アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”23” ネコが猫を被るかを判ずる王子 ‐2
-
俺と二人だけの時間が長いカオルは、ま、健ほどじゃないけど、人見知りする。
外面は悪くなくても、緊張するんだろう、余所行きの顔になる為に、不機嫌になるんだ。
専用タレ入りの紙の小皿を手に、「もう焼けましたよ」って言う、顔が曇った。
「あれ~?中舟生くんと健くんじゃない? 奇遇~!」
阿川が、若い集団から飛び出して、俺達の所にやって来た。
そう。今日、カオルを外に連れ出したのは、偶然を装った阿川に面談させるため。
だから、前に行った牧場と違う場所を指定され、けっこう、どう辻褄を合わせるか悩んだ。
ジンギスカンを食べに行く約束をしたって、横山に電話で言った時、場所も言っとくんだったって
大きく後悔したもんなぁ~。不自然にならず、カオルに会場を変えさせるかで。
そんで。お、ここ、乗馬も出来るってのを見つけて、カオルは馬に乗る羽目にもなったって訳。
馬がダメでも、気球もあった。健が、高い所なんて怖い!って言いそうなキャラなのに
高い所が大好きって、とんでもなく強心臓でビックリしたことがあった。
俺の郷里のドライブで、一昨年、海を見に行こうって誘って、
海に突き出した丘から迫出した長い展望台の足元が強化ガラスになってる高い場所も
さすがの俺だって背中が騒々したのに、ニコニコ楽しんでたもん。カオルはどうか知らないが。
「お~、阿川じゃん。なんで、ここに?」
「ん~。え~とですねぇ。集団デートってやつ、ですか?ね?てへへ」
阿川が照れながら恍ける様を見て
カオルは、すっと、健を演じる時の表情に変わって、無言で会釈した。
テスト① カオルは、阿川らしくないことに気が付くか?
アンサー例 健ならば、気づき、らしくない阿川を心配する。
これは、ものの見事に、健じゃないってことが分かった。
どの人が、阿川の彼なんだろうと、興味深そうにちらちら見ている。
阿川は、こんなにオープンな奴ではない。特に恋愛について、彼の有無は時折匂わせても
俺達に紹介したことなど一度もないし、もし、彼とのデート現場に偶然遭遇しても、そっと相手を逃がす筈。
そういう奴だから、本当に困らない限り、俺達に恋愛中の自分を見せたりしないんだ。
それを、単純に受け止めれるか、危ぶんで心配顔になるかを、俺は見てる。
俺達の間で、阿川は、カオルが、どこまで健を演じるかを見て。
俺は、健を演じながら、する反応が、性質上、いつもと、どう違うかを注視する。
横山が言うには、複数の人格を操れるのならば
俺に対して、嘘をついてる可能性があるんだそうだ。
本当は健なのに、違う人、カオルって人格を演じてるってこと。
幸いなるかな、俺の健は素直で、すごく呆れるくらい優しい。
もし、嘘をついて俺の前に居るなら、様子の違う阿川のことを心配せずになんていられない。
「ユーカ!おい、何やっての!早く来いよ」
「うっさいなァ、ごめん、じゃあ、行くね」
彼役の、横山から聞いたところによると、阿川の幼馴染らしい、ちょっと厳つい男が声を荒げて呼ぶ。
あからさまに嫌そうな顔で、そそくさと、集団に戻る阿川。
向こうに行ったら、ちょっと揉めてる感じに見えるように演じてる。
「阿川さん、彼、なんか、イメージ違いますね」
「ん?なんで?」
「もっと、阿川さんって、優しいタイプの人が好きかなって思ったので。佐倉さんみたいな」
焦げるし食べるぞ~って俺が食べ出したら、ぽつりとカオルが言った。
この揉めるのもテストのうちの一つ。
健なら、はらはらしちゃって、食事なんか喉を通らなくなる。
カオルは少し悲しげにはしてても、箸を動かして、野菜や肉を焼き、口に運んでる。
対岸の火事と、思ってる仕草だ。気にはしつつも。
「けっこう、美味しいですね。ラムってもっと癖があるかと思ってました」
「なんか、子羊を使ってるって、書いてあったよ」
「あ、そうか。子羊じゃなきゃラムじゃなくて、マトンになりますもんね」
「カオルくん、牛肉も焼いてよ。食べ比べしなきゃ」
途端にカオルの眉間に皺が寄る。
「ダメです!僕は、今、健ですよ。阿川さんに変に思われます!」
「あ、やっぱり、気にする?わかった~気を付ける~」
俺は内心、へーって思いつつも、表面上は、おっとごめんね、みたいに誤魔化す。
カオルはやっぱり、俺に嘘はついてないんだなって。
小声で注意して、阿川のいるテーブルを気にする。
見てない振りで、ずっと、カオルの所作を眺めてる阿川だから、もちろん目が合って。
小さく、阿川が手を振るのに、苦笑して振りかえす、カオル。
ごめんね、カオル、もう一段階、テストがあるんだよね。
俺達は一番奥辺りの小さな所で、阿川たちの集団は手前の大テーブルを貸し切り。
ちょっとした、騒動が起こることになってるんだ。
阿川の彼役が、怒り出す、ほんの些細なことで。
それで、彼を諌める、阿川が、彼と喧嘩になる。
さあ、カオルはどう出る?
健なら、おろおろ、びくびくして、俺にどうしようって縋るだけ。
本当に健は人の争い事が苦手なんだ。
阿川を生意気だと大声で罵り、強くテーブルを叩いたり。
今にも、手が出そうなくらいに、エスカレートさせて行く。
「佐倉さん、止めに入れますか?」
「やっぱり、行った方がいいと思う?」
怖がってはいても、眼差しは怯んではいない。カオルは俺の眼を見て、頷いた。
ご要望通り、仲裁に入り、予定調和で、今度は俺に絡むことになってる。
阿川の間男じゃないのか、呼ばわりで、更に険悪になって。
「迷惑です。楽しく食事が出来ない人は、出るべきです」
カオルが阿川の偽彼の前に、すっと立った。
凛とした態度で。しっかり、阿川を背に庇って。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
147 / 337