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”24” 城に潜む猫 ‐4
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side 健
上の世界で、ピアノをカオルくんが弾いてくれているんだって、最近、気が付いた
静さんのお部屋のピアノはそれを、こっちに届けてくれていただけ
カオルくん、僕の身体は、もう、全然ピアノ弾いていなかったから、使いづらいんだろうな
すっごく、上手だった、カオルくんはピアノ
僕が、出来ないと、カオルくんが、いつも仕方なさそうだけど、そこか嬉しそうに代わってくれた
佐倉家に一番近い静さんのお部屋にいるのは、カオルくんに見つかる可能性が一番高い
だから、長居をせずに、ここで、僕が、受け入れずに逃げたものを
見詰め直す時間は、短く取って、早く、本当に真っ暗な、あのお部屋に行かなくちゃいけないのに
カオルくんのピアノの音色が、懐かしくて、ここを動けなくなっている
あ、今日は、リストの、愛の夢 第3番 変イ長調
僕の憧れのいっぱい詰まった曲
あの頃の僕が思う、「愛し愛される」の憧れだけど
うふふ、思い出すな~
この曲と、カオルくんの押してる、同じ作曲家の曲でベッドで大喧嘩になったのを
「独り立ちするって言ったんだから、『ため息』で行くべきなんだって!」
「どうして?弾くの難しいから、尚更、気持ちが入らなきゃダメだって先生が言ってたもん。
僕にはわからないから、無理!また、言われちゃうよ、先生に」
「何を言われるんだよ。あ~あれか、『健くんは、恋を知っていますか?』ってやつか?
ハン!馬鹿馬鹿しい。恋とか愛とか。しょせん弾くときに楽譜通り間違えなければいいだけだろ。
上手く弾くには感情とか要らないと僕は思うけど」
僕は、気持ちが籠ってるべきと思ってる
だって、月が綺麗だな~静かないい夜だな~って思って弾くノクターンは綺麗に聴こえる
だから、リストの愛の夢は昔から大好きな曲
ショパンのノクターンとどっちか選べってカオルくんに意地悪を言われて、泣きたくなったもん
カオルくんの押してる曲は、3つの演奏会用練習曲 変ニ長調「ため息」
練習曲って言われてても、ピアノの演奏家でも天才だったリストの為の曲で、とにかく難しい
1拍ごとに右手と左手を素早く交差して弾いたり、
分散和音を奏でつつ、交互に内側の旋律の音を拾って響きあわせるとか
見た目も華やかだけど、指が千切れるってくらいに忙しい
「技術的にも自信ないんだろうけど、あれでしょ。愛の夢より長いもんね、だから嫌なんだ?」
「違うもん。感情が乗らないの。難しいもん、好きな人を思い浮かべてため息をつく気持ちなんか
僕にはわかんない。好きな人なんか、思いつかないもん。カオルくんは、わかるの?」
「僕だってわからないけど。楽譜が難しいから、ため息が出るってことだけじゃないの?
結局、健は難しいから嫌なだけでしょう、だから、ダメなんだよ」
延々、数日喧嘩して 僕は、やっぱり、愛の夢にした
でもね、カオルくん
僕、今なら、ため息が弾けたかもしれないな
爽くんを思えば、ピッタリな曲だからね、ため息
人を好きになって、弾くと、きっと、じーんとすると思った
愛の夢は、お母さんに捧げる気持ちで弾くと、上手に弾けた
曲の解釈、元は歌曲だからその詩の意味の内容は、
お母さんも、この曲みたいに思って生きられたら、もっと楽に幸せに暮らせただろうねって感じ
思いの外、緊張もしないで弾けて
ワイル先生も褒めてくれた、お母さんよりも上手かもってねって お世辞だろうけど
懐かしいことを思い出しながら、静さんのお部屋の中を見渡す
ここは、僕と、お祖母ちゃんが共同で作った部屋
あの事件の後、僕は、カオルくんもいなくなって
もともと、嫌で逃げ出していた世界に急に戻されて、あんな目に合ってしまったショックで
色んな意味で、ぼろぼろで、もう、本当に、生きているのが嫌になっていた
いくつもの、生まれそこないが、勝手に僕を弄り回そうとしてて
でも、どうでもよかった、僕には
シーラちゃんの部屋のカオルくんの錠前が壊れて、
シーラちゃんと怖い子が生まれそこないを押しのけた時、
「静さん」を作って頂戴って、お祖母ちゃんの強い感情が僕の中に飛び込んできた
僕の混乱した、死の匂いに満ちた世界に
突如現れて、全体を、ものすごい勢いで片付けだした人
それが「静さん」、僕の中にできた、お祖母ちゃんの人格
彼女は、外の世界のお祖母ちゃんに繋がっていて
色んな僕の中のことを、要るもの、要らないものに分けて、
要らないものは、金色の強い糸で、僕の作った部屋に閉じ込めて縫い合わせることが出来た
そんなこと、僕は、誰にも許していないのに
勝手にされて、僕は怒った
怒って飛び出してって、捕えられたんだ、彼女に
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