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”22” 城に潜む猫 ‐2
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side 健
蒼穹の空
カオルくんのお部屋の天井はこれ
お母さんと見た、あの日の空の色なんだ
カオルくんに、初め、名前は、なかった
「健くんって、時々、違う子になるね?健くんはその子のこと知ってる?」
お母さんに聞かれた時、本当のことを言おうか言うまいか悩んだ
シーラちゃんが、僕が嫌な、お母さんの、いろんな事を
引き受けてくれることを言いたいのかなって思ったから
僕が黙っていたら、お母さんは、「言いたくない時は言わなくていいよ」
って言って、少し、ご機嫌が悪くなって
どうしよう、逃げちゃおうかなって、ドキドキしたら
ラグに座ってる、あの頃は名前の無かったカオルくんが手を差し伸べてくれてた
いつでも、代わるよ?シーラは僕達が閉じ込めちゃったんだから、僕が代わる
そう言ってくれ、僕は、おずおずと手を伸ばそうかとしてた
でも、お母さんは、痛いことをするんじゃなく
いつもと逆で、僕を抱きあげて、ぎゅっと抱きしめた
「お母さんね、健くんが大好きなんだ。すごく大好き。
これからは、もっといいお母さんになるし、健くんが辛いことしないように頑張る。
健くんが大好きなお祖父ちゃんはもう、お空の国に行っちゃったけど、
ダメになりそうなときは、早めにお祖母ちゃんの所に行って、助けてって言う。
あの健くんは、すごく大人で賢い子。お母さんの健くんは素直な優しい子。
どっちの健くんも、お母さん、大好きだな」
ああ、僕と手を繋いでくれてる、この子のことなんだなって、わかった
「うん。ナイショね? 僕のね、双子のお兄ちゃんだよ」
「まあ、健くんは双子ちゃんなんだね。お名前は?」
「まだ、ないよ。みんな、お名前は、あ・・・・・・」
「シーラちゃんは、会ったよ。でも、あの子は、健くん好きじゃないでしょ?
他にも何人か、違うかなって子がいた。でも、何度もはシーラちゃんと、彼だけだね」
お母さん、気が付いてないと思ってた
抱きしめてた腕が緩くなって、お母さんが、泣き笑いの顔で、僕を見つめてる
「お母さんも、いっぱい頑張って強いお母さんになる。お祖母ちゃんみたいに。
だから健くんも、もう、彼みたいな人は作らないで欲しいな。
そうだ、健くんのお兄ちゃんに、お母さんが魔法をかけてあげるね」
「どんな魔法?」
「青の魔法。いつでも正しくて凛と強くて、こんな空みたいな人になって
健くんの弱い所を、全部、助けてくれるように。契約の印にお母さんの名前をあげる」
「ケイヤクってなあに?」
「うふふ。大きくなる間に、わかるわよ。だから、彼は・・・・・・」
「「カオルくん!」?」
お母さんと、僕の声が揃った
それが可笑しくて、いっぱい笑った
「お母さんね、健くんの完璧なお母さんにならなきゃって、思い詰めてた。
でも、簡単なことだったんだって、気が付いたの。
お母さんである前に、貴方の一番の理解者であればよかったのよね。
だから、お母さんは、貴方のお友達から始めたいな。そのカオルくんと一緒に、ね?」
お母さんが、あの日、言ってたことは
小さかった僕には、あまりよくわかっていなかったのに
あのもうすぐ夏になる空の下での近所の公園がゴールのお散歩が、お母さんとお出かけした最後の日
お母さんと、ちょっと薄着だったのに、楽しくなってしまって
きれいな青色が夕暮れの茜色になって宵闇の藍色になるまで、二人で、そのまま遊んだ
僕は風邪をひいちゃって、お母さんもひいちゃったんだ
僕が、真っ青の筈のから、次に目を開けた時に見たのは、白い、大嫌いな病院の天井
お祖母ちゃんが目を真っ赤にして、僕を見てた
ガラスみたいに、なにもなくて、ボンヤリしている目
「健さんは、生きててくれたのね。ありがとう・・・・・・」
ぽろぽろ、お祖母ちゃんの目から涙が流れた
いつも元気で、どーんと構えてて、お母さんはまだまだ見習いの魔女さんみたいだけど
なんでも、ひょいとしてしまう、お祖母ちゃんは、本当の魔女さんって感じだった
お母さんは、よく、泣いてた
お祖母ちゃんが泣くのは、その日、初めて見た
お母さんが、死んじゃったって、知らされた時
僕は、カオルくんの部屋から、カオルくんを連れ出して
カオルくんが、ここに帰れないようにした
お母さんとの最後のお出かけの思い出を、
ずっと大事にしまい込むために、カオルくんには、ここに居られては邪魔だったんだ
カオルくんが生まれた部屋には、他に、
お母さんの、僕にした、悲しい出来事がいっぱい詰まっている
痛くて悲しくて苦しくて、どうしてなんだろうって思う度に、ここに持ちこんで
お部屋はどんどん大きくなってった
シーラちゃんが、代わりに泣いてる間、いつもここに籠った
そしたら、そこから、カオルくんが出て来て、
僕が代わりに行くねって言ってくれた、シーラじゃ困ること、僕が行く
僕は健と同じ年だから、なんでも健と同じように出来るよ
耐えられない間だけ、向こうにいてあげるから、お母さんが、健を抱きしめたくなったなら戻ればいいよ
大丈夫、僕達は、とてもそっくりなんだから、きっとバレないよ
何度も、出てもらってしまった
いけないって思うんだけど、誰かに助けて欲しかったんだ
どうして、あんなに怖い顔で、僕を叩いて抓って罵るのに
必ず、すぐ後で、泣きながら、ごめんね大好きよって、抱きしめるんだろう
僕には、それがわからなかったんだ
それでも、僕は、お母さんが大好きで、お母さんしか僕にはいなかった
カオルくんが、来てくれて、僕は、お母さんに置いてきぼりにされたことを堪えられた
僕は、カオルくんがいなきゃ、大きくなれなかったと思う
あの部屋を閉じてしまって
カオルくんは帰れる場所を無くしちゃったけど、カオルくんには悪いことをしたけど
一緒の、僕のお部屋に住んでもらって
カオルくんがいつも側に居てくれて
お祖母ちゃんの魔女さん修行をさせられたり
お母さんの夢だったピアニストになる為の練習をしたり
お母さんみたいな、大切な人に、急にお別れしなくても良いよう
命の魔法が使えるお医者さんになれる為の学校に行くのに、お勉強したり
いつも一緒、ずっと一緒
でも、これじゃダメなんじゃないかって、心のどこかで思ってた
クラスのみんなは、心の中に、お兄ちゃんが居たりしないって、知ってしまったから
初めのきっかけは、桔乃ちゃんに言われたんだと思う
小さな頃、僕は、おかしいなんて思わなくて、
いつも通り、お話ししたい時はカオルくんと、おしゃべりをしてた
お母さんが、僕のピアノの先生だったんだけど、もう習えなくなったからって
お父さんが探してきたピアノのお爺ちゃんの先生に習いに行くことになった
いつも通り、僕が間違ったら、カオルくんが教えてくれて、
先生に見せる前に、隣の部屋でピアノを弾いていたんだ
「どうして、健くんは、一人でお話ししているの?」
って、僕に訊いたみたい
でも、僕はその頃、日本語がわからなくて、
一緒に付き添って来てくれてたお祖母ちゃんが通訳してくれたんだ
お祖母ちゃんに、「僕はおかしいの?」ってきいたら、困ってた
・・・・・・おかしいんだって、気が付いた
そうだ、よく、お祖母ちゃんも、時々、困って僕達を見てることがあった
その日の夜、ベッドに二人でいる時、僕はカオルくんに、窘められた
「変に思われたら、僕達は一緒に居られなくなるかもしれないぞ」って
クラスでは、僕は、みそっかす扱いで
言葉が通じないから、僕のことは誰も見ないし、遊ばない
時々、苛める人もいた、ガイジン、ガイジンって
あの頃の僕は、髪も今よりももっと色が薄かったし、そう外見も違って見えたのかも
仲間外れは、そんなに、辛いとか思わなくて、
誰も気にされないのは、寂しいよりも、楽ちんで、
好きな時にカオルくんと、おしゃべりしてれば、平気だった
でも、観察してみたら、誰も、自分しか知らないお兄ちゃんを持ってないようだった
そこに気が付いてから、僕は、ソファーとラグの法則を作った
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