アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”17” 王子、勝負をかける ‐3
-
月極で借りてた大学近くの駐車場も今月までで返すことにした。
で、そこに停めてた愛車は、青空駐車場故に、籠った熱気で殺人級の温度。
排ガスを吸いたくはないけど、背に腹は代えられず、窓を全開にし、俺の愛車は走り出す。
後部座席、俺の着替えや、後期日程のテストで使う教科書類とかで。
荷台には、健が好みそうな本や部屋にあった私物を積んである。と、1年と2年の医学部のテキスト類。
また入り用なものが出れば、圭介が帰ってくれば、圭介に送らせるか、取りに戻ればいい。
なんとか、冷気を感じ出したから、窓を閉めて、
俺は、アスファルトからゆらゆら立ち上る蒸気とは無縁の避暑地へ向かう。
夕方以降に来ると信じて疑わない健が、日も高いうちに、俺が辿り着いて、
琥珀の瞳を真ん丸くする姿を思うと、ふと、笑いが込み上げる。
昨晩、ほろ酔いで、テレビ電話で話してみて
「なんか、今日はいつもと違いますね?いいことあった?」って、訊かれて。
「ごめんね、ちょっと誘われて飲んできちゃった」って謝ったら
「僕も、もう、お酒が飲める年になってるんですよね。ふふふ」って笑われた。
なので、今夜は、試しに少しだけ飲んでみようかって、誘っておいた。
常用してる薬はないから、多分、弊害はないだろうし。
途中、高速に乗ってしばらくして、遅い昼飯代わりのものを調達にSAのコンビニに寄る。
野坂にメールをして、夕方、買い出し品に少しアルコールを適当に入れてくれって
知らせたら、すぐさま返事があって「健さまから、既に依頼がありますよ」って。
天気もいいし、農作業に忙しいだろうなって思ったが、直でかけた。
「野坂?あ、俺。実はもう、向かってるんだけど、買い出しも請け負うから。うん。お前の畑?うん。
わかった、寄ってみる。え?そうだな、あと1時間ちょいくらいかな、着くのは。え?ダメ。
なんでって、驚かしたいからに決まってるじゃん、じゃあね」
休憩中だった野坂に、すぐに繋がって、健に早く着くんなら連絡してやらなきゃって言うから禁じた。
なんで、イタズラ坊やみたいなこと、したがるんですかねぇって溜息つかれたけど、性分だし。
ちょっと車を離れて戻っただけで、涼しかった室内温度が上がってる。
はぁ、夏って、子供の頃はワクワクしたのに、長じると、この暑さが、疎ましいんだよね。
今夜のご飯はなんだろうななんて、考えつつ、冷やし中華とか食ってみて。
あ~健の冷やし中華が食いたいな~って、ぼーっと思う。
多分、タレとか絶対手作りなんだと思うんだ、醤油も胡麻もどっちも美味いんだよね。
さすがに麺は作ってないだろう、うん、買ってるの見たことあるし。
あ、なんか、どうしようもなく食いたくなった。
和食しかまだ食わせてくれないんだな、中学生脳の健クン、どうしても。
中学生脳、健くん、か。
ふぅ。挫けんな、挫けんなよ、俺。
◇◇◇
昼間は内鍵かけてて欲しいなって思ってても、強制は出来ない。
案の定、ドアノブを捻れば、簡単に開く玄関ドア。
車が着いたの、多分、わかると思うんだけど、室内は静まり返ってて。
あれ?寝室で昼寝でもしてるのかな? って、しかも施錠なしって駄目だろうがって、
抱え持った食材入り段ボールを、入ってすぐに丸見えなリビングを見まわしてから
ダイニングテーブルに仮置きする。
ん?いや、いる、いるよね?
リビングのソファーに、小田と阿川のくれたコットンブランケットの中に、すっぱり納まってる。
頭から足先まで、入っちゃうんだ、小柄なんで。
もう日が下がって室内が薄暗くなりつつあるけど、あ~、日中ここ明るいからか、
昼寝するには、ちょっとな。眩しかったんだ。
まだ、服やら何やら車に取りに行かないといけないんだけど
寝顔が、さ。どうしてもね、見たいな~なんて。
だって、天使みたいに可愛いわけ、健の寝顔って。
出会った頃は、高2でこんな幼気ないってくらいの、俺、ロリなのって我を疑う、可愛さだったけど
大人びたらその中世的な容姿が際立って、清楚で、瞳を閉じてる時だけ、少しだけ幼くなる
羽根、本当はどっかに隠してんじゃないのって感じの、気高さがあるんだ。
床に膝立ちになって、健の頭まで覆ってる毛布をそっと外してく。
丸く蹲り手脚を折って更に小さくなって眠ってる。
あれ、タッチペン握ったままだ。 ふとテーブルに目をやれば、不自然に投げ出されてるタブレット。
なんだ、なんか健にしては、荒っぽい、か?
調べものしてる最中に、どうしても睡魔に勝てなくて、寝ちゃったみたいな、そんな。
って、健は、何を調べてたんだって、強烈に気になった。
だって、よくよく顔を近づけたら、頬に涙が幾筋も流れた痕がある。
健をそのままに、タブレットを掴み、検索履歴を辿る。
「・・・・・・リリスと、七海冬、ばっかりじゃないか」
一番最後の履歴、ユーチューブの動画を開ければ、解散ライブのアンコールシーン。
芙柚が作曲したらしい、曲名も歌詞もない、短くて切なげなメロディーの、ファンに大人気な曲。
「スピールって言うんだ、それ」
鼻声の健の小さな声が重なる。囁くように誰に語るでもなく。
「僕に、芙柚が、くれた数小節の曲。タイトルはスピール。意味は次に会う時までの宿題。
二度と、答えがわかっても、答え合わせ出来ない宿題」
「何語?」
「フランスだったと思う。日本語なら「ため息」って訳。僕が困ってつくときの音を曲にしたの。
僕ばっかりがついてるんじゃないって悔しくなって、芙柚のつく溜息の音も入れて編曲した。
楽譜、渡せなかった筈なのに、どうしてこのバンドで演奏されてるの?かって」
声が震えだす。え、健は、泣いてるのか?
「芙柚にっ、さん、まで、僕の曲、盗んだ、の?」
どうしてやっていいかわからなくなって、起き上がらせて抱きしめた。
え?、今、健、なんて・・・・・・
「爽くん、教えて?」って、言った?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
121 / 337