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”15” 考える王子-4
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ふうって、溜息をつくと、また、さらさらってメモに書いた。
『じゃ、やっぱりここで買いたいものは、もうない』
「留華にあげるの、やっぱり、何か探すの?」
ぶんぶんと首を横に振る。
『手紙を書こうと思う。僕は、もう大丈夫だって。今の気持ちを一生懸命、書く』
「うん、それが一番喜ぶと思う。じゃあ、レターセットとか要るね。
ここにあったかな~。あ、好きなデザインのをネットで探そうか? 帰って」
『他の皆にも、少しずつ何か書こうと思ってる。そういうの売ってる所に行きたい』
「直接見て、すぐ買いたいのか~。ナビに入れればわかるかな。
じゃあ、もう、出ちゃってそれを買って・・・・・・ん?健の欲しい物って、ここにはないんだったよね?
そっちはどうする?探してみようか?」
うーん、って悩んでる仕草。
これは、前も今も変わらなくて、小首を傾げてぼんやりしちゃうんだな。
ペン先を顎に当てたりは、しなかったけど。口元に手をやるのはしてた。
『ネットって、探し物は、結構簡単に見つかるの?』
「まあ、物によりけりだけど、そこそこには。売ってなさそうなものなんだ?」
こくんと頷く。
『東京の、考えてみれば、専門店に前は行ってた。だから、多分、こっちはないんだと思う』
「参考までに、何が欲しかったの?」
言い淀んで、首を小さく横に振られた。言いたくないみたい。
『帰ったら、ネットでお買物するやり方教えて下さい』
少し考えて、健はそう書いて、いつものよそよそしく感じる愛想笑いを浮かべた。
丹羽家の皆さんからも、留華がくれた以上に、連名で大変高価なものが来ていた。
ちゃんと、お返しとか気にせずに、使いたい時に使ってくれたら嬉しいってメッセージ付き。
なんと、100万円台の腕時計。
成人式に用意してたものを、当時の健は、こんな高価なの分不相応だと断ったらしい。
実際、成人式にも俺達は出席しなかった。
俺は、実家に帰りたくないし、健は、戸籍上の成人式をする会場が、知人もいないし、行きたくないって。
で、その日は、二人でまったり、マンションで過ごした。
「これはいくら位するもの?」って、健に訊かれて苦笑いするしかなく。
本人が断ったものを贈りつけて来てるってのが、ちょっと理解できなくて、俺は。
「一生に一度の物だし、デザインが私達好みで、似合うと思うって、いつか健くんがつけてくれればいい。
健くんの為に、買ったものなんだ。何にも出来ないけど、持ってて欲しい」って、丹羽さんは篤く書いて来た。
俺が返答に困ってるって勘付いた健は黙ってそれをしまい込んで
[美味しいお菓子、皆が食べれるようなの]ってメモに書いた。
で、俺にとってはあんまりいい思い出のない那須の有名店のチーズ屋に寄った。
ここのチーズケーキとチーズの詰め合わせを、ここから送ってしまうつもりらしい。
中に入れる手紙は、「何か書くの持ってる?」って訊かれて、レポート用紙ならあったからそれを差しだし
なにやら、一生懸命、そこに健が書いて、持参していた。
「これも、一緒に入れて送ってもらえますか?」
健が選び、もちろん、送料も込みで支払いを済ませても
まだ、ぎこちない声で店員に話しかけるのは無理らしくて、代わりに、それを入れてもらえるように頼む。
店員が「このままですか?」って戸惑うのも無理はないけど、仕方がないし。
なので気を利かせた店員が別の何かで使ってる封筒を開けてそれに入れてくれた。
見るつもりなら、すぐに見れるのに、見てはいけない気がして、内容は知らない。
ねえ、俺は、丹羽家から、今の君も奪ってるように、思われてると思う?
訊けないけれど、答えを聞いてみたい気がしてならない。
これからナビで検索してヒットした文具店に行って、帰る。
けっこうな長丁場、よくもまあ、健は元気に過ごしたものだと感心する。
久しぶりに出かけるし、公共交通機関を使ってないからなのか、
こっちが逆に心配で具合が悪くなりそうってくらい、楽しげに。
文具店に向かう間に、実はもう一か所行きたいところがあると言いだして。
どこか問えば、郵便局って言った。
ごそごそとバックを漁り、財布を出して、中からカードを出して見せる。
「郵便局も口座持ってるんだね?知らなかった」
「ぼォ・く・も。このっ、ばん、ごっ、知って、りゅ?」
「存在も知らなかったからな~。想像つかないよ、そっちは」
むーって考え込んで。
「いっ、しょ、っ、つ、ぁにゃ~?」
思い当たるのがあるらしい、昔から持ってたなら、可能性ありかも。
今回、記憶って、こういうのにも作用するんだなって、目から鱗だった。
ルートに別荘から一番近い郵便局のキャッシュディスペンサーのあるところを追加して。
「夕飯は、どうする?家に帰りたい?」
訊けば、きょとんとしてる。 帰るに決まってるって思ってたみたい。
「疲れてない?夕飯作る元気まだ残ってる?」
「うん。らぃ、じょ、ぶっ!にゃ、す、ちゅくった、ぉ」
にゃすって・・・・・・なんだかわからんが、もう何か作って来たんだな。
朝飯も、しっかりちゃんと和朝食を準備してくれるし。
低血圧でふらふらだった健は体質までは変わらないと思うから、いっぱい頑張ってくれてるって解ってる。
中学生脳の健も、料理の腕はバッチリで、本当に静さんは男の子に家事を叩きこんでたみたいで。
こっちに健が住むようになって2度目の週末だけど、
こんなに毎回この調子で全力で頑張らせるのも、酷かも。
「ね、健。もう、扶養家族って誤解は解けたんだし、俺も手伝うよ、別荘の家事とか色々。
朝、弱いんだよね?無理に起きなくていいよ。今までだって・・・・・・」
何気なく話しかけたのに、健が全身で緊張するのが分かった。
丁度、信号が赤に変わって、車が止ったから、健を見つめてみた。
な、なんだよ、その表情。 何かに怯えるみたいな、でも、知りたくて仕方ないみたいな。
コクッ、って、唾を飲む音も聞こえた。
「今、ま、で・・・・・・?」
「あ、えーと、なんだ?ごめん。気にしなくていいよ。うん、家事手伝うって言いたかっただけ」
そんな目、されたら、どうしていいのかわかんないよ。
期待しちゃうってば、色んなこと。
慌てて目を逸らした。運転してて、良かった。不自然にならなくて済むから。
◇◇◇◇◇
なんだかんだ、けっこう楽しい週末を過ごして。
早朝に出るから、起きないでいいよって言っても、先週同様、起きてて
しかも、捨てれる容器に入れた、お弁当付きで見送ってくれる。
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