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”29” 王子パパ meet ネコ ‐8
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薬のそれが何なのか、確かめる。
「イソミタール?……ッ!なっ、コレ!」
強い睡眠薬じゃないか?最近の健には処方されてない、重症な不眠症患者にする、ヤツ。
なんで、カオルが持ってて、飲んでる?
し、しかも錠剤?イソミタールの錠剤ってずいぶん前に廃止されてないか?
確か、粉末しかないと……いや、待てよ。
カオルの傍らに落ちていた巾着が、気になって、鷲掴みにし、逆さにしてみた。
バラバラと写真と共に、イソミタールのシートが落ちる。
……こ、この巾着、段ボールにしまった時、写真がたった5枚程度の割に、分厚いとは思ったのに、深く調べなかった。
糸で閉じてあったんだ、もう一つの口を。解いた糸が引っ掛かってる。
つまり、巾着に隠されてたのが、この俺の見覚えのない破いて接いだジグソーパズルみたいになってる健の赤ちゃんの頃の写真と、睡眠薬の束。これが、仕込まれてた。
疑うべくもない、静さんの仕業だ。
もしかして、時限爆弾装置みたいなもので、カオルはこの巾着を開ける。薬の存在を知ってたからかどうかは聞き出さないと分からないが、でも、開けるのはカオルって仕組まれてる。きっと。
だって、健は、これが遺品であるならば、ここに運んでだけ置いて、中を暴かなかったってことで。
カオルなら、疑問に思って、こじ開けることを計算してある……としか思えない。
古い睡眠薬。確実にここに空があるってことは、1シートは飲んでるってこと。
イソミタールの錠剤が廃止されたのは、中毒性の強さだよな……その上、致死量が、低い、から……。
安全性が低いそんなのを、鬱や不眠に悩み、生きることに苦しむ患者に与えることのハイリスク。ため込んで……さ、しちゃうだろ?
で、粉末もまた管理が厳しく、一度に処方される上限が決まってて、現在は殆ど処方されない……。
「カオル!カオル!!起きて!!カオルっ!お願い、起きて!!」
俺はカオルを抱き抱え、揺すり、頬を叩く。
抱き起こして少しだけ安堵する。吐いてない。呼吸も浅くだけどしてる。
でもっ、けっこうビチビチ音が出るくらい叩いてるのに、身体がガクガクするくらい揺すってるのに、力なく首が横に折れ、されるがままで、反応がない人形みたいだ。
元々肌も白いのがうす暗くなりつつある部屋の中で青白く見える。
きゅ、救急車、救急車を呼ぼう。
胃を洗浄してもらえば、いい。薬を、いつ飲んだんだ。間に合うのか?
カオルの名を叫びながら、俺は、まだ背負ったままだったバッグからスマホを取り出し、通話ボタンを押す。
119とダイヤルしなくてはならないところを、リダイヤルなんてしてしまい、切りかけて手を止める。
親父に、かけてたんだ。偶然にも、俺。
そうだ、親父に、対処法を訊けばいい。親父が「馬鹿、すぐに救急車だ!」って言ったら、かければいい。
こういう時に、役に立たないことが多い親父だが、神は居た。
「なんだ?」って、3コールめで、不機嫌そうに出てくれた!!
「お、親父、助けて!お願い!」
「オレオレ詐欺か、いきなりなんだ。ひとまず、落ち着け、馬鹿。何があった?」
親父の返しに、むっと、して……る場合じゃねェ!
ま、お陰で、パニックで白かった脳がちょっと、霧が晴れた。
「カオ、いや、健が、古い睡眠薬を大量に飲んだかもしれないんだ。ど、どうすれば……」
「何を飲んだかわかるか?」
「イソミタールの錠剤。これってバルビツール酸系で、今は……」
「ほほう、けっこう、真面目に薬理もやったんだな、お前。正解、現在日本で手に入るバルビツール酸系で一番強いな。今は粉末でしか取り扱いがない。恐らく健くんが6年前に鷲尾から頓服に処方されてたものだろうな。健くんの状態はどうだ。臨床の現場だと思って、事実だけを言え」
親父の声は揺るがず、動揺を覆い隠す医師の声だった。
「嘔吐はしていません。呼吸も浅いけど、してます。意識はありません」
「よろしい。他に気付いた点は、ないな?……お前、血迷って、救急車なぞ呼んでいないよな?」
「えっと、実は、呼ぼうとして、電話を手にしました……」
親父が深く溜息をつく。
え?な、なんで?って言うか、これは検査と治療が要るよな?
「偶然でも、私に、お前が電話をしてきて助かった。いいお笑い草になるところだった。
お前、柳心療内科か阿川マタニティークリニックに連絡しろ。あ、いい。私が連絡する。
至急、阿川マタニティークリニックに行け。話は通して置く。処置はしてくれるだろう」
「は?なんで、産婦人科に行くんだ、訳わかんねェこと言いだしやがって!黙って聞いてりゃ!」
いきなり、また、俺を相手に、こんな非常時に訳のわからないことを言い出す親父に頭に来て怒鳴りつける。ああ、こいつに相談した俺が馬鹿だった。
きっと、あれだ、大学の知人だのに、俺の管理不足が引き起こした健の自殺未遂が漏れないための工作をするつもりなんだ!
こいつは、保身の為に、健の命の危機を軽んじてやがるんだ!
「馬鹿がっ!お前、イソミタールの致死量はどれだけの錠剤を飲めばいいのかわからんのかっ!」
怒鳴り返されて、ハッとする。
あ、そうだ、たかだか1シートくらいじゃ、全然足りない。しかも……
「健くんは酒に弱い。アルコールとの同時摂取もしていないだろう?更に危険度は落ちる。
薬も古いなら、もしかして品質劣化の危険はあるが、まあ、6年程度ならそれは考えにくい。
状態から言って、健くんの薬物の過剰摂取に関し、緊急の要素は低い。
だが、処置は万全を尽くしたい。お前の大事な伴侶なんだからな。
離れている私では、想像でしか診察出来ないが、阿川さんは優秀な医師だ。私としては腕を知っている方に託したい」
「で、でも、産婦人科にいいのか?俺達が行って?」
「阿川さんは旦那様に合わせて、産婦人科医になられたが、もとは大学で心療内科の医師をしていた。私の先輩だ。
健くんの春の入院先も、実はぎりぎりまで迷った。だが、男の子をそこに長期入院させるわけにはいかないから、家で面倒見てもいいって言って下さったのをお断りしたんだ。娘さんお前と同じクラスだろう?聞いてなかったか?」
そ、そんな繋がりが~?! 全然知らなかった。
「連絡をして置く。さっさと連れて行け!」
俺は親父に礼を述べ、そそくさと電話を切る。くたりと力のない、カオルを抱き上げて、玄関へ向かった。
1シート以上、絶対に飲んでませんようにって、祈りながら。
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