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そん時は、よろしく。
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そんなこんなで、両脇であーだこーだと口喧嘩するのに40分ばかし振り回された後、
俺達はようやく賽銭箱の前まで辿り着いた。
賽銭箱の周りには大きなネットが張ってあって、賽銭箱の前まで行かなくてもお賽銭を投げれば参拝は出来るようになっていたが、“お金は投げ入れるものじゃない”という3人一致の意見で、ここまで来ることにしたのだ。
俺達はそれぞれ握り締めていたお金を賽銭箱に入れ、柏手を打った。
目をつぶって、ふと考える。
そういえば、何を願うか考えてなかった、と。
月並みで言えば、今年も健康に、とか。
そういえば、俺も今年から本格的に受験生か。すっかり忘れてた。
つーか、将来何になりたい、とか、何を学びたい、とか、そもそも就職なのかも考えてなかったな・・・。
ってか、そんなこと考える余裕無かったもんな・・・去年。
俺の生活の中心、奏だったもんな・・・
チラッと横目で奏を盗み見る。
眉間に皺を寄せて、ありったけの力を込めて神に祈ってる。
やっぱ、これだろうな、神に懇願するような俺の願いは。
“今年も奏が笑っていられますように”
俺はすっと目を開け、賽銭箱を横切り、後列の人に譲った。
先に終わっていた雪里が少し離れた所からヒラヒラと手を振ってくる。
隣には、奏も居た。
小走りで側に駆け寄り、“遅くなって悪りぃ”と謝ると、二人は“全然”と返して来た。
『さて!次はどうする?
おみくじ引いちゃう?今年の運命占っちゃう?』
『それもいいかもだけど、また並ぶのはヤダ!
それに、長い間立ってて疲れたし、お腹すいた。』
『それなら屋台で何か買って食べよっか?
座って食べられるスペースあるみたいだし!』
雪里の意見に、大賛成とばかりにはしゃぎ出した奏が、チラッと俺へと顔を向ける。
続くように雪里も俺の方を向く。
腕時計を見ると、午前10時半。
少し早過ぎる気もするが、屋台の混みようも考えるとまぁ、頃合いだろう。
俺は“そうするか”と二人に告げる。
待ってましたとばかりに奏がウキウキし出し、“クレープ屋さんはあるかなぁ?”とキョロキョロ辺りを見回し始める。
いや、ここから屋台が密集してる場所、遠いから見えないだろ・・・
つーか、あんまり一人でどっか行くなよな・・・
急にテンションが上がったからか、途端に子供っぽくなる奏を、俺はやれやれと見つめる。
そんな俺の耳元に息が掛かる。
『律。奏チャンはオレが見とくから、行ってきな?
早く行かないと無くなっちゃうよ?』
「・・・そうだな。」
そうだ。俺は今日、ただ参拝に来たわけじゃなかったんだ。
つーか、“あっち”のほうが本命だったわ。
俺は“ありがとな”と雪里に向かって微笑した。
雪里が“いえいえ”とニッと笑って返してくる。
さっきの、両手繋ぎ事件のこと、仕返しの嫌がらせすんの今日は無理だな。
分が悪いっつーか、今日は、今日だけは敬意をもって接したほうがよさそうだな。
今のところは。
俺達が立ち止まってるのを不思議に思ったのか、奏が“どうしたの?”と迎えに来てくれる。
そんな奏の肩を両手で掴み、話しかける。
「俺、行くとこ出来たから雪里と先に行ってろ。
すぐ帰ってくる予定だけど、先に何か食べててもいいし。」
『えっ!?でも』
「代金は雪里持ちだから、遠慮は要らないぞ?」
『オレ持ちなの!?』
俺の横で何か雪里が言ってるが、俺は訊いてないふりをした。
奏は“そうじゃなくて!”と自分の肩に置かれた手を振り解く。
言いたいことは予想ついてる。
でも、却下だ。
俺は“またあとでな”と言い残し、参拝者の列を横切る形で神社の奥へと進んでいった。
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