・・・な、ないだろうけど、水瀬と会う為に、その、別荘を抜け出したのか・・・とか、さ?
健に聞かなきゃいけないことは、山の様にあるんだけど。
湯気を立てるオニオングラタンスープとかを前に、可愛い猫目が、お腹すいたなって表情で見上げてる。
・・・・・・まだ声がろくに出せない健だから、食事しながら会話って無理だろうし。
別荘で一緒に飯を食ってて、話しかけられる度、箸を置いてタブレットを手にさせるの、可哀想で、
つい、食ってからにしようかって言っちゃって、きゅっと下唇を噛んで悔しそうな顔させちゃったんだよな。
「話とかしたいけど。まずは食べようね。スープ熱いよ?気を付けてね。いただきます」
うっ・・・その両手合わせて、ぺこりの後の「・・ったきぃ、ぁっ」って声、かわいい。
いっつも必ずしてたよね、その習慣。俺もすっかりうつっちゃったもんそのポーズと挨拶。
ちょっとずつ、発声も慣らしてけば、直ぐ元通りの優しいテノールの声が戻るからね。
リゾットとかお粥とか、あんまり体調が思わしくない人が食べるメニューって
用意してるルームサービスってないよな~。
一応、健にはミックスサンドとオニオングラタンスープを
俺は、もし、健がこっちがいいって言ったら譲ってやろうと思って、稲庭風うどんをオーダーしてた。
どれ食べていいのって顔をしたから、サンドイッチとスープだよって教えてあげたら、嬉しそう。
健、好きだよね、このスープ。健が作った奴の方が、俺は断然好きだけどね。
量がたっぷりめ。多分、スープだけでお腹いっぱいって言いだす。
この場合は、ジェスチャーするのかな。その姿を想像しただけで、くーってなる、俺。
真夜中の食事。
気が付けば、初めてだ。
健は日頃、けっこう、パートナーの健康管理するタイプの奥さん。
夜中、勉強してて、小腹がすいた時にも、夜食ってあんまりいい顔をしない。
軽く、雑炊とかお握りとか、どうしてもって頼めば作ってくれるけど。
ミルク多めの紅茶とかカフェオレで、腹を落ち着かせて眠り、翌朝、たっぷり食べるべきだって言う。
あ、お手製で作ってるヨーグルト出されたこともあった。
あの製造機、別荘に持ってってあげよう。健、お気に入り家電で、一緒に暮らし始めて2代目。
初代を壊したのは、俺で。しばらくご機嫌斜めになったもんな。
「返事、頷いたりとかでいいからね? あのさ、俺達って、ホテルの食事ってルームサービスの比率高くない?」
首を傾げて、ああ、って納得したみたいに笑って、頷いてくれる。
グアムの時は俺が病人だったし、結婚報告会みたいになった養子縁組にサインする食事会の後の
帝国ホテルのスイートにサプライズで部屋を取ってもらった時も、殆ど部屋で食べた。
今夜も、急遽、泊まることになったホテルで、こんな食事だし。
でも、ま。
一緒に食事してるだけで、幸せな気分だから、いいよな。
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