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”18” ネコへの手紙-2
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昨日、野坂さんに起こされたのは、僕じゃなく健だった
でも、健は、どうして野坂さんに起こされたのか分からなくて、ちょっと混乱してたし
夢かな?ってみたいに、もう一度、寝てしまおうとしたんで、気が付かれなかったと思う
直ぐに、僕が出て、対応したから、大丈夫
僕は、どうにも、弱い部分があって、人の篤い感情とか、苦手
苦手を越して、恐怖や、気持ち悪さも感じてしまう
いつもは、ちゃんと抑え込めてたのに、動揺して、その隙に健が上がって来てしまってた
僕の管理能力を揺さぶったのは、留華からとパパさんからの、プレゼントのお礼状の返事
「健、大好きだよ。ずっと待ってるよ。どんなお前でも、元気になって、帰っておいで」って内容で
う、嘘ばっかり、僕なんか、厄介者なんだ 大切になんてしてもらえっこない
そう、自分にも健にも言い聞かせて、引っ込ませようとしたのに、出来なくなってて
目覚めて、皆に、会いたいって泣くから
本当に欲しい人のお手紙がないって、泣くから
健の嘆きを、利用してやろうと思った
健が、会いたくて、本当に欲しい人のうちの一人は、僕が知ってる限り、芙柚だろう
健の指輪の相手は分からないから、芙柚に裏切られてるって証拠を、ぶつけてやろうって思った
インターネットで楽譜を探していて、偶然、リリスの発表曲の楽譜を目にした
へ~悪くないって、内容を見て、ピアノで少し弾いてみたりした
殆どが、マー君が書いてたヤツ あの頃、芙柚も、曲はアイツが作るだろうって言ってた
佐倉さんが、リリスは大成功したけど、解散したって教えてくれてたし
もう、活動はしてないのかなって見てたら、動画も結構あるってわかった
暇つぶしに、その動画をいくつか見ていて、すごくビックリした
僕が、ワンフレーズしかなかったのを加筆して、楽譜にしてた曲を、ヴォーカルが歌ってたから
どこにも、渡っている筈はなかった だって、その曲を作ったの、僕がアイツらに乱暴された前の晩
机の上に置き去りにして、それで、ほとんど眠ってなかったことを心配して、
お小言になったお祖母ちゃんと、喧嘩になった、元凶の一つ
少しだけアレンジされてたけど、ほぼ同じ構成で同じ長さ
持ち出せるのも、芙柚しかいないし、この曲の意味を知ってたのも彼だけ
論より証拠に、作曲者は、芙柚ってことになってた
すごく悲しくなったけど、仕方ないかなっても思った
それを、健に教えてやったら、ショックで泣いて、眠ってしまった
可哀想なことをしたなって、反省したけど
もう、健を傷つけない為には仕方がない 眠っててもらわなくちゃいけない
頭上を明るい陽射しが入り込んで、僕は、ぼんやり目覚めた
健に釣られて、僕もいつの間にか、うたた寝してしまってたみたい
僕が寝起きでぼんやりしてる間に、健が、無理やり押しのけて、僕の前に出ようとしてるってわかった
なんか、その時はわからなかったけど、すごく健は興奮してた
今思えば、絶望して眠ろうとしてたのに、佐倉さんが来てくれて、起きて縋りたくなったんじゃないかな
諦めさせなくちゃ、なんとかって、必死に、抑えつけようとした
健も、必死で、沈まないように抵抗した、希望を持ちたくて
それは、そこが佐倉さんの、腕の中だったんだよ と、言う・・・・・・こと
「そ、そんなだったんだ、あの、顛末は。鬼気迫る戦いだったよね。で、カオル君が勝ったんだ?」
「僕達は、勝ったとか負けたとか、ありません。小学校までは、交互に出たり入ったりしてて
健が苦手なことを代わりにしてあげたり、言いたくないことを言ってあげたり。
だから、お互いでわからないことなんか無かった。出てない時でも、いつも側でちゃんと見てたから」
すっかり薄まった葡萄ジュースを挿してあるストローで飲む
深い所はまだ味が濃くてホッとする、でも、薄まったのも嫌いじゃないなって、かき混ぜた
「いっぱい話すと喉が渇くね。おかわりあげるから飲んじゃう?あ、ソーダで割ってあげる
それ、カオル君、飲んじゃってよ」
「あ、あんまり炭酸は得意じゃないです、よ?」
「大丈夫!心得ておりますとも。ちゃんと微炭酸に作って来てあげるし
ダメなら飛ばしてから飲めばいいでしょ。ほれ、イッキ、イッキ!」
う~、つい、煽られて、一気飲みなんてしてしまった ちょっと気管に入って噎せた
ゴメン、調子に乗ってって、慌てて背を擦ってくれる、佐倉さんの掌
温かくて大きくて、作りがしっかりしてる、男の人って感じの手
ん? 時々何かがコツコツって背中に当たる・・・感じ?
「ふ、ぅ。落ち着きました、ありがとうございます。
でも、どうして、こんな話を、信じてくれているんですか? 嘘だろうとか、
あ、頭のおかしい人みたいとか思わないんですか?」
そうか、これって指輪の感触か、って思ったら、自然に笑っていた
「そういう笑顔も、カオル君、出来るんだね。無邪気でいい感じ。どうしたの?
あ、そう、おかしいと思わないのかって質問だったね。
今度は、俺が話す番かな~。まずは、謝らなきゃいけないんだけど、これ」
僕に、差し出してくれて膝に置いてくれたのは、青い分厚い封書
和紙で出来てる、宛名が、丹羽健さまって、筆文字
ちょっと、クシャッてしてて、文字は水で滲んでるみたいになってるね
「静さん、佐倉静さんから、多分、君に宛てた、手紙。
俺が、開封して読むべきじゃなかったんだけど、昨日の現場に遭遇して、パニック起こしてさ。
何かに、答えを貰いたくて、縋ってしまって、開けて読んでしまったんだ。
本当に、ごめんなさい。いけないとは思ったんだけど、我慢が出来なかった」
「前の、本当の健の21歳の誕生日の事、カオル君はわからないって言ってたね?
あの日、健は、誰にも何にも告げずに、君には到底不可能だろうってことをしてのけた。
声が出なかったのに、合成音声ソフトを使って、タクシーを呼んで
駅から新幹線に乗って、どこかへ向かおうとしていた。
偶然、良く知ってた人が乗り合わせてて、無事に保護されたんだけど、
連絡を受けて、俺が慌てて飛んでって、そしたらね、俺の事、わかってて名前を呼んで縋ってくれた。
夢の様に、幸せな時間だった。健の記憶が戻ったんだって。
でも、翌朝、カオル君になってて、過呼吸いっぱい起こした。
記憶が疎らに戻ったりするって例は、あるんだそうだよ。で、また、忘れちゃうっての。
でも、あの日、健は、別の何かを、伝えようとしてたって、気が付いた、なんとなくだけど」
やっぱり、健は、起きてたんだ、あの日
僕を眠らせて、どうしても、行きたがったんだ 僕には、行きたかった場所が、わかった
「そんな、まさかって思っても。考えれば考えるほど、あれは妙だった。
で、同じ医学部の友人で、精神科医を目指してる横山にだけ、相談した。
もしかしたら、健は、解離性同一性障害なんじゃないかって疑った。
今年の夏いっぱいかけて・・・・・・ん?」
「かいり、なんとかって、なんですか?」
漢字変換、出来なかった・・・・・・しかも、佐倉さんって、けっこう早口なんだ
「ん~とね、世間一般的には、こう呼ばれてる。『多重人格障害』って。
一人の人に、幾つもの人格が存在すること。健の記憶喪失になってる症状が
そうなんじゃないかって、疑惑の持てるものが多かったから、
もし、そうだったならば、って。あの頃の俺は、今の君は、カオル君だったって知らなかったんだけど、
今年の夏いっぱいをかけて、安心させてあげて、君の後に隠れちゃった健を呼び出せるかもって思った。
でも、そうじゃなくて本当に失っちゃって、それでもお医者さんになりたいって思ってくれたなら
一緒に忘れちゃったものを取り戻すようにしていこうって。
だからね、大学の1,2年の教科書とか全部持って来た~。大荷物だったんだよ~」
健の結婚相手は、お医者さんの卵さん
・・・・・健も、なんだけど 僕は、全然、信じらんないけどね
そうか、僕達の事、気が付いちゃう、よね・・・・・・
僕は、俯いて、膝の上に載ってる封筒を見た
「で、ね。予定外の事が、目の前でしかも昨日とかに、いきなり起きちゃって、さ。
俺の覚悟の甘さとかを、再び思い知ったんだ、で、藁にもすがりたくて
開けて、読んでしまって。 静さんに、答えを教えて貰ったから、疑わなかった」
「その手紙、健が、誰かから手渡しで貰ったんだと思うんだ。住所消印なし未開封だったし。
それを見つけて、その時、本人が手紙どころじゃなくなってて、その日はどうしても健を独占したくて
気が付かれないうちに隠しちゃった。でも、何事もなければ、すぐ、返すつもりだったんだ。
それね、俺が見つけたのは、俺の誕生日の日。健、静さんが亡くなって毎日、心ここになくて。
俺の誕生日にやっと、俺の方を向いてくれた日だったんだ。
手紙を隠しちゃったことも、謝ります、ごめんなさい」
健、酷い子だな・・・・・・
佐倉さんほどの人が、ちょっと人としてどうなのってことをしたのは
結婚した人に、お誕生日を忘れられちゃったからなんでしょう?
お祖母ちゃんが亡くなって悲しいからって
ありえない、ホント、ダメな子だな~
ふぅ、だから、心配なんだよね、しっかりしてなくて
ん?
あ~ しっかりしてないから、逆に、こんな素敵な人、ちゃんと見つけられたのかも
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