アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”22” 城に潜む猫 ‐3
-
僕のお部屋は、初めは、何もなかった
そこに、ソファーが置かれて、座ると外の世界に繋がるようになったのは、どうしてそうなったかわからない
ソファーの下に、敷かれたラグ
お母さんのピアノの恩師、ワイル先生の贈り物
僕が、ケチャップをこぼして、汚してダメにした
ふざけて、ご飯を食べてたからって怒られた
ベッドの部屋との境には、モスクのモザイクタイルみたいに素敵な壁掛け飾り
キラキラ、シャラシャラするのが、とっても綺麗で、弄っちゃダメって怒られた時、
びっくりして手がぶつかって落ちて割れちゃった
僕のお部屋は、僕が、壊したりダメにしたりしたものが元通りになって、置いてある
お母さんに、このお部屋を見てもらいたかった
きっと、喜んでくれたろう
お母さんの大事にしてたものが、みんな復活してるんだもん、
きっと、ううん、絶対
赤い染みのついたクッション
縁が欠けてしまったフォトフレーム
柄が折れたキャンドルスティック
お母さんが壊したのも、ちゃんと治ってる
向こうに行ったら、大きいサイズの、
この小さなお部屋には入らないものは小さく
向こうに行けない方が、練習する為に用意した
「健、体育の縄跳びやサッカーボールは?」
「あれは要らない。出来るようにはならなくて良いよ。怪我をしたら、
お祖母ちゃんがお父さんに叱られて困ってしまうよ」
「そうだね、遊園地の時みたいになると、可哀想だもんな、わかった」
お父さんが、こんなものって、投げ付けて動かなくなった
遊園地で買ってもらった、ゼンマイで、カタカタ走る自動車の玩具
お祖母ちゃんは、あれを壊された時の喧嘩以来、
僕を人がいっぱいの遊び場に連れて行かなくなった
都会になれないお祖母ちゃんが、色んな人に行き方を習って、
やっと連れて行ってくれたのに、動物園も植物園も大きな公園も
「あなた達は、子供を何だと思っているの!
子供らしいことさせてあげれないで、どうして親なんて言えるの!」
お祖母ちゃんは、仕返しに、お父さんの出来立てのお仕事の紙を
鮮やかな手つきで、あっという間にみじん切りにしちゃったけどね
僕はお城をとぼとぼ歩いて、このお城で一番新しいお部屋に入る
ここは、「静さん」の部屋
お祖母ちゃんが、カオルくんが逃げちゃって、本当に僕が壊れて、
誰も戻らなくなった僕の変わりに
僕に入り込んで、無理矢理作った、合成のお部屋
ここに期間限定で、お祖母ちゃんと一緒の人がいて
僕を、表に引きずり出したんだ
もう、誰も居ないんだけど
お部屋は、佐倉のお家に繋げてあるんだ
あの事件があって、僕で居るのが嫌になって、カオルくんが逃げてった場所
ソファーとベッドのそれぞれのお部屋の周りに
大好きだけど、夜はちょっと怖い、佐倉のお家を作った
僕が居るから、帰れなくなったお祖母ちゃんと
大好きだったお母さんとお祖父ちゃんが居て、毎日、すごく楽しかった所
時々、遊びに行きたいからって、作って
夜、あんまり眠くないときは、カオルくんと一緒に遊びに行った
カオルくんはそこを内側から、全ての入り口を閉ざして
もう、絶対、健の人生に関わらないって、閉じこもってしまった
あ、今日は、佐倉家のピアノを誰かが弾いてる
ショパンのプレリュード第7番イ長調作品28ー7番
お母さんかな?
これ、僕に一番初めにお母さんが教えてくれた有名な曲なんだよね
懐かしいなあ、お祖父ちゃんが、短くていいっていつも言ってた
お祖父ちゃん、僕の記憶には
いつも黙ってニコニコしている顔しかない
僕はお祖父ちゃんと、最後まで言葉を交わせなかった
一生懸命に、お祖母ちゃんに習って、紙に書いて読んで言ってくれた言葉
「ここが健くんのお家なんだから、好きなときに帰ってきなさい」
「ありがとう、大好きだよ、お祖父ちゃん」って僕が返した言葉すらわからなくて
お祖母ちゃんに通訳してもらってたな
皆に、会いたいな
僕、行っちゃダメかな
もう、昔の僕に、会いに行くのは、疲れた
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
145 / 337