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”27” ネコと王子の休息 ‐4
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気になるところは戻って見直したりするカオルに付き合って。
結局、最後に寄ったショップコーナーに着いた頃は、夕闇が迫る頃になってた。
八景島のマリーナに沈む太陽に時折、目を遣りながら、カオルは真剣に悩んでいる。
「決まった?何でもいいし、一つに絞ったりしないでいいんだから、好きなの買おうよ」
「で、でも。こんなの、いっぱいあっても、邪魔でしょうし、女の子の部屋じゃないんだから。
一つでいいんです、小さいの。あうう……マグカップとかも可愛いけどな。あって邪魔になるのは……」
ずっと悩んでるのが1つだけ買うって、決めたらしい、ぬいぐるみ。
他の物は、カオルが使いたい物とか、飾りたい物とか、自由に選べばいいよって俺が言い
後で始末に困るのはダメだと言うから、カオルが、行く先々に持ってけばいいんじゃんって。
でもでもって、渋るんだ。まったく、わかってんだからね。
「健だって、カオル君が選んだのを、大切にこそすれ、邪険にするとは思えないよ。
もう、安心して好きなだけ買っちゃえ!いつも健に奪われてた楽しみでしょ?」
カオルが、目を丸くして動きを止める。すっごく驚いたんだろう。
「考えたら解るって。大好きなお祖母ちゃんに連れられて遊びに来てさ?
でも、静さんのことだから、甘やかし過ぎちゃいけないって思って、
何でもいいから1つだけねって何かを買ってあげることにしてたんじゃないかなって。
子供の我儘なんてさ、交代ずつ欲しいもの選ぼうねなんて言ってたって口約束になっちゃうもんでしょ。
で、健が出て来て、こっちが欲しいってなれば譲らないだろうし、静さんの見てる前じゃ喧嘩も出来ない。
我慢するのは、いつもカオルくんだったんじゃないかなって」
「……すごい、佐倉さんの洞察力」
「正解でしょ?いっぱい買っちゃえ!お、これ可愛くない?ジンベイザメ柄パンツ。買ってあげようか?」
「変ですよ。でも、欲しいですか?なら、僕が、今日のお礼に買って上げますよ?」
「ペアか~、惹かれるお誘いだな~」
「佐倉さんの分だけですよ。僕は、それ穿きたくないですもん。でも、じゃあ、枕にもなりそうだし
誰かさんの好きな青色がメインだからこれにしようかな」
その大きさに水槽の前で唖然と見てたジンベイザメをキャラにした小さめな枕サイズくらいのぬいぐるみを手にする。
本当はジンベイザメって茶色っぽい柄なのに、ここのは青の斑点模様。
他にも、マグカップを一つ買ってた。自分の分、欲しかったんだそうだ。
あと、明日の丹羽家の皆さんにって、ベルーガの箱に入ったチョコクランチと模したマシュマロを購入し。
俺はカオルが会計に行ってる間に、こっそり、欲しそうに見て諦めてたカメのぬいぐるみを買っておく。
何回も手にとっては止めてたんだ、30センチ前後の小さいのなのに、そっちにしなかったんで。
「お待たせしました。そろそろ帰りますか?」
「ん~せっかく、ワンデーパス買って、勿体ないし、1箇所だけ付き合ってよ」
俺がちょっと見えなくなって、急いで探して駆け付けて来たっぽい、カオルをつれて。
すっかり日も暮れて、所々ライトアップされた中、誰も見てないって囁いて、人目を忍んで手を繋いでってお願いしてみれば
「どうせ、知ってる人いないですから、いいですよ。あ、でも……」
「わかった、拙そうな所になったらすぐ放すよ。嬉しい、ありがとう」
「……今日のお礼にです。結局、また、何も買わせてくれないし、どこまで甘やかすつもりなんです?」
つっと指を絡めてくれた。俺は二人分のお土産荷物を空いた左手に持って。
海風が頬を撫で、吸い込む息に磯の香りが濃く沈む。
目的の場所をどこかも教えずに、マリーナ風の建物の合間をそぞろ歩く。
もう9月になった初めの週末。家族連れもまだまだ多くて、けっこう混んでた。
夜になって来てちょっとは減ったかな。
「ね、佐倉さん、今年の小中学生はお休み二日多くて得してますよね」
「あ~そうだね。でも、今日遊んでられる子は努力家の証じゃない?」
「努力家の証って?」
「サボってる子は宿題の追い込みで、出かけてる余裕ないでしょ。カオルくんはどうだった?」
「僕達は、早めに終わらせる派でしたよ。佐倉さんもそうだと思います。当たってます?」
「全部7月中には終わってる。しかも完璧に。日記が結構困ってさ。ウソ日記書かされるんだよね、母親に」
那須の別荘って、親父が来れないときは、俺と兄貴と使用人って図式で。
正直なんにも楽しくない。虫取りやら何やらなんて、数日で飽きるし、何より、遊び相手が兄貴だけだ。
俺達は2個違いで年が近くても、気が合わなくて。中舟生のお坊ちゃん達が夏休みどこにもお出かけしないなんてって近所向けの体裁だけで送り込まれて、内実、家庭教師も兼ねてる爺や代わりの家人に生活を更に田舎で管理されるだけだ。
家にいたって那須に来たって大差はない。それぞれの気の合う友達を取り上げられるだけの迷惑な日々。
母親は虫嫌い田舎嫌いなタイプで、滅多に来なくて。実家で夕食時とかに「那須で子供達とキャンプをしよう」なんて親父が言ったら毒虫を見る目でブランドスーツ着て呆れてた。
でも、日記には、使用人の家政婦がしてくれたことを、さも母親がしたこととして書かされる。
楽しくもないのに「楽しかったです」、美味くもないのに「とっても美味しかったです」って。
俺はちょっとした意趣返しで、バーベキューの最中の絵日記に、ディオールのスーツ姿な母親が肉やら野菜を串に挿してる絵を描いてやったら、最終日にバレて、書き直しを命じられたっけ。
「……あの、佐倉さんが嫌な思い出は、話さなくていいですよ?」
「ありがとう。気遣ってくれるの、やっぱり、健と一緒だな。お、あれに、乗ろうよ。
どうなんだろう、健は凄く好きだったんだけど、カオルくんは苦手とかじゃない?」
俺達が見上げてるのはシーパラダイスタワーってやつ。
なんでも地上90mまで、ゆっくり回転しながら上昇していくドーナツ型のキャビンの、
でっかい展望エレベーターみたいなやつ。
「うわ~なんか凄いです。途中、あれはなんだろう、発光してて、UFOみたいだなって思って見てました。
面白そう、高い所大好きなんですよ、健も僕も。ワクワクしますよね」
「ホテルさ、急だったし、何とか部屋は押さえられたんだけど、海側取ってあげられなくて。
ここで、夜景楽しんでから、帰ろう?まだ、居たいだろうけど。けっこう疲れたでしょ?」
来る道すがら、ライトアップされてるっぽい水族館とか、戻って行きたそうだったもんな。
今日だけ遊び倒させて、明日は家でのんびりとかだったら、閉舘時間まで付き合うんだけど。
丹羽家訪問って難題が控えてるから、余力を残してもらわなきゃ。
3回転で上下を往復して、中は椅子に座ってのんびりと景色を眺められるって作り。
360度の大パノラマを、開いてた席に、二人並んで座って。
「僕達が宇宙人ってことですか?ふふふっ、面白いな。……うわ~綺麗だ~」
ライトアップの園内をゆるゆる進んで空へ向かう乗り物は、足元が安定してて、観覧車とかとは、また感覚が違って。
カオルが言うように、横に動く景色が徐々に上に上がって行くのは面白くて味わい深い。
「あっちの明かりがいっぱいの辺りが横浜。今夜はあっちに泊まるんだけど。
夜景はイマイチなんだってさ。あ、さっき言ったね?」
「はい。でも、こんな綺麗なの見れたんで、十分ですよ。
それより、佐倉さん、ごめんなさいね。1,450円も損させちゃったんですね、僕」
ん?なんで、そんな明確な金額が?って、どこが損したんだ?
「この乗り物しか乗ってないでしょ?遊園地。遊園地のチケット代が本来は3千円の所
水族館とセットだから千円割り引かれてて、そこからここの乗り物代金が……」
「はいはい。しっかり者さん。そんなのいいの。次回は考えながら買えばいいだけでしょ。
また、来ればいいよ。なんかね、夜にやるショーとかもあるんだって、水族館」
カオルは目を細めて、柔らかく頷き、少し考えて、やっぱりって首を横に振る。
あ~また、自分は短い間しか~発言するつもりか?
「しばらく先まで、取ってて下さい。僕、他の水族館にも行ってみたい。
連れてってくれますか?それとまたココでもいいけど遊園地も行ってみたいです。
僕ね、ジェットコースター乗ったことないんです」
「え、嘘。それってすごいかもよ、全然なの?」
「中学の頃、鑑ちゃんが、歌舞伎のお家に養子に行くことになって、お別れにって
学校を初めてサボって、東京ディズニーランドに行ったんです。初めて」
実際の日付は、もう6年前のこと。
カオルの記憶じゃ、つい去年くらいに思ってること。
遠くを見つめる琥珀の双眸に、キラキラと夜景の光が色を加える。
「小さな頃、まだ小学生にもならない頃。お祖母ちゃんがあれはどこだったのかな?
電車に揺られて、僕等を連れてってくれたんです。僕は今も、小さいけれど、あの頃は本当に小さくて、
悉くスリリング系な乗り物は身長制限で乗れなくて。こんどこそ、いっぱい乗ろうって楽しみだった。
でも、嘘をついたバチはやっぱりあたるもので、午前中に足を酷く挫いてしまったんです。
車椅子に乗って移動するくらいの酷さで、僕だけ帰ろうかって思ったんですが、
お義兄さん達が僕に合せた乗り物やらパレードの見物やらで、お骨折り下さって、すごく楽しく過ごせました。
僕が持ってて、健の持ってない、楽しい思い出なんです。コースターは乗ってないけど」
乗り合わせてる皆、外に、お互いに夢中だから、バレやしないと、荷物に隠し。
俺達は恋人繋ぎで、互いに求め合って、秘密で手を重ねている。
俺と健の定位置の、いつも通りに俺の右にいる、今は、中身がカオルの健。
「今日また、一つ増えてしまったんですね。嬉しいけど、許されてもいいのかな。
また、他の思い出も、佐倉さんに貰っていいのかな」
俺は、応えよう。カオルである、君に。
「もっと、もっと、いっぱいあげるよ。水族館も遊園地も、美術館も博物館も。行きたいとこ好きなだけ。
手始めに明日、いや、今夜これからかな?」
「これから?まだ、何か考えているんですか?」
「車に乗って横浜のホテルに向かって~。駐車場に停めて、夜の横浜中華街か元町に散歩しに繰り出す!
で、気になる店に入って、夕飯、ガッツリ食べるでしょ~。
明日は寝坊して、ホテルのこないだ喰い損ねた、エッグベネディクトの朝食を喰って~」
約7分間の、ちょっとした眺望遊泳。
しんみりした空気感を吹き飛ばしたくて、ちょっとおどけて話をした。
切なくなるなんて、今じゃなくていいよって。身体中で、教えてあげる。
俺達は、罪人なんかじゃないんだからね、言葉にしたら重くなるから、態度で示すよ。
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