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”21” 猫地図、鋭意作成中 ‐2
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まだ、俺と目を合わすと、目元を染めやすいカオルが来るのを待ってた。
遠目で見ても、堂々と歩く姿勢や所作が違うし、歩幅も違うから
意識的に見てるせいなのか、健と同一人物って、俺は思えない。
「買い忘れない?あ、ここの近くのパン屋、有名らしい。行ってみる?」
「えぇ、いいですよ。あ、そうだ。あのオーブンで、僕、パン焼いてみたいんです。
初めてなんだけど、できるかな?」
「おーすごい!是非是非、試してみてよ。 あ、でも、次回ね?」
どうして?って小首を傾げるカオルの額に手を当てる。
「ん~ちょっと、熱ないか?カオルくんは、何でも一生懸命になり過ぎ。
まだ夏は長いんだし、焦らないで楽しもう?」
上目で宙を仰いで、肩を竦める。 で、ひとつ、溜息。
うわ~、そんな蓮っ葉な仕草、絶対、健しないわ~。
「もう下がりました。甘やかしすぎですよ、健じゃあるまいし。でも、次回にします。
色々、ちゃんと勉強してから挑みます、それなりの結果が欲しいんで」
可愛くない所が、可愛いって、典型ですかね~?カオル君。
こりゃ、年上のオジサンやお兄ちゃん方とか、たまらんでしょうねぇ~。
◇◇◇
ふわ~ん、と、とろ~ん。
「あふっ!」
「あ、ちゃんと、冷まして下さい。だから止めといたらって言ったのに!」
噛んで解れた桃が思ったより熱かった。あ、これにも甘く味ついてるんだ。
熱々の軟らかめカスタードプリンに、温かい果物が甘味と酸味を加味してて、これは美味い。
冬に震えて帰って、これがおやつ出てて来たら、感動して泣くね、俺が子供なら。
「でも、めっちゃ美味いね!カオル君も食べたら?」
「僕は後で食べます。口の中、火傷したくないし」
夏なんだし冷やして食べようってカオルが言うのを反対して
別荘じゃ殆ど使わなくても、換気で充分涼しいから無意味になりつつある冷房まで入れて
出来立ての熱々を食べさせてもらった。
「それに、冷やしたら、どう変わるかも、食べてみたくありませんか?」
「そっか、そうだね。じゃあ、はい」
ふーふー冷まして、カオルの顔の前に、スプーンを差し出した。
「温かいの、これお裾分けしてあげるよ。あーん、は?」
「し、しません!赤ちゃんじゃないんだから!」
「え~、こっちも食べてみる価値ありだから!桃もうんまいけど、林檎がまた食感あっていいの」
唇が尖って、カオルは俺の手からスプーンを奪ってった。
あ~やっぱり、あ~んは嫌なんだねえ。そこは健も一緒だもんね。
「うん。正解でした。桃はコンポートしたけど、林檎はあえてしないでみたんです」
「あ、いいよ、そのまま返して」
少し赤くなった頬を引き上げて満足そうに笑んだ後、
ごく当り前に、席を立って、スプーンを洗いに行こうとするから止めた。
「か、風邪、うつったら、困りますし」
更に林檎顔負けに赤くなるんだもん、誤魔化せないってば、照れ臭いのは。
洗って戻してくれたスプーンを受け取る時、手首を引いて、よろけた身体を支えつつ
そこまで赤くなってた首に触れた。
慌てて身を引くカオルに告げてあげる。
「ん~ちょっとだけ我慢して。良かった、熱ではないみたい」
「ふぃ、不意打ち、止めて下さい。趣味悪いです、佐倉さん」
え~こんな楽しいこと、止めれる奴が居たらお目にかかりたいね~。
「でも、これは冗談じゃなくて。ちょっと疲れた筈だから。
夕飯の支度時間まで休んどいで。ぶり返すと大変だよ。冷やし中華、楽しみなんだ、俺」
「大丈夫ですってば。それに、今日は、まだ、お掃除とかしてないですし・・・」
「そんなの俺がすればいいことでしょ?冷やし中華作りは代わってあげられないんだから
しっかり体休めて来てよ。ね、お願い」
む~って唇を横に引き結んで、納得行かない顔してる。
自覚あると思うんだけど、どこまでカオルって我慢しようとしちゃうんだか。
いっそ、一人でいさせた方がいいんじゃないかって思うことすらある。
だって、気を使ってるんだ。 なんでも、俺が、気に入るかどうか、そればっかり。
それが意図的過ぎたら苛つくけど、そんなこと気が付いてないくらい一生懸命にしてしまう。
健が俺にしてあげれないこと、どうしても出来ないこと以外は、最大限、全力で。
それをしなきゃ、やらなきゃ、この人に、自分は飽かれてしまうって、不安でいっぱいなんだろう。
カオルのこと、気付いてやれてよかったと思う反面、知らないで健のままと思っていれば
休みたい時や甘えたい時、遠慮しないで凭れさせてあげれるかも知れなかったなって少し後悔もある。
「で、でも。 昨日まで、殆ど、何にも出来なかったのに・・・・・・」
「じゃあ、尚更でしょ。急にそんなに色々、頑張らないの。俺、そこまでダメな奴?
なら、いいよ。いっぱい無理して倒れちゃうまでやれば。俺はダメ男だから、それこそ困るよな~」
「・・・・・・休んで、来ます」
「は~い、ごゆっくり~。これでけっこう腹も膨れたし、夕飯遅めでもいいから、
目覚ましかけないで、いっそ寝ちゃってもいいし、ね~」
ぷいって横向いて、返事もしないで、カオルは二階に駆け上がってった。
翻るピンクのパーカーがどうしてだろう、カオルは羽衣に見えない。
もっと、現実的な物・・・・・・あ、カオルのはマントに見えるんだ。
上着って観点じゃ一緒だろって感じだけど、
カオルは、あの細い体に軍服を纏った中世の騎士の翻るマントに重なる。
淡いピンクが、白地の布に自らが傷ついた血で染めてる色に見えるマントに。
ふう、と。扉が閉まる音を聞き、息を吐く。
健がぬくぬくの陽だまりにいる家猫の子の姫ならば、カオルは風荒ぶ原野の黒豹の子の姫。
守り過ぎは、彼のプライドを傷つけるのかも知れない。
でもさ、身体はどっちも姫。労わらないわけには行かないんだってば。
あ、前言撤回。 いや、しなくていいか。
野生動物の仔は、成長するまで弱くて、なかなか大人になれないんだよな。
だから、虚勢だっていっぱい張って、身を守ろうとしてるんだよね。
「健、早く、帰って来てよ。俺だって、ヤバい・・・って」
声に出して呟かないと、よろっとしちゃいそうになってて。
声に出て、ハッとして。俺は自分の顔を両手で叩く。 気合入れなくちゃ!何事も。
さて~掃除しますか~!
今日は天気もいいし、露天風呂もやっちゃおう!
新月近くだから星見風呂になっちゃうけど。
去年の夏はさ、一緒に入って、星座を習ったりしたんだよね、健に。
眼鏡無いとみえないくせに、大体の位置と星の特徴言うと、
簡単な神話までつけて、線の繋ぎ方まで教えてくれるんだ。
テストに出るからって字面だけ叩き込んだ著名的な夏の星を、初めて、場所と形を知ったんだ。
恥ずかしがって、歌って教えてくれなかった宮沢賢治の
星めぐりの歌を、今度、ここに来たら教えてくれる約束、忘れてたら承知しないからな。
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