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”29” 王子パパ meet ネコ ‐6
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つい、額に手を当てる俺に、カオルは、
「……じゃあ、まだ、復学できるんだ。いや、講義を数週間行ってない程度なんですね、状況が。
なら、いっそ、戻ってみたらどうですか?」
深刻な顔して言っちゃうんだ。バカですねって冷笑されるか、こっちかって2択予測の通り。
やっぱり、こっち側だったか~。届いてないんだなって、ちょっと凹む。
「俺の丹羽さんにした告白に、涙してくれたの誰?」
「でも、僕は!やっぱり、佐倉さんを犠牲にしてるって……ちょっ、嫌!」
話が拗れる前に、カオルにはこれが一番。ってことで、ささっと向かって。シンク前の無防備な背中を後ろから
むぎゅーっと力いっぱい抱きしめる。
「嫌だってのは、こっちのセリフ。何回も言わないって、決めてんのにさ。
俺は、健と絶対に別の学年になんかなんない。それが解ってくれてるから、カオルくんだって勉強始めてくれたんでしょう?犠牲?誰が?誰の?って言うか、一番犠牲になったのは健でしょ!誰の代わりに刺されたと思ってんの!俺のせいでしょ、二度と嫌だ、あんな思いはしたくない……わかってよ」
「わかって、ますよ……。佐倉さん、痛いです。……もう、離して」
「俺だけ大学に戻れとか、二度と言わないって誓ってくれるなら、放すよ。じゃなきゃヤダ」
もう~って困り果てて、ため息をつく。両手はハンバーグの種でべちゃべちゃだし、シンクに身体を押しつけられちゃってるから脚の自由もきかない。身長差、体格差、万歳だ。
「ね、カオルくん。健の身体って儚いね。なんとかなんないかな」
「ほんと、健の旦那様だからいいけど、意に染まぬ相手にされても抵抗できないですよね。ふぅ。
男の子なんだから、どうにかしなきゃいけないですよね……。って、なんか話題摩り替えてるし!」
「ははは。だって、誓ってくれそうにないし。ま、抱っこしてたいからいいんだも~ん」
「え~い、離せ!!なんか急にシリアスぶって~。セクハラ反対!お昼抜きにしますよっ!」
可能な限りの身体を捩じる抵抗に出てみるカオルが可笑しくなって、俺は大笑いし出す。
「お昼抜きは嫌だけど。シたくなっちゃったかな~。エッチ、シよ?」
「昼間からバカなこと、言わないの~!もう、邪魔!どっか行って下さいっ。大学とか。
僕に言われるの嫌ならさっさと出して来ちゃえばいいでしょ、馬鹿なんだからっ」
あ、そっか。今日は木曜の午後か、そうだね。気が付いたなら行くべきかな。
う~でも、この感じは、独りにしちゃいけないと思うんだよな。
今はギャーギャー怒って、笑ってるけど、絶対後で、独りで悩むもん、カオル。
エッチして、流しちゃおうって、だから、言い出した訳だし。カオルは流され系なエッチで燃えるもんな。
健じゃありえない。納得してないと、すごく抵抗し続けるもん。イヤイヤ、泣きながら抗われて、俺、恋人なんですけどって何度叫びたくなったことか。それも可愛かったんだけどさ。
「ん~じゃあ、食後に散歩行こう。健のお気に入りの家と近所の庭園。カオルくんに俺が案内してあげるよ」
「大学は行かなくても良いんですか?外、日差し暑いし。きっと蚊とかいっぱいいますよ?」
「虫対策も紫外線対策もちゃんと防御してくの。いつも健は日笠に長袖長ズボン。刺激臭がしない自然派虫よけ剤もちゃ~んと準備してあるの!俺達の共通の趣味だった唯一のスポーツなんだからっ」
そっと、腕の中から解いてあげて。俺も手を洗う。
「大人様ランチ、俺も作るの手伝うからさ~。
お願い、付き合ってよ。暑いときはさ、庭園が空いてて貸し切り状態で良いの。
大学は明日にでも、ゆっくり行ってくる。本当に、ウソじゃないよ。
横山に、時々、東京に居るならいい加減、顔を見せに来いって言われてるんだけど、言い出し難くてさ」
「え~と、じゃあ、レタス洗って千切ってて下さい。ん~、それならサラダはお任せします。
横山さんに何を言えなかったんですか?最近電話とかもしてないみたいだなって思ってたけど」
レタスと~何サラダにするかな~ハンバーグとナポリタンは予想着くけど、大人様ランチはあと何が予定されてるんだろう?合わせるには無難に野菜サラダでいいかなって、胡瓜と玉葱を野菜室から出してみる。
「カオルとセックスしてるってこと。横山に止められてたからさ。怒られるかなって」
「そっ、そんなのも、報告するつもりなんですかっ」
「ん~、カオルくんに好きだって言うのも、ダメだって言われてたし。
横山に言わない方がいいかな?人格を贔屓しちゃダメなんだって、たとえ健でも」
カオルが贔屓って小さく呟く。
「トマトも入れていいかな、サラダ」
「……あ、トマトはダメ。被っちゃう。プチトマト使うのあるので。あ~でもそうすると彩りが足りないですね
じゃあ、人参、細切りで入れましょうか。出来ますか?」
「す、スライサーがありますからねっ!」
「そんなのちょっとの量で出すの面倒ですよ。貸して下さい。人参、別のにも使うから」
お~さすが!皮を剥いたついでに、ピーラーで細いリボンみたいなのを作る。それを、ちょちょって包丁を振るって、千切りの人参が出来た。
「あは。でも、胡瓜と玉葱はスライサー使うのか。ついでがありましたね。具材4つは嫌だな~。
これも仕上がったら割いて載せて下さい」
「お、ウソんこ蟹のカマボコだ。俺、これ、健に笑われたんだよね~。蟹入ってないじゃんって言っちゃってさ。
佐倉家で初めて食べて、ここで一緒に飯作るまで、正体を知らなくてさ」
「うわ~嫌味なお坊ちゃんだ~。カニカマ知らないとか。僕、逆に蟹の身を食べるの下手だから、カニカマの方が好きですよ。蟹缶は便利で今日使ったけど高い。蟹缶買うなら帆立の水煮缶買いますもん」
「それ、健も言ってた~。庶民だからいいんだって拗ねてさ。一緒だね~。
蟹雑炊作る時に籠に入れたらさ、勿体なくないかって言ってさ~。大したことないじゃんって」
二人で並んで、台所に立って作るのも久しぶり。
この間の桃は、結局、翌日には結構痛みが激しいのが多くて、那須に運んで、カオルが一気にジャムにしちゃったんでグラタンにならなかったんだよね。桃ジャム初めて食ったけど美味かったな~。
健と、佐倉家やここで飯を食うようになるまで、俺はジャムは苺とマーマレードとブルーベリーしかないと思ってた。それしか食卓に出なかったからさ。
お菓子も手作りで喰えるなんて知らなかったし。家のコックはパティスリーではなかったんで、オヤツにお菓子があるのはみんな市販品だった。気が付けば、甘党って家はあんまりいないから必要なくて。
あ、チョコは手作りがあることは知ってたよ。バレンタインの恐怖があったからね。母親が絶対に手作りは食うなって言ってた。理由は恭介が手作りのトリュフを高校の時に喰わせてくれて知ったけどね。ゼリーもプリンも恭介は滅多に作っちゃくれなかったけど(あいつ、あんまり甘いもの好きじゃなかったから)、店で出す試作品があるってなると喜んで食ったもんな~。
食事の楽しみは、皆、健と静さんが教えてくれたことだ。
それまで、俺は、食べることが楽しみじゃなかったからさ。
作って食べてもらう喜びも健が教えてくれたこと。
生活すること自体を嬉しくしてくれたのも健だな。やっぱり、感謝だ。
俺がもたもたサラダ作りしてる間に、カオルはスープを仕上げ、ナポリタンを作り、ハンバーグを焼いてる。
あ、フライヤーでエビフライも揚げるんだ。すげぇ、ほんと、色々皿に載るんだな~。
「出来た~!どうですか?あ、旗がないか~それが残念だ~」
家にある一番の大皿で載り切らず、俺の分は二皿になってしまった大人様ランチ。
炊飯器で炊きこんでた器で型抜きされたソーセージ入りピラフと、ナポリタンが添えられたハンバーグが一緒に載り。
海老フライとカニクリームコロッケが、俺のサラダの小鉢と一緒に載る。
別皿のスープマグに、プチトマトとコーンの入ってる野菜スープは、根菜が皆小さく角切りになってる。
「可愛いな~。こんなの見たことないワンプレート飯だよ」
「え?お子様ランチってこんなイメージでしょ?」
「ん~とね、俺、それ食べたことないんだよね、実は。名前も知ってるし絵もメニューで見たことあるような気がするし。女子とかが、「お子様ランチみたい~」ってよく、レディースセット系の見て言うのが、要は色んなものがいっぱい皿に載ってるってことって認識でいいんでしょ、思ってて。
前に健が、っぽいのを作ってくれてね、でも、あれはここまで凄くはなかったよ。そうか、これがお子様ランチなんだな、そうなんだ~」
「お店で出てくるのは、市販品使ってたりするからそんなに大変じゃないんでしょうけど
全部一から作ると大変なんだって思い知りましたよ~。だって、メインになるおかず2種類で、主食も2種類。
それに、サラダとスープでしょ。サラダは作ってもらっちゃったから楽できました。
デザートにはゼリー作ってありますからね。
運んで早く食べましょ?」
実際、すっごい美味かった。
グレープフルーツの果肉がごろっと入ったゼリーも食後にさっぱりして美味かった。
食う前に、全部並んだのを、スマホで写真に収めたもん。カオルが恥ずかしいから止めてって笑って邪魔するのを手で制してまで。
「後で、楽できるように、ハンバーグとフライ物は冷凍庫に残り入ってますから。
焼くだけ、揚げるだけで食べれるし、早めに食べちゃって下さいね。
しかし、フライヤーって凄い便利ですよね、僕、中学の頃には存在を知らなかったもの」
「あ~ごめん。俺、家電って、よくわかってないんだよね。使って何かするのは炊飯器とコーヒーメーカーと電子レンジまでが守備範囲なんだ。あ、あとトースターも使えるか。それだけ」
「食洗機を忘れてますよ。でも、使って作るってのは違うか。よ~し後片付けちゃっちゃとしてお散歩だ~」
「今日の午後は、休講にしてあげよう。その代わり、明日は朝からビシバシやるよ、勉強」
うわ~って、カオルはグッタリして見せる。
食事も、和やかに済んで。俺達は散歩に行くことにする。
散歩も久々で楽しかった。まだ残暑はあっても、目に映る植物が都会であっても徐々に秋に移行して来てるって佇まいを探すのが、健同様、カオルも達者で。
静さんは、豊かな情操教育を健にしてくれたんだなって、しみじみ思った。
「ね、佐倉さん。やっぱり、明日もお休みにして欲しいです、お勉強」
「ん~どうして?週末出かけるにはやっておかないとって言わないの?」
「お掃除、仕上げたいんですよ。あの、健との思い出の箱、元に戻すの、まだ半端でしょ?」
「え、大丈夫なの?部屋に入れる?」
てけてけてけ~って急に小走りで先に走って行って、カオルは振り返る。
「入れますよ。結界とか張ってある訳じゃないし。
ただね、ちょっと、後ろめたかったんです、健の為に佐倉さんが準備した部屋に入るのが。
……二人だけの、空間だって、思って。マンションも本当は来たくなかったんですよ。
でも、いいお部屋ですよね、佐倉さんの、ううん、佐倉さんと健のお家は。
居心地が良くて、お洒落で。佐倉さんみたいだって思ってました、ずっと」
ツキンと、何かが胸に刺さるような、切ない独特の表情でする微笑が、見えて。
すぐに、背を向けて俺の前を、早足で歩いてく。
なんだか、並んで欲しくないって、カオルが思ってるって感じて、つい、後ろを様子を伺いながら歩いた。
「ジュース買ってもいいですか?佐倉さんは何がいいですか?」
「カオルくん?どうしたの?何か……」
「あ、良いこと思いつきました。明日、僕が掃除してる間に行ってくればいいじゃないですか、大学に。
僕は、そうしたらお家中、全部、存分にできますし、明日もいいお天気ですよ。ほら」
徐々に傾いた日が、辺りをそろそろ夕焼け色に染めだす刻限。
並んで歩く気になってくれたカオルが逆光になって、夕陽を指差し俺を見上げてる。
「お散歩、楽しかったです。二人でフリーパス持ってるなんてすごいですね。
今年、殆ど来れてないみたいですし、また、近い内に来ないと損ですよ」
「俺の、誕生日の後に、健と作り直しに来たんだ。一緒の姓になったし、花見に行けなかったから
遅い桜なら見れる種類あるかなって来てさ。八重のが数本散り際のしかなくて笑った」
「それ以来なんですか。寂しいですね」
「ん。また、来ればいいじゃん。気に入ったでしょ?」
カオルは頷いて、ただただ、微笑んでくれてた。
逆光じゃなければ、きっと、気が付いただろう、表情の歪みが、俺には見えなかったのに。
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